身に覚えのないストーカー
このお話は、過去の取材で筆者がある方から聞いた体験談です。このお話を提供してくださった方の名前を、仮にUさんとします。
その日Uさんは大学の友人のNさんとKさんと3人で肝試しに行っていたそうです。目的地はS県の山奥にある心霊スポットでした。Uさんの運転でそこまで行ったそうです。
「なぁ、÷%¥$〒%」
「あ? よく聞こえないよ」
大音量で君が代のCDを流していたせいで、Nさんの声が聞こえません。Nさんは声を大きくしてもう1度言いました。
「なぁ、なんか臭くね!?」
彼がそう言ったのはちょうど山に入った頃でした。確かにUさんも臭いを感じたそうです。山の中なので何かしらの臭いはするものだろう、と思ったUさんはNさんに適当に返事を返したそうです。
「なぁ、やっぱり臭いよ!!」
今度は最初から君が代より大きな声で言うNさん。ここで目を覚ましたKさんが口を開きました。
「くっさ!」
山に入った頃より臭いが強くなっているのです。その臭いでKさんは目を覚ましたのでした。続けてNさんも言いました。
「臭すぎる! やっぱり引き返さねぇか?」
「山なんだからいろんな臭いがするもんだろ! いちいち騒ぐな!」
運転に集中したかったUさんは強めに言ってしまいました。夜の山道の運転なので、普段の何倍も注意が必要だったのです。
『この時点で引き返してれば良かったんですけどね、はは』
取材の時、Uさんはそう言って苦笑していました。
その後Uさん達はどんどん臭いの強くなる山道を進み、目的地の心霊スポットにたどり着くことが出来ました。
「30分以内に戻るぞ。アレが始まっちまうからな」
Uさんはそう言って心霊スポットであるトンネルの入口の前に駐車し、ドアロックを開けました。
「ひゃっほーい!」
「うっひゃーあいっ!」
NさんもKさんも初めての心霊スポットにテンション上がりまくりだったそうです。念の為に懐中電灯を持ち、薄暗いトンネルの中に入る3人。
「うわぁっ!」
トンネルに入ってすぐ、Nさんが声を上げました。肩に何かが降ってきたというのです。2人が心配して彼の肩を見てみると、血にまみれたコウモリが乗っていたそうです。
「ちっ」
Nさんは肩のコウモリを手で払い、そのままトンネルを進もうと言いました。2人もそうだな、せっかく来たんだしな、と同調しました。
「にゃっ⋯⋯ぬん! いてて⋯⋯」
Kさんが何かに足を滑らせて転びました。頭を打ったようで、後頭部から血を流しています。倒れているKさんの足もとを見てみると、そこには赤茶けたペースト状のものが落ちていたそうです。
「ペロ⋯⋯これは!」
悪臭のするそれを舐めたUさんは、ここは危険だということに気がついたようです。やがて倒れていたKさんは立ち上がり、このまま肝試しを続行することを提案しました。2人もそうだな、せっかく来たんだしな、と同調しました。
しばらく歩くと、Uさん達は50mほど先に人の姿を見つけました。薄暗いのでなんとなくしか分かりませんが、男性のように見えたといいます。
「⋯⋯む⋯⋯い⋯⋯」
近づくと、彼が何か言っているという事が分かりました。3人とも好奇心をくすぐられさらに近づきたくなったそうで、ずんずんと歩いていきます。
「近い未来、地球に隕石が落ちてくる。これ聞いた者は終焉を悟り、暴動を起こす。大人も子どもも皆殺し合い、地球は無法の地と化すだろう」
男性は始終無表情で、抑揚のない声でそう言っていました。ここで3人の中で、彼は頭のおかしい人なのではないか、という説が生まれたそうです。
「近い未来、地球に隕石が落ちてくる。これ聞いた者達は終焉を悟り、暴動を起こす。大人も子どもも皆殺し合い、地球は無法の地と化すだろう」
また無表情で同じように繰り返します。ここで彼らの中で、この人は壊れたロボットなのではないか、という説が生まれたそうです。
「俺、怖くなってきた。もう帰らない?」
肩にコウモリの血がべっとりとついているNさんが言いました。それを聞いた2人は、せっかく来たんだし、もう少し歩こうよ、と言いました。
『せっかく来たんだし、っていう言葉の強さを再確認しましたね。ここまで無敵なのか、と。これを言えばお友達はなんでも言うことを聞いてくれますよ、ははははははははは』
Uさんは爆笑しながら私にそう話しました。
Uさん一行はそのままトンネルの中を進みました。トンネルの壁にはマ○コ、Fu○kなどの文字と、ドラえもんの下手な似顔絵、うんこの絵などが書いてあったそうです。
