【続編】お誘い①
『冷血悪役令嬢は婚約破棄されたい~ヒロイン未登場ですが、断罪タイムが始まりました?!~』をお読みいただきましてありがとうございます。
続編が出来ましたのでお読みいただけましたら幸いです。
「今日は良い天気だね。ステラ」
「は、はい。そうですね……レオン様……」
麗らかな昼休み学園のガゼボにて、私は両手で顔を覆っている。今日は良い天気であるが、私の視界は真っ暗闇だ。風は冷たいが、身体は火が出るのではと思うぐらいに熱い。その原因はレオン様にある。
私は現在、レオン様に横抱きにされているのだ。
右側にはレオン様の温もり、左肩にはレオン様の手。更にお腹から腰にかけてレオン様の腕が回っている。この体制は先日行われた先輩方の卒業パーティーでのやり取りをしっかりと有言実行しているのだ。レオン様と一緒に居る時には、この横抱きの体制にするということに端を発する。
流石に常に横抱きの状態では私の心臓がもたない為、追加で二人だけの時という限定をさせてもらった。だが、あまりその追加のお願いは効果を発揮していない。
現在は学園の昼休みであり、ガゼボには私とレオン様だけである。つまり横抱きをする条件に当てはまるのだ。しかし他の学生達が遠くに見え、私達の姿を見ると拝むのである。レオン様が可愛いらしく拝みたい気持ちは分かるが、私が居ない時にして欲しい。私は只の悪役令嬢なのだ。
兎にも角にも、大変恥ずかしい状況である。そんな私がとれる行動は顔を覆うという、細やかな抵抗だけだ。
「手で顔を覆っていたら、折角の良い天気が見えないだろう?」
「いえ……その……お構いなく」
私の右側から甘く優しい声が響く。その誘惑に負けそうになるが、僅かな理性で何とか耐える。此処で負ければレオン様の思惑通りになってしまう。
「ステラ?」
「ひゃっ! レオン様っ!?」
視覚情報を遮ったのがいけなかった。私の右耳に殿下が囁く。私は思わず、小さく飛び上がるとレオン様へと抗議の声を上げた。
「ふふっ、やっとステラの可愛らしい顔を見ることが出来た」
「……う、うぅ……この体制でなければ、顔など幾らでもお見せいたしますのに……」
花が綻ぶように微笑むレオン様に言葉が詰まる。私は唸り声を発した後に、さりげなくこの状況に対しての打開策を口にした。
「それは駄目だよ。僕の可愛くて素敵なステラは恥ずかしがり屋だ。以前のような誤解はさせたくない」
「レオン様……」
私の提案は優しく否定された。レオン様が言う『誤解』とは、私が本音を話さずに婚約破棄をされようと思っていた件である。私はこの世界において正しく悪役令嬢である為、ヒロインが登場すれば去らなければならない。しかし先日の卒業パーティーで、レオン様の気持ちを知り。私もその思いに答えた。私は悪役令嬢だがレオン様と共に居ることを受け入れたのだ。そのことに後悔は一切ない。
「…………」
「え?! レオン様!? 何をなさっていらっしゃるのですか!?」
目の前のレオン様は私を膝から降ろすと、神妙な面持ちで私の前に傅いた。王太子殿下が婚約者とはいえ、公爵令嬢に傅くのは体裁が悪い。私はベンチから立ち上がる。
「ステラ、如何かそのままで聞いてくれないか?」
「うっ、わ、分かりました……」
真剣な表情のレオン様を前に私は何も言えなくなる。彼の指示通り、ベンチに再び腰かけた。レオン様の表情からして、とても重要な内容であることが予想すること出来る。一体どの様な話だろうか、緊張しながら彼の行動を見守ることにした。