【続編】 第3話 城下町
「さあ、着いたよ。ステラ」
「は、はい……」
揺れていた馬車が停まり、レオン様から声をかけられ我に返る。昼休みにレオン様から放課後デートの誘いを受けた。そこまでは良かったのだ。問題はその後にレオン様が発した。録音魔法と録画魔法についてである。
卒業パーティーで私は王侯貴族の前で醜態を晒した記憶は新しい。その所為で少し録音魔法と録画魔法が苦手になっている。事前に報告してくれるのはせめてもの配慮であろう。レオン様との思い出を記録として残せることは正直嬉しい。しかし、自分が被写体になるのは遠慮したいのだ。苦手なものは苦手である。今度はどんな醜態を晒すか恥ずかしいのだ。
放課後のデートについて考えていた為、午後の授業は上の空になってしまった。王太子殿下の婚約者としてはあるまじき行為だ。
「ステラ? 如何したのかい? 馬車に酔ったのかい?」
「いえ……その、やはり録音魔法と録画魔法を止めていただこうかと……」
レオン様が歯切れの悪い私に声をかける。その優しい声に甘えて、私は本音を伝えることにした。彼には隠し事はしたくない。
「……そっか……。ステラは嫌だったのか、気付かずにごめん……」
「あ、あの……レオン様……」
本音を告げると、レオン様の表情が曇る。先程までの明るい雰囲気から一変し、声に覇気がなく。傷付いた様子に罪悪感が募る。私はどう声をかけていいのか分からず。言葉を探す。
「ステラとの思い出を残しておきたかったけど、仕方がないね……」
「うっ! うぅ……その……録音魔法と録画魔法のどちらかでしたら……」
儚げなレオン様の表情に耐え切れなくなった私は妥協案を告げる。愛しい人の顔を曇らせるなどこれ以上は耐えられない。
「本当かい!? じゃあ、録画魔法だけ使うことにしよう! それだったら大丈夫かい?」
「は、はい……」
私の言葉に顔を輝かせるレオン様。笑顔が眩し過ぎるのと、可愛すぎて浄化されそうになる。可愛くて愛しい彼が楽しいならば、私はそれ以上を望まない。レオン様の幸せが私の幸せだからだ。
「じゃあ、制服デートを始めよう」
「はい」
馬車の扉が開き、レオン様が手を差し出してくれる。その手を握り、馬車から降りた。
「さて、何処から見ようか? 他の学生からの情報によると、美味しいクレープ店があるらしいのだけど……」
「あ、あの……レオン様……」
レオン様は何処に行くかを考えているが、しかし私はある疑問により頭の中がいっぱいになる。この状況を如何にかしたくて、彼の名前を呼ぶ。
「ん? 如何かしたかい?」
「馬車から降りましたのに。何故、まだ手を繋いでいらっしゃるのですか?」
振り向いたレオン様が爽やかに首を傾げた。私は疑問をそのまま告げた。私の右手は未だにレオン様に繋がれている。馬車を降りたのに手を握る必要はない。
「ん? ステラは『恥ずかしがり屋さん』への対応の方が良かったかい?」
「……っ!?」
右頬に顔を寄せると、レオン様が甘い声で囁く。彼が言う『恥ずかしがり屋さん』への対応とは、横抱きにすることである。学園の中でも羞恥心から血が沸騰しそうになっているのに、城下町でそんな姿を晒すなど出来ない。
「僕としては『恥ずかしがり屋さん』としてデートでも構わないよ? 寧ろその方がステラの本音が聞けて嬉しいな」
「……こ、このままでお願いします」
悪戯っ子のように笑うレオン様を可愛いと思うのは、惚れた弱みだろう。私は繋いでいる手に力を込める。
「ふふっ、迷子防止も兼ねているから、絶対に離しちゃ駄目だからね?」
「はい」
私の返事に満足そうにレオン様が微笑むと、歩き出した。