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領都ルアと宮廷近衛師団

 《テレポート》の魔法を使って、ゼノたちは一瞬のうちにしてルアの町へと到着する。


 ルアは、近くに豊富な地下資源があり、その採掘によって発展を遂げた町であった。

 そのため、採掘関連のクエストが数多く存在し、その仕事の疲れを癒すことを目的とした冒険者相手の風呂屋が多いことで有名である。


 だが、マスクスに比べると、その町の規模は小さい。

 こじんまりとした地元の領民が集う町であると言えた。


「やっぱりいいですね♪ 《テレポート》! こんな早くルアの町に着くことができるなんて、夢みたいです♪」


「毎回、これがあると楽なんだけどなー」


「ごめん。ガチャで手に入らないと使えないんだ」 


 町の入口でそんなことを話していると、ベルが小声で話しかけてくる。


「……お兄ちゃん。赤クリスタルはもう使った……?」


「え? あ、いや……まだ使ってないんだよ」


「赤クリスタルを使えば、《テレポート》の魔石もまた手に入る?」


「うん。たしかにその可能性は高いね。けど、魔石には寿命があるから、赤クリスタルはいざっていう時のために取っておきたいんだ」


「……そう、なんだ……」


 ベルは少しだけ残念そうだ。


(そりゃそうか。せっかく渡した貴重なクリスタルを使ってないんだから、こういう反応にもなるよな) 


 だが、赤クリスタルは貴重だからこそ、慎重に使いたいというのが本音だった。

 実際に使っている身でないと、この辺りのさじ加減を理解するのはなかなか難しい。


「でも、ちゃんと大事に使うから」


「うん……」 


 ゼノがそう言うと、ベルは静かに頷いた。




 モニカが先導する形で、眩しい朝陽が差し込むルアの町を歩いていると、クレルモン子爵邸前の広場に、アスター王国の紋章が掲げられた旗と、白銀の鎧を身につけた集団の姿があることにゼノは気付く。


 全員で50人くらいはいそうだ。


「……おい、あれってひょっとして宮廷近衛師団の連中じゃねぇのか?」


「あ、ホントです! すごく煌びやかな鎧を身につけてますね」


「なんか、かっこいい……」 


 広場には何体か白馬が用意されており、戦闘が始まる前の慌ただしい雰囲気がそこにはあった。


 そのまま広場の方へ歩くと、ゼノは集まっているうちの1人の男に声をかける。


「すみません、ちょっとよろしいでしょうか? 師団長にご挨拶をしたいのですが……」


「あん? なんだ貴様たちは」


 ゼノはすぐに、ダニエルから受け取った魔導勅書を男に見せる。


「女王陛下の命により、マスクスの冒険者ギルドからバハムート討伐にやって参りました」


「ハッ! 女王陛下の命だぁ……?」


 一笑してから男はゼノたちを見渡す。


「ただのガキの集まりじゃないか」


「なっ……ガキぃ……!?」


「むぅ。随分と失礼な人です……っ」


「お兄ちゃんは、正式に呼ばれて来たの」


 そんな風に少女たちが声を上げても、男は意に介さない様子だ。


「こんなお遊戯パーティーをよこすとは、陛下も何を考えているんだかな」


「おいなんだ? このガキどもは」


 次第に他の男たちも集まって来る。

 ゼノは、彼らにも魔導勅書を見せた。


「……こりゃ、たしかに陛下の勅書だが……」


「悪いが坊主たちの出る幕はないぞ。バハムート討伐の件は、我々、宮廷近衛師団に一任されているのだからな」


「ですから、わたしたちは女王様に招集をかけられて来たんですっ!」


「そうだぜ! バハムートを倒すために、わざわざこんな所までやって来たんだ!」


「はぁん? そんな貧相なエルフの奴隷をパーティーに入れているような連中が、獄獣を討伐できるのかぁ? フッハハ!」


 男の1人がベルを指さしながら笑う。


「ぅっ……」 


 男に圧倒されて体を震わせるベルの姿を見て、ゼノはすぐに間に割って入った。


「この子は奴隷なんかじゃありません。俺たちの大切な仲間なんです」


「……っ、お兄ちゃん……」


「おい、お前ら聞いたかぁ? こいつ、亜人を仲間とか言ってるぞ?」


「フッ……奴隷を頼るなんざ、たかが知れてるな。坊主」


「ですから、この子は奴隷なんかじゃ……」


 ゼノがそう訴えかけても、宮廷近衛師団の男たちはまるで聞く耳を持たなかった。

 

 ――すると、その時。


 集団の奥から、髭を口元に蓄えた大柄な男が現れる。

 

