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50.『おねえさん』と一件落着

 音と衝撃を感じなくなったから、ゆっくり目を開けてみる。

 正直すごく長い時間に感じた。そのくせ細かいことは何も感じ取れなかったから、途中で意識を失ってた気もする。ちなみにイチコは僕にもたれかかって、どう見ても確実に気絶してる。

 でも視界に映る僕の手はしっかりマントを掲げていた。弁慶の立ち往生でなければ意識はあったようだ。


 おっかなびっくり、でもないけど、ゆるやかにマントを下ろす。

 向こう側に見えたのは腰に手を当て仁王立ちするおねえさんと、縦の高速道路。これを『上から地面にブッ刺さす』っていうのが、どうにも頭になじまない。タケノコみたいに『地中から生えてきた』方がイメージしやすい気さえする。

 そんな、さんざん理解不能を見せられても更新してくるおねえさん。理解不能なまま「でもまぁこの人なら」と思わせてしまうおねえさん。

 正直健全なのか分からない安心感と信頼感に満ちたいつもの仁王立ちが、



「私は何をしてるんだろう」



 その横顔が、なぜか今は小さく見える。つぶやいた声のボリュームと合わせるように。

 でもそこからの切り替えが早いのが、おねえさんが『おねえさん』たる()()()

 彼女はニッコリ笑顔を僕らへ向ける。


「さ! チャッチャとずらかっちゃおうか!」


 子どもには決してそういう部分を見せたがらない、彼女がオトナである()()()


 遠い。いつも向こうからは寄り添ってくれるのに、こちらからは遠い。

 太陽は毎日地球を照らしてくれるのに、地球からは太陽に何も届かない。


 その距離が悲しくて、寂しくて。手を伸ばしたいけれど僕にそんな手段はなくて。

 今はただ、合わせることしかできなかった。


「ずらかるって」

「だって警察来ちゃうし、ヤヤコシイじゃん。事情聴取されたくないし、正当防衛証明されるまで勾留されるのもヤだし」

「えぇ……」

「それにメロ。警察の事情聴取どうするの」


 おねえさんはマントをメロの傷口に押し当てて止血する。


「『宇宙人年齢不詳・職業軍人』って供述するの? エスパーク星まで戸籍謄本取りに行く?」

「いや、それは」

「とりあえずはヒョウブのところにでも上がり込もうか。おねえさんはメロを安静に運ぶから、イチコちゃんは任せていい?」

「ま、待って!」

「騎士なんだからお姫サマくらいなんとかしないと」

「騎士じゃないしイチコを運ぶのは別にいいよ! でも、博士のところじゃなくて病院だろ!? 二人ともすごいケガしてるのに!」


 お腹を抉られたメロはもちろん、おねえさんだって顔の半分以上は血で肌色が見えない。

 だというのに彼女は()()()()()()表情をする。痛みはないのか。


「だからこそでしょ? 宇宙人を人間の病院に連れていったら、それはそれは大変なことになるよ?」

「それはそうだけど、おねえさんは!」


 僕の熱弁する姿に、おねえさんは()()()()と笑った。流血してさえいなければ、いつもどおり憎たらしいことこのうえない笑顔。


「おねえさんのこと心配してくれるの〜?」

「あーもう、茶化すな! そのケガで言われたら、違うって言うに言えないだろ!」

「あっはっはっ!」


 彼女は心底愉快そうに笑う。ケラケラ笑う。その振動で血の滴がポツポツ落ちるから正直控えてほしい。


「大丈夫大丈夫! こんなの赤チン塗っときゃ治る! 『もうすでに赤いだろ』って? あっはっはっ!」

「何がおかしいんだよ! 頭打って壊れたのか?」


 我ながら辛辣な言葉だとは思うし、あえてそういうのを選んでる自覚もある。でも案外、おねえさんは僕がすなおに悪態つくとうれしそうだったりする。

 自分の気持ちを繕ったり偽ったりするよりは。


「『おねえさん』は少年少女の憧れだからね。マネしたくなるくらい健康体なんだよ」

「健康ってレベルじゃないだろ」


 相変わらず微妙に意味が分からないことをおっしゃる。むしろ頭打って壊れるべきだったんじゃないのか?

 微妙に? 微妙って思ってる時点で僕ヤバいか?


 でもやっぱり、少し安心する。

 我ながら細かく覚えちゃってるもんで。さっきまで戦っていたおねえさん、お決まりの『「おねえさんはねぇ」名乗り』はあった。

 でも相手に


「あそこから立ち上がってくる、普通?」


 って言われても、返事は


「ナメんなよクソガキ」


 だった。

 いつもなら「『おねえさん』だぞ」なんて胸張って、あり得ないことぶち上げるはずなのに。そりゃいつもと相手が違うとかいろいろあるだろうけど。

 でも、普段の言葉遣いだけじゃなくて変Tや耳飾り。自分のルーティン的なもの。いや、違うな。


 僕の前では決して『おねえさん』像を崩そうとしない彼女が、いつもと違う。


 それがとても気にかかっていたから。


 なんだか、いつかの雨の日の、むき出しの一人のような、切実な何か。

 言葉にできない何かがある気がしたから。


 なんだろう。

 僕はおねえさんに『おねえさん』を見ている。

 だから本当の彼女を知りたく思っているようで、被り物の下が見えるのを恐れている。

 というよりは、直視する覚悟がないんだ。遠いと悲しむクセに、近づくチャンスがあると戸惑っているんだ。

 アイドルのプライベートを知りたがるファン。ギャップがあると喜ぶファン。でも理想像は崩されたくないファンのように。


 何がそうさせるんだろう。

 ただ今までおねえさんに助けられて、万能の幻を持っているだけなんだろうか? そんなものを守りたくてドギマギしてるんだろうか?


 違う気がする。

 もっと僕は違う部分で、深い部分で。

 何か()()()()()()()()()()()()()()恐れている気がする。


 思考は唐突に切られる。


「ほら行くよ。時間ないよ」


 サイレンの音が鳴り出したので、僕らはとにかく場をあとにした。



 聞きたいこと、でも聞きたくないこと。

 それはまたの機会になったのだった。

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