明かりを落としたほたる
「ないよ、ないよ、ぼくの明かりがなくなっちゃった」
ピカルはおしりをふりふりしながら、あっちへこっちへ飛びまわります。ここは古田村の小川。そしてピカルはほたるです。今日は、人間たちの花火大会があると聞いて、ピカルはお友だちとやってきたのですが……。
「おしりの明かりがないと、みんなぼくだって気がつかないよ」
ピカルは大声でみんなをよびましたが、明かりがないとだれも気がついてくれません。お友だちのほたるは、みんな小川へともどっていってしまいました。
「ひゅるぅー、どーん!」
打ち上げ花火の大きな音がして、ピカルは羽をバタバタさせました。この音にびっくりして、明かりがどこかへいってしまったのです。
「こまったなぁ、これじゃあぼく、ほたるじゃなくなっちゃうよ」
飛びつづけてつかれたのか、ピカルは近くの草にとまりました。見あげると、花火が大きな大きな、光の花をさかせています。
「ぼくたちのおしりの明かりより、ずっとずっと明るいや。あーあ……」
「おにいちゃーん、どこー?」
ふと、女の子の声がしたので、ピカルはふわりと草から飛びたちました。見ると、小川の近くで女の子がうずくまっています。泣いているのでしょうか?
「どうしたの?」
ピカルがきくと、女の子は顔をあげました。
「……だあれ? こわいよ、もしかしておばけなんじゃ……」
「おばけじゃないよ、ぼくはピカル。ここにいるよ」
女の子は、赤くなった目をごしごしと、ゆかたのそででこすりました。そして、まわりをきょろきょろします。
「ねぇ、どこにいるの?」
「きみの目の前にいるよ」
「くらくてわかんないわ」
ピカルは、おしりの明かりがないことを思い出しました。
「どうしよう、ぼくの声は聞こえる? 聞こえるなら、ぼくについてきてよ。村までつれていくよ」
「こわいわ、だって、なんにも見えないもん。おにいちゃん、こわいよぉ」
とうとう女の子は、わんわん泣き出してしまいました。ピカルもこまってしまいます。
「どうしよう、どうしよう。あぁ、ぼくが明かりを落としたばっかりに、この子もこわがらせちゃって、あぁ、どうしよう」
そのうちに、ピカルもだんだんと、羽が重くなっていきました。ふらふらと草むらに落ちていき、力なく草にとまりました。悲しくて、からだが冷たくなっていきます。
「ごめんよぉ、ごめんよぉ」
泣きじゃくる女の子のとなりで、ついにピカルも泣いてしまったのです。と、ピカルのなみだが、おしりのあたりにこぼれました。
「あれ、なんでだろう。なんだかおしりのあたりが、あたたかいぞ」
じんわりと、やさしいあたたかさがピカルのおしりをつつみこみました。なんだか卵のなかにもどったような、そんななつかしい感じです。ピカルはふわりと飛びあがりました。
「あっ、ほたるだ。ほたるがいる!」
女の子が立ちあがって、ピカルを指さしました。ピカルもおどろいて、自分のおしりをふりかえって見ます。
「あ、明かりが、明かりがもどってる」
じんわりしたあたたかさは、おしりの明かりだったのです。きみどり色の明かりを見て、女の子がにぱっと笑いました。
「ありがとう、ほたるさんだったんだね」
「うん、ぼくのほうこそありがとう。明かりがなくなって、こまってたんだよ」
ピカルがおしりの明かりをふりふりします。
「ひゅるるるぅー、どどーん!」
「わわっ」
花火の大きな音がしたので、ピカルはびっくりして女の子に飛びつきました。服についたピカルを見て、女の子は笑います。
「大丈夫だよ、わたしがいるから、こわくないよ」
「うん、ありがとう。でも、すごい音だね。明かりも、ぼくたちのよりずっとすごいや」
「でも、あなたの明かり、わたしは好き」
女の子にいわれて、ピカルは、てれたようにはばたきました。
「そうだ、村にあんないしないとね。さ、ぼくについてきて。今度はもう明かりを落とさないようにするからね」
「うん、ほたるさん、ありがとう」
おしりの明かりをふりふりしながら、ピカルは村にむかって飛んでいきました。やさしい明かりに、女の子も安心してついていきました。
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