取材中に笑いながらUさんが写真を見せてくれたのですが、壁には何も書いてありませんでした。何枚も見せてくれましたが、全て何の変哲もない壁でした。
Uさんは話を続けます。しばらく歩いたところで、前から光が1つ近づいてきました。3人は「人魂だぁ!」と慌てふためいたそうです。
「道の真ん中で何やってんだ!」
その光はバイクの光でした。バイクの運転者の男性が彼らに怒鳴ります。
「肝試しです!」
Uさんはハキハキと答えました。
「普通に車道だぞ! ⋯⋯あ! あんなとこに車停めやがって! 危ないからはよ帰れ!」
Uさん達は普通に説教されました。その時でした。
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
トンネル内にサイレンのような音が鳴り響きました。
「な、なんだ!? とにかくお前ら、早く帰れよな! じゃあな!」
そう言って男性はバイクで走っていきました。3人はほっとため息をつき、安堵の表情を浮かべました。
「25分のアラームだ。車に戻るぞ」
Uさんが先導します。先程のサイレンのような音は、アレが始まるまでに帰るためのアラームだったのです。
車に到着した3人は目を疑いました。ここにはUさんのワンボックス軽自動車が駐車してあったはずなのに、マイクロバスになっているではありませんか。
しかし、あと1分でアレが始まってしまうので、彼らはマイクロバスに乗り込み、このバスにラジオが装備されているか確認しました。
「OK! あるぜぇぇえええええ!」
ラジオがあったことを確認したUさんが絶叫しました。2人も笑顔になります。
『うんこっ♪ うんこっ♪ うんこっぴ〜♪ さぁ始まりましたよこんばんは! 今日は今日とてうんこっぴ〜のお時間でーす!』
ラジオをつけるとちょうどタイミング良く番組が始まりました。3人は満面の笑みで聴いたそうです。
ここで私は疑問に思いました。Uさん達はなぜこんな子どもしか聴かないようなラジオを聴くのだろうか、と。私は失礼かなと思いつつも、Uさんに質問しました。
すると、
『誰が何聴いてても良いだろ。なんでそんなこと言われなあかんねん。ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!』
と返ってきました。やはり失礼だったようです。私は後悔しました。恐らく彼を傷つけてしまった。そう思いました。
Uさんはここからが山場だと言って話を続けました。
うんこっぴ〜を聴きながら山を下る3人。パーソナリティの心地よく軽快な声がバス内に響きます。
『うんこが3つ並んでてね、どれか1個選べって言うんですよ! 選んだらどうなるのかって? それはもうとんでもない事になるんですよ! え? 実際どうなったのかって? それはね⋯⋯』
ここでザザーというノイズが入ったそうです。山道だから仕方がないか、と残念そうな顔をした3人でしたが、すぐに音は戻りました。パーソナリティも元気に話しています。
しかし、何かがおかしい。Uさんはそう思いました。BGMとして流れていたウンコーズの名曲『家グソ野グソ』の旋律が乱れているように感じたそうです。
『そう! たまったもんじゃないよね〜! さぁて次のお便りはぁ〜⋯⋯』
さらに乱れる『家グソ野グソ』5分過ぎた頃には原型も無くなり、ただ不愉快な音が鳴っているだけになりました。
そして、その音は段々と小さくなり、やがて無音になりました。無音なったと同時にパーソナリティの声に抑揚が無くなりました。先程までの表情豊かな声とはうってかわり、非常に単調なものになっていたそうです。
『近い未来、地球に隕石が落ちてくる。これ聞いた者は終焉を悟り、暴動を起こす。大人も子どもも皆殺し合い、地球は無法の地と化すだろう』
どこかで聞いた事のあるフレーズを無表情な声で唱えるパーソナリティ。3人は恐怖のあまり口を聞くことが出来ませんでした。
『近い未来、地球に隕石が落ちてくる。これ聞いた者は終焉を悟り、暴動を起こす。大人も子どもも皆殺し合い、地球は無法の地と化すだろう』
山を下り終わるまで何度も、何度も。何度も何度も何度も何度もそう繰り返していたそうです。
私は「ラジオ切れよ」と思いながらUさんの話を聞いていました。話も聞き終わったので、そろそろお暇しようとしたその時、Uさんが私の腕を掴んでこう言いました。
『近い未来、地球に隕石が落ちてくる。これ聞いた者は終焉を悟り、暴動を起こす。大人も子どもも皆殺し合い、地球は無法の地と化すだろう』
文言が長い!
