生まれ変わったら
リビングでお茶を飲みつつ、テレビを眺めていると「衝撃、前世の記憶を持った生まれ変わりの少年」というなんとも胡散臭い企画が流れ出した。
「黎人さんは、生まれ変わったら何になりたいですか?」
「はぁ…」
彼女がおもむろに質問をしてきた。
「正直、考えた事ない」
「そうなんですね」
「まぁ、幽霊視てるとそこまで考える気にならないっていうか…」
「ふぅん?」
彼女は不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「私は生まれ変わったら、猫になりたいです」
「俺はごめんだな」
「黎人さん猫アレルギーですもんね」
彼女はくすくすと笑う。
「でも、猫って可愛いじゃないですか。もう何してても可愛い。天使ですよ天使!」
「ハイハイ」
「ちゃんと聞いてくださいよぉ!!」
力説している彼女は可愛いが、それを言うと調子に乗るためあえて雑にあしらう。だが、そんな彼女を眺めているとふと考えがよぎった。
「生まれ変わったら…うん、そうだな…」
「黎人さん?」
「生まれ変わって、もう一度人間をやるのも悪くないかな」
「なんでですか?」
些細なことで喜怒哀楽する君を眺める事ができるから。なんてことは言えず、
「スマホ」
「えぇー、そこなんですか!?」
彼女を呆れさせた。
「まぁ、黎人さんがウミムシとか、トゲアリトゲナシトゲトゲになりたいって言わなかっただけ良かったです」
「何そのマニアックなチョイス。俺のことをなんだと思ってるの…」
「黎人さんだと思ってます!」
「はぁ…」
答えになっていない返答だ。
「黎人さんは黎人さんのままでいてくださいね!」
「どうだか」
CMが流れるテレビを横目に、俺は伸びをした。
「そういえば、黎人さんってどういう風に幽霊が視えるんですか?」
「あぁ…、なんというか、いろいろかな」
「いろいろ?」
「じっとそこにいる奴もいるし、誰かの背中に乗っている奴もいる。普通の人間と見分けのつかない奴もいる」
「はー」
彼女は関心したように口をぽかんと開けている。
「君はどういう未来が視えているんだ?」
「いろいろですね」
「いろいろ…」
「はい!」
彼女はにっこり笑ってそれ以上口にしなかった。彼女にはどのような未来が視えているのだろうか。好奇心が疼くが、きっと聞かれたくないことだってあるのだろう。
俺はそう勝手に理由を付けて、追求をやめた。こんなことで彼女との関係を壊すことになるなんて避けたい。
俺達の関係は、友人でも恋人でもないのだから…。