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無名呪楔  作者: 杏樹
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プロローグ1

もう何度目になるかというこの寂寥感、虚無感にまみれた脱力感と、羞恥とありとあらゆる不幸が今ここにやってきたという絶望。

信じてみようともう一度時間をかけて立ち上がり、また裏切られる悲しみ。

つまり、失恋。

勝手に期待して勝手に挫折、なんとでもいうがいい。

でも相手だって期待させるような行動をしている。

それなのにこうしてつらい思いをするのはいつも自分だけなんて、この世はどうしてこんなにも不公平なのだろう。

目を真っ赤にはらして何度も何度も鼻水を拭って薄ら赤くなった鼻をすすり夜景を恨みがましく睨む。

「どうして私が好きになった人は私を好きになってくれないの」

口惜しさと侘しさと愚かさと、積もり積もった積年の苦悩。

思わず漏れた本音は夜風に消えていくはずだった。

「それはね、君が呪われているから」

静かでいて、低く、脳に焼き付くようなハスキーボイスが壁から返ってきた。

「はあ?」

閑散としたベランダの隣部屋の壁に向かって困惑と怒りが混じった声を上げる。

「呪いって何よ!どっかの誰かが私を不幸にしたくて呪ってるって事?!」

「少し違う。君の場合は前世からの因縁というか、複雑なんだ」

「複雑な呪いだあ?そんなもので私は好きな人から愛されないって事?好きになった人はみんな離れていくし、私を裏切るし、傷つけてくるって事なの?そんな呪いなんて不確かで曖昧でわけのわからない物なんかでわたしは幸せになれないって事?!ふざけないでよ!」

「ほんとそれだ。ただ、その呪いで君は守られてるともいえる」

空気に煙草の煙が解けて舞い上がったのが見えた。

「君が好きになる人間は大概クズか性格や身内に問題がある者ばかりだ。そんな奴らに君の時間を費やすより、相手から離れてくれるならそれに越したことがない。特に君は追われるより追うタイプのようだし、ここで一転、君を追ってくれる人に目を向けてみたら?」

「そうしたところで追ってくれた人を私が好きになったらその人は私から離れていくんでしょ?!呪いだっていうなら!」

「たしかにそうだ。論破されたな」

低い笑い声が壁からかすかに聞こえてきたので頭に血が上り壁を思いっきり蹴りつけた。

ただ、スリッパ越しに思いきり蹴りつけても、華奢で筋肉も普通の一般女性の力ではびくともしないどころか、逆に足から響いた鈍痛にもだえ苦しむことになった。

苦痛の声が聞こえたのか、心配そうな声が壁から聞こえた。

「普段の君からは考えなれない行動だな。酒でも飲んでるのか?」

「飲みたい気分だったんです」

「君は酒は好まないだろう」

「盛大に酔って忘れたかったんです!」

「かといって君は理性的だ。酒に酔いつぶされるほど飲む事もしまい」

「私だって、私だって幸せになりたい、なったっていいじゃないですか…好きになった人から愛されたって良いじゃない」

止まっていた涙がまたボロボロ零れ、ぐすぐす鼻水をすする。

泣きすぎてもう頭もいたい。

「君の呪いを解く手段がないわけではない」

長い沈黙がどれくらい支配したのかわからないが、ぽつりと聞こえてきた声にうずくまっていた顔を上げる。

「今の君は普通の一般人だが、前世の君は徳の高い一角の人でね。相当強い術者だったようだ。本来なら自分で解呪する事も可能であっただろうが、今の君は弱体しすぎていて呪いに無力だ」

その言葉に打ちひしがれるが、つづく言葉が思いのほか強く響いた。

「でもだからと言ってその魂の本質が変わるわけではない。君の力は今はただ深い眠りについているだけで、きっかけさえあれば起きるはずだ」

「つまりどういうことですか?」

「君が本当にその呪いから解放されたいと願うなら、自分で解呪できるということだよ。君が望むならそのやり方を教えてあげてもいい」

「……」

顔を上げれば夜景にかすんでしまい星が見えない夜空だった。

涙が滲んだ眼ではゆっくりと舞い降りてきた雪の結晶もかすんで見えた。

じんじんと痛む鼻と耳を擦る。

「その方法、教えてください」

「君がそれを望むなら」

壁からはそう返答が返ってきた。

角坂満かくさか みつる

どんなに努力しても好意を持った相手から拒絶される、という呪いをかけられている為、孤独感を感じながら生きてきた女性。

相手から好かれて付き合っても、相手に好意を持った途端、相手の気持ちが離れたり特にひどく裏切られる為、人間不信だがそれでも恋愛に対して諦めきれずにいた。だが4度目の恋でまたしても相手に裏切られ失意のどん底中。

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