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3人の女の子と共同生活!?

 イニストラードを後にした【天空の魔導団(クランセレスティアル)】一行が、マスクスへ着く頃には夕方となっていた。


 4人で冒険者ギルドに一度顔を出して、ティナやリチャードに、クエストを無事に達成した旨を伝える。

 すでに、伝書鳥を通じて、結果の報告はマシューからされていたようだ。


 それよりも、彼らが驚いていたのは、ゼノのパーティーに新たな仲間が加わっていたことだった。


「えっ、どうしたんですか? そのエルフの子……」


「えっと……この子はベルって言います。ちょっとわけがあって、【天空の魔導団(クランセレスティアル)】に加わってもらうことになりました」


「よ、よろしく……お願いします……」


 緊張しながらも、ベルはぺこりと受付カウンターの2人に挨拶をする。


「なるほどねぇ……。魔導師に、聖女様に、戦斧使いに、スキルを持った若いエルフ……。こりゃ、とんでもない冒険者パーティーの誕生だ」


 感心したように頷くリチャードに見送られながら、ゼノは3人と一緒に宿舎へと戻った。






「……なんか、ここへ帰って来るのも久しぶりな気がするぜ」


「ですね~。たった数日しかここを離れていなかったはずなのに……不思議です」


 感慨深そうに宿舎を見上げる彼女たちの姿を目にしながら、もうここが自分たちの家になっているんだな、とゼノは実感する。


「この建物は?」


 首をかしげるベルに、アーシャが答える。


「ここは、アタシたち【天空の魔導団(クランセレスティアル)】がギルドから借りてる宿舎なんだぜ! ベルも好きに使っていーんだぜっ?」


「……しゅごい……」


 ベルは立派な宿舎を見て、感動しているようだ。


「ちなみに、最初から住んでいたのはゼノ様です♪ なので、アーシャさんが偉そうにするのは違いますよ? どなたがこの宿舎の主か、ベルちゃんもきちんと覚えておきましょう♪」


「細かいことは、いーじゃねーか。ギルドの所有物ってことは、つまり、これもゴンザーガ家の所有物ってことなんだからな!」


「そういうアーシャさんの考え方キライです」


「んだとぉ!? 本当のことじゃねーかっ!」


 モニカとアーシャが、いつものように小競り合いを繰り広げていると、ベルがゼノに訊ねる。


「……本当に、ベルもここで暮らしていいの?」


「ああ、もちろんだ。好きな部屋を使っていいぞ。……て言っても、空いてる部屋は限られているけど」


 その後、ゼノは2階の空き部屋を案内するも、ベルはぷるぷると首を横に振った。


「どうした? 部屋が気に入らないか?」


「……ううん……。そうじゃなくて……」


「もしかして……1人部屋が嫌なのか?」


 ベルはこくんと素直に頷いた。


「……お兄ちゃんと、一緒の部屋がいい……」


「俺と一緒の部屋?」


 すると、すかさずモニカとアーシャが話に加わってくる。


「ベルちゃん~? さすがに、それはいけませんよぉー? 若い男女なんですから」


「そ……そうだぜっ! ゼノと一緒なんて、羨ま……いや、迷惑になるじゃねーか!?」


「……でもベルは、お兄ちゃんと一緒がいい……」


 2人の指摘に対して、ベルもまったく引かない。

 あれこれと議論を続ける彼女たちの間にゼノは割って入った。


「そういうことなら、俺の部屋で一緒に暮らそう」


「「えええぇぇ~~っ!?」」


 さも当たり前のように口にするゼノに、モニカもアーシャも驚きの声を上げる。


「そ、そ……それって、つまり同棲じゃんかっ!! んなのご褒美すぎるだろっ!? ゼノとあんなことやこんなことが、公然とできちまうなんて……」


「はわわっ~!? いくら歳が離れているとはいえ、ベルちゃんはかわいいエルフの女の子で……ゼノ様との間に、何か間違いが起こらないとも限らなくて…………ハッ!? ゼノ様の貞操の危機……!?」


