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解決編


「ようこそ皆様お集まりくださいました。この事件の真相を、この場で明らかにして見せましょう!」


 言うだけ言って、パトナは僕に目配せした。後はよろしく、ってやつだ。まぁこうなるとは思ってたよ。


 ごほんと僕は咳払いをして、集まった三人の容疑者、コアクトー、ハンヤ、ニクキリを眺めた。

 三人はそれぞれ嫌そうな顔をして僕の言葉を待っている。やり辛いなぁ。


「えーと、マネロン村長は深夜一時から三時の間に、とてつもないオーバーダメージを受けて死んでいた。それが可能な人物が、この中に一人だけいます」

「……つまり?」

「……犯人は、この中にいます」


 パトナのパスに乗っかって、僕はお決まりのセリフを吐いた。結構恥ずかしいな、これ。


「あの火力を出せる人間が、チイト以外にいるのかよ! そこの肉屋かァ?」

「俺じゃないです! アリバイがあるんです!」

「私達にはそもそも攻撃力がないんだけど」


 コアクトーとハンヤは疑わしげな目をニクキリに向けた。まぁまぁ結論を急がずに。僕は騒ぎ出した容疑者達を手で制し、


「この犯行に、攻撃力はいりません」

「はぁ!?」


 容疑者達もなんか驚きの声を発していたが、パトナの声が大きすぎてなんにも入ってこなかった。耳元で叫ばないでね。


「攻撃力がなくてもいい……? まさか、レジェンド級アイテムですか?」


 何かに気づいたらしいニクキリが呟く。察しが良くて大変助かる。


「そう。凶器に使われたのは、村長が独自にコレクションしていたアイテム――龍牙のナイフです」


 レジェンド級アイテムの力を十分に引き出せれば、本人のレベルを大幅に上回った火力を叩き出すことができる。レベルの低いコアクトーやハンヤでも犯行は可能だ。

 だがこれには一つ、問題点がある。


「俺のスキルは【鍵開け】だ。ナイフなんて使いこなせねェぞ!」

「私は【料理上手】。明らかに無理って、わかるよね」


 スキルの不一致だ。彼らでは龍牙のナイフの潜在能力を引き出すことはできない。

 ――では、ナイフでなければどうか?


「ちょっとチイト、それってどういう……」

「思い出して。ニクキリさんは、村長が何を持ってると言っていた?」

「えっと、楽器や器に、……包丁? まさか」


 そう、そのまさかだ。


「楽器で殺したってこと?」


 違うね。


「この龍牙のナイフ……本当はナイフじゃなくて、包丁なんじゃない?」


 僕はスキル【物質転移】で村長宅から取り寄せた龍牙のナイフ、もとい包丁を皆に見せた。コアクトーがなんか騒ぎ始めたが、パトナをけしかけて黙ってもらった。物理的に。


「あっ、それです、俺が聞いたのは。ナイフにも見えるけど、それは確かに包丁です」

「だよね。で、これが包丁なんだとしたら。この龍牙の包丁を使いこなせる人物が、この中に一人だけいる」


 僕は人差し指をまっすぐに、その人物に突き付けた。


「ハンヤさん。……犯人は、貴方だ」


 名指しされたハンヤは、わなわなと口元を震わせた。表情には明確な怒りが宿っている。


「貴方のスキル【料理上手】なら、この包丁を使いこなせるんじゃないですか?」

「馬鹿馬鹿しい。たったそれだけのことで、私が犯人だって言うの?」

「もちろん、これだけじゃないですよ。パトナ、君、朝に会ったときハンヤさんになんて言われてたんだっけ?」


 コアクトーにヘッドロックを決めていたパトナは、僕に名前を呼ばれて顔をあげた。


「なにって……『風呂場で大音量で歌うのやめろ』って」

「おかしいとは思わなかった?」

「私の美しい歌声を邪険に扱った点のこと?」


 違うね。


「ハンヤさんの家は遠く離れてるのに、なんで風呂場で歌う君の声を聞いているのかな」


 僕はハンヤに視線を向けた。彼女は顔面を真っ青にしながら、自分の口元を覆い隠していた。


「そ、それはたまたま……」

「たまたま? 深夜一時に? その時間は寝てたって言ってましたよね」


 ハンヤは暫く言葉を失って、助けを求めるみたいに視線をあちらこちらに彷徨わせていた。だが僕の呟きがきっかけか、程なくして力なくその場に崩れ落ちた。


「……そう。私が殺ったの。ちょっとナイフを刺しただけのつもりだったのに、いきなりマネロンが真っ二つになって。……それが包丁、それもレジェンド級のものだなんて、知らなかった」


 偶然が重なった事故みたいに言うけど、ナイフを刺した時点でアウトですからね。


「あの人が悪いの! あの人、私を捨て」

「あ、理由はいらないわ。興味ないから」


 パトナはハンヤの告白パートをばっさり切り捨てた。酷いなぁ。僕も興味ないけれども。


 抜け殻みたいになったハンヤは、ほどなくして村人達の手によってリューチジョに連れていかれた。明日にでも隣町の憲兵がやってきて、彼女を捕まえてくれるだろう。


 マネロン村長オーバーダメージ殺人事件。これにて一件落着である。




「なんか意外ね。あの女、素直に罪を認めるタイプじゃなさそうだったのに」

「ああ。僕が【精神感応】スキルで自白を促したからね」

「はぁ!? アンタそれ、最初からやり」

「探偵ごっこ、楽しかったね」


 食い気味に僕が言うと、釈然としない顔のままパトナは幾度か口を開け閉めしていたが、……やがて溜息と共にそうねと呟いた。


 そうして、とびきりの笑顔で言ったのだった。


「また一緒に楽しいこと、しましょうね!」

 



 完

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