彼女の日記3
×月⚪︎日
家から出て行く前に、どうしても思い出が欲しかった。どうせ死ぬなら、かつての思い出の場所に黎人さんと行きたい。そんなわがままに黎人さんは付き合ってくれた。
当時、まだ仲が良かった家族と来た思い出の場所。私が大好きなガウガウくんを被った黎人さんがとても可愛かった。
大好きなトロッコに乗り、思い出の場所と黎人さんに別れを告げるつもりだった。でも、写真の中で私を見つめる優しい眼差しに、どうしても黎人さんにだけ「さよなら」が言えなかった。
×月⚪︎⚪︎日
死ぬなら、黎人さんの横がいい。私はどうしても離れる事ができない。だから、出来るだけ黎人さんに負担をかけないように、準備をしよう。
×月△日
断捨離という名目で身辺整理をした。思い出の品がいっぱい出てきたので、嬉しくも寂しくもあった。これは母方の親戚に送って、私が死んだ後に埋葬してもらおう。流石に傘は無理だろうけど
×月△⚪︎日
遺書(?)を書いた。正確にいうと、黎人さんと私の関係を書き、事件性が無いことを証明する文章だ。あとはわずかな遺産相続の話をちょろっと。ややこしいこといっぱいで、頭パンクするかと思った。
×月◎日
生まれ変わりの話をした。私が猫を選んだ1番の理由が「黎人さんに拾われる事がないから」と言ったら黎人さんは何て言うだろう? だって、黎人さんに拾われなかったら、黎人さんを悲しませる事がないじゃん。なんて、自分勝手だけどさ。
黎人さんは人間になるのも悪くないって。理由がスマホって…まぁ、黎人さんらしいよね。
来世はどうなるんだろう。
×月⚪︎×日
バイトを辞めてきた。
私は明日の夜に死ぬ。
明日は1日どうやって過ごそうか?
死ぬってどう言う感覚なんだろう。苦しいのはいやだな。怖いな。
×月×日
普通の1日を過ごすことにした。最後まで大好きな人の普通の生活を見届けたい。私は幽霊になれないらしいから、せめて最後の日くらい私の普通を楽しみたい。
これから数時間後には遺品になる私の宝物を、ダンボールに詰めた。不思議と怖くない。というか、死ぬという実感がない。親戚宛の手紙を書き、郵送する。
黎人さん宛の手紙は、書けなかった。
急に怖くなった。震えが止まらない、変な汗が出る。体調不良とかではない。純粋に怖い。黎人さんに会いたい
黎人に「おやすみなさい」と心を込めて言いました。これがさよならの代わりです。許してください。いつもありがとう。
黎人さんの事が大好きです。
…日記に書いても意味ないか。
おやすみなさい
補足:彼女の日記は黎人と出会ってからのものです。それ以前の出来事が書いてある日記は、彼女自ら捨ててしまいました。
よほど、彼女の過去に「いろいろ」あったのでしょう