 取り乱したように、目をグルグルとさせる少女たちにゼノがつっこむ。


「2人とも、一体何を言ってるんだ?」


「だって……アタシを差し置いてそれはねーぜ、ゼノぉぉ……!! 一番の昔からの知り合いはアタシじゃねーかぁ……!」


「わ、わたしも! 一緒の部屋で寝泊まりできませんかぁっ!? そうじゃないと、2人のことが気になって気になって……夜も眠れませんっ~~!」


「……はぁ……」


 ゼノは呆れ気味にため息をつく。


「モニカもアーシャも何か勘違いしてるようだから言っておくけど、特にやましい意味はないよ? これまでベルはずっと1人で心細かったんだろうし、ベルが一緒がいいって言うなら、俺はそれに応えたいって思ったんだ」


「そ……そりゃ、心細かったのかもしれねーけどよぉ……」


「それに、ずっと同じ部屋で暮らすってわけじゃない。ここでの生活にベルが慣れるまでの間だけだ」


「たしかに、そうですね……。ベルちゃんの気持ちを思えば、ある程度の間、ゼノ様に一緒についていただいた方がいいのかもしれません……。ちょっと、羨ましいですけどぉ……」


「まぁ……ずっとってわけじゃねーんなら、そこは安心だぜ……」


 どうにか、モニカもアーシャも納得してくれたようだ。


「というわけだ、ベル。これからよろしくな」


「うん……。お兄ちゃん……ありがとっ……」


 ぺたっと、嬉しそうにベルがゼノに抱きつく。

 そんな彼女を頭をゼノは優しく撫でた。


「……どうしてでしょうか……。ベルちゃんが笑顔で嬉しいはずなんですけど……このやり場のないモヤモヤは……」


「くぅぅっ~~! たまらねーぜっ!! でも、おめでとーだぁ、ベルッ……!」


 どこか複雑そうな表情を浮かべながら、2人はゼノとベルの相部屋を認めるのだった。




 ◆




 夕食と入浴を終えたゼノは、ベルと一緒に自分の部屋へと戻って来ていた。


(はぁ……。なんで、あの2人はあんなに元気なんだ……?) 


 部屋へ戻るまでの間、ゼノはこれまでにないくらい強烈なスキンシップをモニカとアーシャから受け続けた。

 

(最後、部屋の中に入る時も、恨めしそうにじーっと見てたもんな……。ある意味、恐怖だ……)


ようやく解放されたという気分で、ゼノはソファーに座った。

 それは、ベルも同じ気持ちだったようだ。


 飛び込むように、ゼノの隣りに座ってくる。


「やっと、お兄ちゃんと2人きり……」


「ああ。そうだな」


 ベルもなんだか嬉しそうだ。

 そのまま、ゼノの体にぺたっと抱きつく。


「お兄ちゃんの匂い……すき……」


「う、うん……」 


(まぁ……今日くらいはいいよな? ベルもずっと寂しかったんだろうし)


「それじゃ、俺はこのままソファーで寝るから。ベルはそこのベッドを使ってくれ」


「……(ぷるぷる)」


「ん? ベッドは嫌いか?」


「ううん……そうじゃなくて……」


 もじもじとして、ベルは恥ずかしそうにしている。

 少しだけ顔も赤い。


「……お兄ちゃんと……その、一緒にベッドで寝たい……」


「い、いや……。さすがにそれは……」


 そう口にするも、ベルが瞳をうるうるとさせたので、ゼノは仕方なくそれを了承することに。


「……うん、分かったよ。一緒に寝ようか」


「ありがとっ♪」


 すると、ベルはぎゅ~っと、またゼノの体に抱きついた。


(なんか、ベルには調子を狂わされてばかりだなぁ……)


 けれど、嫌な気はしなかった。


(俺にも妹がいたら、こんな感じだったのかな?)


 そんなことを思いながら、ゼノは嬉しそうに抱きつくベルに目を向けるのだった。

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