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【ドラマパート】急に決まった欧州行き

お父様が急にいなくなったところのドラマパートです。結構無理やりな展開になっていますが、ゲーム的な展開を何とかそれっぽく取り繕ったAAR的なものとしてお受け取りください。

 1881年8月、天皇に同行して大隈重信らが東京を発ったタイミングを見計らって、政府内では大隈を排除するための策謀が動き出す。


「大隈殿は……少々やりすぎました。いたずらに民心をあおり、時期尚早な国会開設を主張し、今の日本人にはそぐわないイギリス式の政治様式を導入しようとしています。このままでは円滑な政権運営が阻害され、進むものも進まなくなってしまうでしょう」


 伊藤博文の部下である井上(こわし)はこのように述べ、この世界線では存続している侍補たちにも大隈排斥の同意を求めた。


「その通り。我が国の憲法は君主権の強いものであるべきだ。大隈は自由民権論者の言うことを鵜呑みにし、福沢の代弁者と化している」

「一民間企業でしかない三菱ともつながっていることも見逃せないだろう。開拓使官有物を払い下げる話が新聞に漏れたのも、三菱、大隈、福沢が共謀したことによるものだ。彼らは現政権を揺さぶり、自分たちに有利な政府を作ることしか考えていない」


 侍補の佐々木高行と土方久元が毅に同調する。彼らは天皇親政を熱心に主張しているため、前々から大隈のことは苦々しく思っていた。ゆくゆくは今の政府を上回る権勢を得て、天皇陛下御自ら内政を取り仕切っていただこうと考えているが、自分たちの庇護者である大久保利通が暗殺事件を生き延びているため、史実の中正党のような余計に政治情勢を引っ掻き回すような行為はしていない。


「九条殿も賛同していただけますか?」

「うーむ……まあ、大隈殿に参議を辞めていただくことについて反対するつもりはないですね……」


 道孝は大隈の排除そのものには消極的に賛成するものの、理由として挙げられている「福沢諭吉や三菱財閥との癒着」については疑問に思っていた。

 このころの福沢は自由民権運動の高まりについて

「不平士族に乗っ取られてただの反政府運動に堕しがちであるのを見るに、国会開設は時期尚早である」

と批判的に述べていることを、娘の英梨子との会話をきっかけとして調べていたし、採算が取れない炭鉱の払い下げを妨害することで三菱にどのような利益があるのか、いまいちピンとこなかったのである。


「……ありがとうございます。他の皆様もよろしいですね?」


 道孝が積極的に反対意見を唱えなかったこともあり、伊藤派は侍補の同意も得て史実通り明治十四年の政変を実行できた。リベラルな大隈を政府内から排除し、閣僚の意思統一が容易になったわけだが、ここからが史実と違うところである。


「ええ? 私がオーストリアに、ですか?」

「はい。天皇陛下が『国会の開設を確約するのなら、九条を欧州にやって、憲法を本格的に勉強させてこい』と仰せに」


 伊藤が大隈に辞職を勧告しに行ったころ、大久保は御前会議で道孝を欧州に留学させることが決まった旨を本人に伝えた。


「そうですか……わかりました。どこまでお役に立てるかはわかりませんが、謹んでお受けいたします。しかし、大隈殿の辞職を決定する御前会議で、なぜ国会を開設することが決まったんですか?」


 風が吹けば桶屋が儲かるような話である。そのため、大久保はなぜ「桶屋が儲かる」ことになったのか説明を始めた。


「私の主導する政治体制が続いていてただでさえ国民の不満が高まっているのに、人望がある大隈君を辞めさせるのです。また内乱が起きかねないので、9年後に国会を開くことを確約し、国民をなだめることにしました。もともと、大隈君は早期の国会開設を主張していましたから、彼を完全にないがしろにするわけではないという意味も込めております」

「そういうことでしたか……まあ、いずれやらなければいけないことでしょうから、やるきっかけができたと考えて取り組むこととします」


 この口ぶりだと、国会開設の確約は参議の中でのみ議論されていたのだろう。ただ、侍補にも根回しをしていたら、熱心な天皇親政論者である佐々木と土方がうるさかったかもしれないから、まとまる議論もまとまらなかった可能性があった。まあ準備期間は9年もあるし、その間に彼らも妥協してくれる憲法と政治制度を作り上げればよいだろうと、道孝は思いなおす。


「ありがとうございます。急に決まったことですから、陛下からは最大限の便宜を図るように仰せつかっています。何か必要なことはありますか?」

「それでしたら……あ、弟の鷹司煕通を一緒に連れて行かせてください。彼はドイツ留学の経験がありますし、軍人でもありますから、いろいろ役に立つと考えます」

「わかりました。大山君には私から伝えておきましょう」


 唐突に鷹司も巻き込まれることになったが、史実の伊藤博文と藤波言忠を足して2で割らないような役割を、道孝が担うことが急遽決まったのだった。




 翌日、大急ぎでまとめた荷物を使用人と一緒に持って、道孝らは家から出発しようとしていた。正室の和子をはじめ、一家総出でのお見送りである。各々が思い思いの言葉をかけ、道孝を励ましていた。


「……」


 そんな中、英梨子は一人、神妙な面持ちでじっと父のことを見つめている。父の栄達はもちろんうれしいが、同時に過大な苦労を押し付けてしまったような気がして、申し訳ない気持ちになっているのだ。いろんな無理を聞いてくれた今生の父に、数か月は会えないであろう心細さもある。道孝もそれを察しているのか、ほかの家族とのやり取りの合間に、ちらちらと長女の方を見ていた。


「……お父様」


 やがてかける言葉を考え終えた英梨子が、道孝に声をかける。


「なんだい?」

「私のわがままにお付き合いいただいたばっかりに、ご苦労を掛けさせてしまって申し訳ありません。そのうえで、厚かましいとは思いますが、旅の無事と、留学のご成功をお祈りしております」


 そこまで言い切ると、英梨子は深々と頭を下げた。


「……ふふ、なんかまるで他人を送り出すみたいじゃないか。別に、いつも通り見送ってくれれば、それでいいんだよ」


 少々困惑した様子で道孝が苦笑する。


「それでは、いってきます」

「……いってらっしゃいませ」


 父の後姿を、長女はぎこちない笑顔で見送った。

少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。


この話を読んでくださってる方はみんな知ってると思いますが、もっと後の時代を舞台にした架空戦記も書いてますのでよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n1453gs/

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