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空気からパンを作る

大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。そろそろ更新を再開しようと思います。

今回、化学用語が大変多めになってしまいました。脚注を手厚くしましたので、適宜参考にしていただけると幸いです。

 時間を進めていくと、1880年3月に「準現代型多連装ロケット砲」が完成しました。村田銃と同期ですね。ここで少しチャートの順番を入れ替えることにしましょう。一般的にはこの後「無煙火薬」か「D爆薬」の研究を行い、英梨子個人の名誉点を上げてから「ハーバー・ボッシュ法」の研究を東大に依頼します。ですが、お父様が侍補になっているので、名誉点を稼がずに「ハーバー・ボッシュ法」の研究を東大に依頼できそうです。購買部に行って、鉄、アルミナ、酸化カリウムを購入すると、英梨子の化学工学知識であればアイデア「ハーバー・ボッシュ法の基礎実験」が解禁されます。このアイデア、進行度の進みがやたらと遅く、設備が整っているところにいないと進まないので、引き続き体調を管理しながら慎重に出勤しましょう。両親とのコミュニケーションも忘れずに行ってください。


 アイデアを実行している間無言になるわけにもいかないので、現実のハーバー・ボッシュ法について説明させていただきます。ハーバー・ボッシュ法はドイツの化学者フリッツ・ハーバーと、技術者のカール・ボッシュおよびアルヴィン・ミタッシュによって見出された、アンモニアの工業的製法です。高温高圧にした水素と窒素を触媒──アイデアを実行するために購入した、鉄、アルミナ、酸化カリウムのことですね──によって直接反応させ、アンモニアを合成します。今日のアンモニア工場でも、このハーバー・ボッシュ法をベースにした製法が採用されているようですね。つまり、この1911年の発明は現代でも基本的な部分は通用する発明なんですね。そうなると、1880年に技術実証をしようとしている今のチャートのすさまじさがお分かりいただけるでしょうか。史実では触媒の選定にむちゃくちゃてこずったようですが、転生者である主人公が正解を知っているので年単位の時間はかからないでしょう。


 というわけで2か月以上かけてようやく「ハーバー・ボッシュ法の基礎実験」を完了させました。きちんとした設備を使って、正しい触媒を使い、正しい条件で反応させれば、窒素と水素からアンモニアを合成できることを証明したということです。

 ただ、これではまだ「可能であること」を示しただけで、実用化はされていません。ゲーム的には、技術ツリーの化学分野にある「ハーバー・ボッシュ法」が、前提条件や先行研究ペナルティを無視して研究できるようになっただけですので、改めて研究を行う必要があります。お父様経由で東大に研究を依頼しましょう。


「アンモニアを工業的に作る方法が見つかったって? ……それはつまり、どういうことなんだ?」

「なるほど、火薬と肥料の原料を大量に作れるのだな。それは確かに東大でやる価値がありそうだ。すぐに関係者との打ち合わせを準備しよう」


 うまくいきました。本来この方法は乱数の影響を気にしなくてよいTASで使われるもので、RTAでは役職なしのお父様だと提案が通りにくいため、使わないか、セーブ&ロード前提のルートなんですね。ハーバー・ボッシュ法は火薬と肥料のコストを強烈に下げる効果がある分なのか、オストワルト法より研究難易度がだいぶ高く設定されているため、東大に研究を依頼するには結構な名誉点を要求されてしまいます。侍補お父様すごいですね。意図的に起こす方法がわかったらさらにタイムが縮みますよ。


 空いた工数を使って次のチャートに行ってしまいましょう。例によって購買からフェノール、硝酸、硫酸、アンモニア水を購入してアイデア「D爆薬」を実行します。火薬系のアイデアはたまに事故ってけがをするのでお祈りをお願いします……成功しました。ケガしませんでしたね。このまま技術ツリーの方の「D爆薬」の研究に従事したいと思います。例によって英梨子だけだと稼働時間が確保できないため、火薬製造所にいる桂さんと稲葉さんにもご協力いただきましょう


