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④ やらかす!!

 

「……っ、ふぇ!? な……な!」


 抗議の声を上げたいが、囁かれた言葉に驚きと混乱を極め奇声しか発することが出来ない。人は本当に驚くと声が出ないといのは本当のようだ。触れていないのに、右耳が燃えるように熱く感じる。


 落ち着く為に殿下との距離を置こうとするが、彼の腕が腰に回っておりそれは叶わない。


「僕だけ君の本音を聞いていたのでは、公平ではないだろう? 本音を伝えようと思ってね」


 王太子殿下は私の慌てる姿に微笑むと、悪戯っ子のように笑った。その仕草が子どものようで大変可愛いらしい。殿下の本音を聞けるのは嬉しいが、伝え方に問題がある。可愛い殿下からダイレクトに愛の言葉を伝えられて、正気を保てる自信がないのだ。


「そ、それなら……ふ、普通に伝えていただければ……」

「ん? 僕はイヤリングから聞いたよ? 同じ状況にするべきじゃないかな? 先程、『ずるいです!』と言っていただろう?」


 力を振り絞り、私は殿下に抗議の声を上げる。本音を伝えるという配慮をしてくれるならば、方法にも配慮をして欲しかった。精一杯睨み上げるが、きっと今の私は茹でたタコのように真っ赤な顔をしていることだろう。


 私の言葉に首を傾げると、殿下は再び私の右耳へと口を寄せる。


 確かに殿下が指摘するように、私は『ずるいです!』と口にした。しかし、それは私が殿下の本音が聞けないことについてではない。殿下が一方的に私の本音を知っていることに対しての発言だった。更にいえば、その時点ではイヤリングの機能を聞き逃し、己に非があるとは知らなかったのだ。


 間違っても、殿下の本音を耳元で囁いて欲しいという催促の言葉ではない。


「うっ……。ろ、録音をしているのは良くないと思います」


 殿下の吐息と甘い声色が、くすぐったくて仕方がない。力が抜けそうになる脚に力を入れる。私の本音を王太子殿下に聞かれてしまったのは、私の不注意によるものだ。しかし、それを録音するのは如何なものだろうか。不当を訴える。


「何故だい? ステラから贈られた言葉をとっておくのは僕の義務だよ?」

「くぅ……」


 きょとんと、美しいエメラルドグリーンの瞳を瞬きする。反論を口にしょうにも、

 こんなに可愛い顔で言われたら何でも許してしまう。王太子殿下の勝訴である。


「……悪役令嬢なのに……」


 こんなに思われているが、私は所詮悪役令嬢である。殿下の言葉に舞い上がってしまったが、幸せになれる筈がないのだ。それが悲しくて悔しくて仕方がない。殿下の顔を見ているのが辛く、顔を逸らした。

 彼に選ばれて共に居ることが許されない存在、それが悪役令嬢である。何故、私は悪役令嬢なのだろう。私は思わず、理不尽さに小さく呟いた。


「『悪役令嬢』?」


 先程までの明るく優しい声から一変し、殿下の声がワントーン低い音へと変わる。彼の急激な変化に、思わず顔を向けた。


「誰がステラにそんな酷い事を言ったのかな? 教えてくれないかな?」

「……あ」


 殿下の口は弧を描いているが、目が笑っていない。如何やら私の呟きが王太子殿下にだけ聞かれてしまったようだ。


 私は本当にやらかす女である。


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