翌日
三題噺もどき―よんひゃくななじゅうろく。
ソファに座ってぼうっとしている。
自分で言うのもなんだが、魂の抜けたような人間とはこんな風になるんだろうな。
ダラリと腕を落として、足は床に置いているだけで。
そのまま沈み込むのではないかという程に、ソファに体重をかけている。
いっそ、このまま埋め込まれてしまいたいところだ。
そうして、何もせずに、時間の流れるままに、朽ちていくだけのものになりたい。
「……」
窓の外には、晴れた空が広がっている。
まるであざ笑うように、燦々と降り注ぐ陽光。
視界の隅で何かがチカチカとしていて鬱陶しい。
「……」
リビングは不愉快なほどにジメジメとしていて、扇風機は生ぬるい空気を回しているだけ。
外からの風は入っているはずなのに、一向に涼しくならない。
ならばもう少し対策をすればいいのだけど、めんどくさくて仕方ない。
「……」
昨日帰ってきてから、心ここにあらず状態もいいところで。
帰宅するだけでも苦心したし、服を着替えられたのが奇跡という感じだ。
今の状態になっているのが、昨夜からとか言ったら驚かれるだろうか。
「……」
殆ど一日中、遊びつくして体力も限界だったのもあるだろうけど。
彼氏と同棲するから、少し遠くに引っ越すことになって、もう会えなくなるかもしれないからと、そう彼女に言われたときから。
やけに呼吸音が響いたり、心臓の音が重なったり。
腹の奥底で何かがぐるぐると回り続けていて。
「……」
吐き出しそうになるソレを何とか抑え込みながら。
彼女を、友達を、送り出した。
もう会えないかもしれないなんて。
「……」
ただの友達の1人だ。
そのはずだ。
確かに勝手に思い煩っていたかもしれないが、それはもう諦めたはずなんだ。
「……」
それを、あの日に殴り起されて。
ようやく少し落ち着いてきたところに、昨日のことがあって。
というか、よく昨日一日耐えたな。すごいな私。
「……」
なんというか、ここまで行くと。
あまりにも異常な気もするな。
我ながら。
「……」
ただ一人の友達と別れただけで。
連絡はとれるんだから、完全に別れたわけじゃないのに。
ましてや、彼女に思いを伝えた事があるわけでもないのに。
「……」
これはきっと、単なる執着でしかない。
友愛とか恋慕とか、そんな可愛いものではない。
私は、両性愛者でも異性愛者でも同性愛者でもない気がする。
なんだか、世間一般で言うような恋愛感情というのは違う気がしている。
「……」
延々と渦巻くコレは、ただの執着心だと言われた方がすっきりとする。
子供のような執着だ。
自分の大切なモノを、他の何者かが触れることに異常なほどに嫌悪を抱いているだけだ。
私にとって唯一のモノを、汚されるようで嫌で嫌で仕方ないのだ。
「……」
私は一生このままなんだろう。
何年たっても変わらないものが、今後変わるとも思えない。
今こうして何も手につかない状態になっているけど。
きっと彼女から連絡が来たら、甘えるように飛びつくのだ。
諦めたくせにと言い聞かせながら。
「……」
あーあ。
さっさと切ってしまえばいいのに。
お題:呼吸音・両性愛者・晴れた空




