日常
目覚ましよりも先に目が覚める。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
部屋から出ると彼女は既に、着替えて味噌汁を温めていた。俺はマグカップをふたつ取り出し、お茶を淹れる。
「今日もお仕事遅くなりそうですか?」
「ああ」
「じゃあ、気持ちよく寝れるように布団、干しておきますね」
「ありがとう」
朝食を食べながら、何気ない会話をする。慌ただしい朝の、この穏やかな時間だけは嫌いではない。
朝食を食べ終え出社の準備に取り掛かった。家を出る際、彼女の方が出勤時間が遅いため、玄関先で見送りをしてくれる。
「行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
今日も11時を回っての帰宅となった。ぐったりとしながら玄関を開けると、暖かな光と彼女が出迎えてくれる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
シャワーを浴びている間に、彼女はレンジで夕飯を温めてくれた。テーブルには俺と彼女の2人分の食器が並ぶ。
「肉じゃがだ」
「ジャガイモが安かったんですよ」
白いご飯に、インスタントの味噌汁。そして汁だくの肉じゃが。けして豪勢ではないけれど、温かいご飯は何よりのご馳走だ。
「「いただきます」」
箸を手に取り、肉じゃがを口に運ぶ。大きめのジャガイモがホクホクとしていとても美味しい。
「黎人さん、私達のいちばん初めに決めたルール。覚えていますか?」
「ああ。友人や恋人の関係にはならない、だっけ?」
「はい」
「今更だけど、なんでそんなルールを決めたんだ?」
彼女は味噌汁を片手にニマニマと笑った。
「そりゃ、結婚前の女の子がぁ? 出会ったばかりの男性と一つ屋根の下なんて? 間違いが起こるかもしれないじゃないですかぁ」
「うっぜぇ…」
「あははっ」
そんな話をしながら夕食を終え、食器を片付ける。歯磨きを終え、リビングでスマホをいじっていると彼女が話しかけてきた。
「最近、日記を書くのにハマってるんですよ」
「へぇ?」
「見ても読んじゃダメですからね」
「いつまで続くやら」
「さぁ、いつまででしょーか?」
「3日」
「具体的っ!?」
彼女の反応は面白いが、これ以上は明日に響くので寝ることにした。
「今日もお疲れ様です」
「ああ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
干した布団特有の匂いに包まれながら、あっさりと眠りに落ちる。
彼女の日記は、今日の日付から永遠に更新されることはなかった。そして彼女が、三日坊主ではないことも証明されてしまった。
俺は今から彼女の日記を読む。