私の腕を掴んだまま殴りかかってくるUさん。私は左腕を外し、華麗に避け、右腕からロケットパンチを放ちました。ロケットは見事Uさんの金的に命中し、Uさんは帰らぬ人となりました。
さて、問題はここからなんです。Uさんの取材から1年と少しが経ったある日、私のもとに似たような体験談が届いたのです。うんこっぴ〜を愛聴していたリスナーさんらしいのですが、彼女も同じようにあの文言を聞いたというのです。
実はUさんの体験談の記事を公開してから、10万件くらいはそういったメールが私のもとに届いていました。しかし、彼女は本物だと分かったのです。彼女が私に送ったメールをここに掲載します。(原文ママ)
『私もうんこっぴ〜大好き人間で毎日聴いているのですが、記事に出てきたものと同じ内容の文言を聞きました。とても不気味でした。※本当です』
そう、途中までなら私も「いつものいたずらか」で済ますところですが、彼女のメールの最後には「※本当です」と書いてあるではありませんか。もし本当なら調査しないわけにはいかない! と思いました。
私はメールをくれた彼女のTwitterにDMを送りました。数日後、彼女から1枚の画像が届きました。その画像がこちらです。
これを私に送ってすぐ、彼女のTwitterアカウントは消えました。これはいったい何を意味するのか。おつかれさん⋯⋯お憑かれさんということなのでしょうか。彼女はいったいどうなってしまったのでしょうか。
私は嫌な予感がしました。この呪われた話を私に送り、その後1枚の画像を送った瞬間にアカウントが消える。何者かに何かされたのではないか。そんな気がしてならなかったのです。
それから1年半が経ち、私はようやく彼女の現状を知ることが出来ました。まず、彼女は生きていました。本当に良かったです。
私は決断しました。彼女にもう1度取材の交渉をしようと。探偵から教えてもらったメールアドレスに、例の件の体験談を聞かせて欲しい旨のメールを送りました。
しばらくして、返信がありました。
『あなたのことは知りません。その話も知りません。または覚えていません。そもそもどうやってアドレスを知ったんですか? ストーカーですか? 警察に言いますよ?』
覚えていない⋯⋯?
何か大きなショックでも受けたのでしょうか。記憶が無くなるほどのショック⋯⋯もしや! 例の体験が原因なのでは!
私は彼女の住所を特定し、『今からそっちに行きますね』とメールを送り、大量の数珠を持って向かいました。
私には霊感がありません。しかし、困っている人がいたらいても立ってもいられないのです。そういう性分なのです。主人公みたいですよね、はは。
彼女の家に着くと、運転席の窓を誰かが叩きました。
「あなた、記者の○○さん?」
「ええ、そうですけど」
警察官のような格好をしています。
「この家の人に用事?」
「はい、除霊しに来ました」
「やっぱりか⋯⋯」
警察官は頭に手を当て、呆れたような顔をしています。
「あのね、ここの家の方から通報がありましてね。霊がなんちゃらとか言ってストーカーしてくる人がいるって聞いてるんですよ。あなたの名前も聞いていますし、話は署で聞くんで、来てもらいますね」
私はパトカーに乗せられ、警察署に連れていかれました。事情を説明してなんとか帰る許可をもらいました。予備軍だからね、と言われました。
せっかく人が1年半かけて情報を集めて、やっと特定して助けてあげようとしているのにストーカー扱いするだなんて、本当に怖い体験でした。もうこんなのは2度とゴメンですね。
感想待ってます♡