「何を揉めている?」


「師団長っ……。いえ、この者たちが……バハムートの討伐にやって来たと申しておりまして……」


「その話なら聞いている。マスクスから強力な冒険者パーティーを呼んだと、陛下直々のお達しだ」


 そう口にしながら、師団長と呼ばれた男はゼノたちを一瞥する。

 

 彼は、ダニエルと遜色ないほどの巨大な体躯を持ち、腰の辺りまで黒髪を伸ばしていた。

 白銀の鎧を身につけているが、しゅっと引き締まった筋肉質の首筋を見れば、彼が日々の鍛錬を怠っていないことがすぐに分かる。


 おそらく、年齢は40代半ばといったところだろう、とゼノは思った。


「すまない、君たち。部下が無礼な態度を取ってしまったようだ。私は、アスター王国宮廷近衛師団の長を務めるディランだ」


 一歩前に出ると、彼は握手を求めてくる。

 それを握り返しながら、ゼノは答えた。


「ご丁寧にありがとうございます。俺は、【天空の魔導団(クランセレスティアル)】リーダーのゼノって言います」


「……ゼノ?」


 ディランは一瞬、神妙に眉をひそめる。

 だが、すぐに表情を元に戻した。


「しかし、マスクスから駆けつけてやって来たわりには、あまりにも早いな? ひょっとして、貴族の者に《テレポート》で送ってもらったのか?」


「あ、いえ。俺は魔導師なんです。ですから、自分たちだけでここまでやって来ました」


「ああ……そうか。レヴェナント旅団のルーファウスを捕らえたというのは、たしか君たちだったな。天才魔導師がパーティーにいるという噂は聞いている。なるほど……君が、その魔導師なのか」


「ゼノ様っ、天才魔導師ですって! ちゃんと話が伝わってたみたいですね♪」


「へっ! ようやく話の分かる相手が現れたぜ」 


 モニカに続いてアーシャが安堵のため息を漏らすと、集団の中から声が上がる。


「貴女は……。ひょっとして、ゴンザーガ卿のご令嬢……アーシャ嬢ではないですか?」


「……ん? なんだ? アタシのこと、知ってんのか?」


「令嬢……この娘が? ご存じなのですか、クレルモン卿」


 ディランが不思議そうに訊ねると、隣りに現れた老年の貴族が頷く。


「ええ。8年前にマスクスで開かれた社交界に参加した際、一度邸宅の前でご挨拶を。その鮮やかな赤色の髪はよく覚えております」


「んなこと、あったっけか?」


「アーシャさん……! 失礼ですよっ!」


 それを知って、ディランは1人静かに口元を釣り上げる。


「……そうでしたか。どおりで、貴女から気品を感じたわけです。アーシャ嬢、これまで気付かずに申し訳ありませんでした」


「いやぁ~。アタシもべつに気付いてほしかったわけじゃねーけどなぁ、あははっ!」


 宮廷近衛師団の師団長に持ち上げられたのが嬉しかったのか、アーシャはいつにも増して上機嫌だ。


「はぁ……調子に乗っちゃいましたね。アーシャさん」


「アーシャ姉、かっこわるい……」


 そんな風にモニカとベルが目を細めていると、ディランの大きな声が上がった。


「おい、お前ら!」


 数名の部下がすぐさまディランの前に現れる。


「ゴンザーガ卿のご令嬢に何かあってはならん。討伐時は、この者たちの護衛を任せる。現地では一切の手出しをさせるな!」


 師団長の鋭い言葉に、師団員たちは声を揃えて頷いた。


「……いや、ちょっと待ってください。俺たちは、バハムートの討伐をするようにと言われて来たんです。ですから、手出ししないというのは……」


「申し訳ないが、そういうわけにもいかないのだよ。君たちの身に何かあっては、ゴンザーガ卿に何を言われるか分からないのでな。今回は大人しく、我々の言うことに従ってくれ」


「はぁ? アタシが冒険者やってるのは父様も承知の上なんだぜ? なんのために、ここまで来たと思ってんだよ」


 何か不自然な態度に気付いたのか。

 すぐにアーシャが反論の声を上げるも、ディランは聞えないフリをして男たちに号令をかける。


「バハムート討伐の最終確認を行う! 全員、クレルモン卿の邸宅前へと集合しろ!」


 そのまま彼はクレルモン卿と共に、邸宅の方へと下がってしまう。


「……というわけだ、坊主ども。出発までここで大人しく待機していろ」


 まるで捕虜のように扱われ、師団員たちもまた、邸宅前へ移動してしまうのだった。

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