 例によって学校と工廠と家をぐるぐる回るので、「日本なら下瀬火薬じゃないの?」という疑問にお答えしたいと思います。確かに下瀬火薬、つまり「ピクリン酸火薬」を使用するルートもあるのですが、ピクリン酸炸薬はこの時代に開発できる火薬の中では最強の威力を誇る代わりに、兵器が勝手に失われる事故率も高く設定されていて、なんでか徹甲弾の貫通力が下がるデメリットもついています。また、D爆薬では若干の威力減少と引き換えに、ピクリン酸炸薬の持つ高い事故率や装甲貫通力の減少といったデメリットが解消され、さらに技術ツリーでの研究難易度がピクリン酸火薬よりも低く設定されていますので、今回のチャートではこちらを採用いたしました。

 また、「D爆薬」を「無煙火薬」より先に研究する理由は、多連装ロケット砲の威力を向上させるためでもあります。無煙火薬はロケット砲や小銃を含む全ての火器の性能を底上げしますが、その修正率自体は多くありません。対して、D爆薬は榴弾を撃てそうな兵器のみが効果対象ですが、攻撃力の修正率は無煙火薬やその前の黒色火薬よりはるかに高く設定されています。そのため、時代に対してオーバースペックな火力を持つ準現代型多連装ロケット砲にD爆薬の補正を乗せると、無慈悲なロケット弾の雨でソウルを火の海にすることができるのです。


 オストワルト法、ハーバーボッシュ法、D爆薬、無煙火薬といった技術は、いずれもこの先の戦争を優位に進めていくには不可欠なものであり、現代では理系の高校化学の範疇で学習する内容だったりもします。だから、高校化学の内容を完璧に学習するために、化学五輪の出場経験が必要だったわけですね。

※空気からパンを作る

作中に登場する「ハーバー・ボッシュ法」を端的に言い表す有名な言葉


※鉄、アルミナ、酸化カリウム

これらのうち、主触媒が鉄、助触媒がカリウムであり、アルミナは触媒が物理的に崩壊しないように担持する役割を担う。現代では助触媒に酸化カルシウムを併用するとより反応が促進されることがわかっており、現代のプラントは1910年当時よりもだいぶ効率は上がっている。


※1911年の発明

原理自体はもう2、3年前に出来上がっていたようだが、上記の鉄触媒を使ったプラントが稼働し始めたのが1911年であった。


※オストワルト法より研究難易度がだいぶ高く設定されている

ハーバーボッシュ法の反応条件は温度こそオストワルト法の7割程度だが、圧力を100倍程度に加圧することを要求してくるため、プラントの設計難易度に圧倒的な差がある。


※桂さんと稲葉さん

東京砲兵工廠火薬製造所の監務「桂盛業」と同所付「稲葉尚秀」のこと


※徹甲弾の貫通力が下がるデメリット

砲弾が装甲に命中した時、遅延信管によって起爆されるよりも前に、衝撃で早爆してしまうことを再現している。D爆薬はピクリン酸よりはるかに衝撃に対して鈍感であるため、このような現象は起こりにくい。


※技術ツリーでの研究難易度がピクリン酸火薬よりも低く設定

ピクリン酸をそのまま砲弾に充填するばあい、砲弾と化学反応を起こすなどの問題があるため、創意工夫の上で細心の注意を払わなければ撃った瞬間砲内で爆発(腔発)する砲弾ができてしまう。D爆薬ではそこまで神経質になる必要はない。


※オストワルト法、ハーバーボッシュ法、D爆薬、無煙火薬といった技術は(中略)現代では理系の高校化学の範疇で学習する内容だったりもします

正確には、D爆薬ことピクリン酸アンモニウムは高校化学で習わない物質である。そのため、D爆薬のアイデアのみ、化学だけでなく軍事の知識も要求されている。このための「経験:ウォーゲーム」である。


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― 新着の感想 ―
[一言]  TLのまとめで、窒素系の科学の発展の歴史見て、結構すごい革命だったんだなと思って、改めて読んでみると、この幼女、武器爆薬の開発比率多い。この世界の後世だとなんて呼ばれるんだろう?東洋の魔女…
[気になる点] なんで「通常のRTAだとセーブ&ロードを駆使してでもハーバーボッシュ法を優先させないのかゾ?」とか「通常のチャートだとハーバーボッシュ法に着手出来るの今回の走りと比べてどれぐらい遅くな…
[一言] >無慈悲なロケット弾の雨でソウルを火の海にすることができるのです。 「アイゴー!九条のオルガンニダ~!!」 「なんでや!朝鮮関係ないやろ!!」 まぁ先に火の海になるのは定遠と鎮遠じゃないか…
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