表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/35

九条のオルガン

というわけで再びゲームパートです。感想欄でも指摘があったので、この当時のおしろいについてもちょっと触れています。

 さて、次の歴史改変であるコンポジット推進薬の開発をしたいのですが、最近お父様は西郷隆盛が仕方なく起こした内乱「西南戦争」が勃発していて忙しいようです。こちらからコンタクトするのは難しいので、ここはお母様と親睦を深めましょう。


「あらおはよう英梨子。今お化粧中だからちょっと待ってね」


 おや、このセリフが出ましたか。タイムロスにはなっちゃいますが、しかたないのでイベントを進めましょう。ここで「お化粧って何でできてるの?」を選択し、会話を進めると……化粧に使われるおしろいが鉛白、つまり鉛由来の成分であることがわかり、キャラクターの化学知識が十分であれば「鉛白おしろいの毒性の実証」というアイデアの存在が開示されます。

 必要物品がそろってないので解禁はできませんが、これと後に続く「鉛フリー化粧品の開発」のアイデアを実行すると皇族や華族の乳児死亡率が激減しますので、空いた時間に脚気実験後の用済みになった鶏を使って進めることにします。乱数次第では史実でちゃんと成人した人が夭折するため、チャートが崩れたり、余計な事件が起こって大幅なロスになったりしますから、ここは安定をとりましょう。


 さて、お母様と親睦を深めつつ鶏の世話をして実験技能を伸ばし、夜は父親の蔵書を読んで教養系知識──変な言い方ですけどゲーム上こう言うしかないんです──を伸ばす生活を続けていると、ようやくお父様の仕事がひと段落ついたようです。


「おお英梨子、しばらくかまってやれなくてすまなかったな。西南戦争で政府内がごたごたしていて大変だったんだ」

「そうそう、大変といえば、おまえがやってくれた鶏の脚気の話。軍や帝大でも追試験を実施してもらったんだが、英梨子と全く同じ結果が出てな。いま、帝大医学部や軍医の間では脚気の原因を巡って大論争が巻き起こっているらしいぞ」


 脚気対策が順調に進んでいると、このように「脚気の原因を巡って論争が起きている」というセリフを聞くことができます。身内の政治力が弱いと、ここから押し負けて脚気対策がパーになったりもしますが、まあ九条家の力とコネがあれば放置で問題ないです。


「何人かの先生からは、とても幼い娘が企画したとは思えない立派な実験だとお褒めの言葉をいただいている。ご褒美をあげようと思うが、何か欲しいものはあるかい?」


 そろそろ誕生日ではありますが、臨時でプレゼントをもらえることになりました。ここで「過塩素酸カリウム」を要求します。たまに蹴られるのでお祈りお願いします。


「過塩素酸カリウム? 何に使いたいのかよくわからんが……あんまり危ないことはしないようにな」


 通りました。コンポジット推進薬にはゴムと過塩素酸アンモニウムが必要だという話をしましたが、実はもう少し経たないと過塩素酸アンモニウムを日本で手に入れるのは難しかったりします。ところが、強力な酸化剤であれば過塩素酸アンモニウムそのものである必要はないので、先ほどのように今の日本でも手に入る過塩素酸カリウムで代替できるわけですね。


 この後の誕生日イベントで硬化前の天然ゴムである「ラテックス」を手に入れたら、アイデア「ペンシルロケット」が解禁されます。この時代のロケットと言えば黒色火薬の「龍勢」がせいぜいですので、脚気実験の時と違い、開発ができるのは英梨子ちゃん一人です。乱数が悪いと家事を手伝わされて中断を余儀なくされたり、実験中に事故が起きて親に怒られたり、そもそもなかなか成功しなかったりするのでお祈りを……


『ロケットはシュバッという音とともに勢いよく飛んでいき、家の生垣に引っかかって止まった。実験は成功だ!』


 え、一発!? もっと時間かかると思ってたのに、一発成功!? いや~すごいですね英梨子ちゃん持ってますねぇ~。早速お父様に報告と行きたいところですが、答えを知ってる我々現代人と違ってこれだけでは何がすごいのか明治の人はわかりません。なのでここからは少し工夫が必要です。本当は実験作業と並行して行うつもりだったのですが仕方ありません。夜にお父様が帰ってくるのを待って……「お父様は戊辰戦争で旧幕府軍と戦ったって聞いたけど、本当?」


「戊辰戦争か……あれを戦ったといってよいのかはわからないが、一応その場には居たよ」


 はい、お父様に九条道孝を選んだ大きな理由の1つがこれです。彼は戊辰戦争の時、奥羽越列藩同盟との戦いに新政府側の総督として参戦していたんですよね。なので、親から直接(いくさ)の話を聞くことができ、そこから軍に関心があることアピールすることができます。封建的な家系ですと、男尊女卑的な理由でやめるように諭されるのですが……


「……そうか、なんで唐突に脚気に関心を持ったのかと思っていたが、軍で脚気が蔓延している話を聞いたからなんだな」

「うん。兵隊さんたちを助けたくて……」

「そうか……そこまで兵隊さんたちを想う気持ちが強いなら、もう何も言うまい。これからも、何か軍のためになりそうなことを思いついたら、お父さんが話し相手になってあげよう」


 九条家は明治基準だとリベラルな家庭なので、このように娘のミリヲタ趣味を許容してくれます。おそらく、史実では三女が野山で遊びまわって真っ黒に日焼けしていても許したり、四女が京都女子大の前身の創立者になったりしたのが評価されているのではないでしょうか。

 さて、「ペンシルロケット」実行によって開示されたアイデアの中から「多連装ロケット砲の提案」をいよいよ実行していきます。必要物品の種類は「ペンシルロケット」と同じなので、縮小模型を作って有用性をアピールするアイデアのようですね。昼間じゃないと実験ができないので、日曜日にお父様がいる時間を見計らって「お父様、こういうの作ってみたんだけどどうかな」


「おっと! こらこら、筒が人やよその家に飛んで行ったら危ないぞ」


 怒られてしまいましたが、まだ話は聞いてくれそうです。何とか説得してみましょう。


「……わかった。そこまで言うなら、今陸軍士官学校に行ってる弟に聞いてみるよ。そのかわり、もうこういう危ない実験はしないこと。いいね?」


 んー、まあ悪くないですね。これで道孝が弟の鷹司煕通に多連装ロケット砲の概念を伝えてくれます。彼自身は軍人としては平凡ですが、人望があるので、この情報を同期の優秀な軍人につないでくれるでしょう。再度危険な実験をするとお父様からの好感度が急落してしまいますが、この後チャート通りに進めばなし崩し的に認めてくれるようになりますので、問題ありません。

 さて、多連装ロケット砲の話がひと段落したらせっかく解禁したアイデア「鉛白おしろいの毒性の実証」を実行しましょう。お母様からおしろいをわけてもらい、玄米で育てられている元気な鶏の一部におしろい入りの餌を与えると、当たり前ですが、やがて鉛中毒で死んでしまいます。データは取れましたので、まずはお母様に報告しましょう。


「あらまあ。でも、おしろいって食べ物じゃないでしょう? 食べ物じゃないもの食べたら病気になるのは、当たり前のことじゃない?」


 至極まっとうな意見ですね。「でも赤ちゃんはそんなことわからないし、なんでも口に入れたがるでしょ?」


「そういわれてみれば確かに……お乳をあげるときのことも考えると、赤ちゃんの世話をする人には、おしろいをさせない方がいいのかもしれないわね」


 とりあえず、これで九条家では乳母や産婦が鉛白おしろいを使わなくなります。世間一般に通達するには、やはり陛下経由でしかるべき研究機関に追試をしてもらう必要があるので、お父様にも報告しましょう。


「あ、英梨子、ちょうどいいところに来てくれた。今弟に手紙を書いているところなんだが、こんな感じで大丈夫か?」


 「4歳児に手紙の校正を頼むお父さん」という完全にバグった構図ですが、救国の輪廻では日常茶飯事です。快く校正しましょう。


「……じゃあ、この内容で送っておくからな」

「しかし、英梨子は次から次へとよくいろいろ思いつくな。赤ん坊のころからいろんなものに興味を示す子ではあったが、去年からは興味を持つだけじゃなくて実際にやるようになってしまうとは……脚気といい噴進弾といい、そういう知識はどこから仕入れてくるんだ?」


 おっと、このセリフが出ますか。これは悩みどころですね。

こんな矢継ぎ早に新しい概念を次々と叩き込まれる九条道孝殿の明日はどっちだ。


少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「アイデアを実行すると皇族や華族の乳児死亡率が激減」 「乱数次第では史実でちゃんと成人した人が夭折する」 なんという……(白目)親王内親王の人数が謎に変わらないことを祈るのみ。 まぁ、私が言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