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イニストラードに到着する

 ひと通り準備を整えた3人は、中央広場の貸馬車屋で馬車を借りてから、マスクスの町を出発する。


 マウゼル洞窟のダンジョンを越えてさらに西へ進むと、しばらくしてカロリング領へと入った。


 そのまま馬車に揺られること、2時間近く。

 ようやく、イニスラードの町が見えてくる。

 

 昼前には、マスクスの町を出たゼノたちだったが、イニストラードに到着する頃には、すでに辺りは暮れ始めていた。




「ふぅ~けっこうな長旅だったな。やっと着いたぜ!」


「うん。さっそく中へ入ろう」


 3人は町の入口で御者に別れを告げると、町の中に足を踏み入れた。


 イニストラードは、アスター王国の中でも非常に大きな町として知られている。

 商業が盛んなことも有名で、町の中心にある巨大マーケットには、王国中からたくさんの商人が訪れ、多くの商店が軒を連ねていた。

 

 また、娯楽の聖地としても名が通っており、大型の劇場やカジノなどの店も有している。

 これを求めて、他国からわざわざアスター王国を訪れる観光客も多いようだ。


「へぇー、ここがイニストラードか! かなりでかいんだな! 通りの奥までまったく見えねーぜ!」


「アーシャさんは、この町へやって来るのは初めてなんですか?」


「まぁな。領地から出るなんてこと、ほとんどなかったし。ワイアットからも禁止されてたからな。こうやって訪れることができてアタシは嬉しいぜ」


「モニカは来たことがあるんだよね?」


「はい。闇ヒーラーをしてた時期に滞在していたんです。こんなに大きな町なんですけど、イニストラードには、南方教会が設置されていないんですよ」


「それは、かなり珍しいな」


 かつて暮らしていたドミナリアでは、南方教会は人々の生活に根づいていたことを、ゼノは改めて思い出す。

 町の規模から考えて、イニストラードに南方教会が設置されていないのは不思議に思えた。


「カロリング卿は、熱心な魔法至上主義者で有名だからな。南方教会の設置には否定的だったんじゃねーのか?」


「……ひょっとすると、それが今回、カロリング領がレヴェナント旅団に狙われた原因なんでしょうか?」


「うーん、どうかな……。ひとまず、ギルドへ行って詳しい話を聞いてみよう。モニカ、案内してくれるか?」


「はい。こちらです」


 モニカが先導する形で、3人はそのまま冒険者ギルドへ向かうことに。




 ◆




 イニストラードの冒険者ギルドは、想定していた通り、その規模はマスクスよりも大きかった。

 館の中には、たくさんの冒険者が溢れている。


 活気に満ち溢れた館内を歩きながら、ゼノはふと思った。


(これだけ冒険者がいるのに、誰も今回のクエストを受けなかったんだ……)


 レヴェナント旅団の確保。

 それがどれほど危険な依頼か、ゼノは改めて思い知る。

 

 そのまま3人で受付カウンターまで向かうと、アーシャがまず口を開いた。


「アタシたちは、マスクスの【天空の魔導団(クランセレスティアル)】だぜ! こっちのギルドからクエストの依頼を受けてやって来た。ギルマスを呼んでくれ」


「こ……これは、【天空の魔導団(クランセレスティアル)】の皆様……!? お待ちしておりましたっ! 話は聞いておりますので、少々お待ちください!」


 慌てた様子で、受付嬢がカウンターの奥へと消えていく。


 そして。

 その後すぐに、丸ぶちの眼鏡をかけた痩せ男が現れた。


 不健康そうな色白の肌とやせ細った華奢な体つきは、相手にどこか頼りなげな印象を与える。


 年齢は、20代前半くらいだろうか。

 この館を仕切る立場の者としては、十分に若いと言えた。


「あぁ……よかった。【天空の魔導団(クランセレスティアル)】の皆さん、来てくださったんですね」


「あんたがギルマスかよ?」


 アーシャがそう訊ねると、男は深々と頭を下げた。


「はい。私は、このギルドの責任者をやっておりますマシューと申します」


 ギルドマスターと言えば、ダニエルのイメージが強かったため、マシューの立ち振る舞いは、ゼノに新鮮に映った。

 

 同じように頭を下げて、ゼノも挨拶をする。


「初めまして、マシューさん。俺は、マスクスの冒険者のゼノ・ウィンザーです。この2人の女の子はパーティーメンバーで、モニカとアーシャって言います」


「ご丁寧にどうもありがとうございます。もちろん、お三方のことは存じ上げておりますよ」


「その若さでギルドマスターってすごいですね~♪」


 モニカが笑顔でそう言うと、マシューは少しだけ顔を曇らせる。


「……い、いえ。私は、最近辞めてしまった者の代わりとして就いただけでして……」


「それでも立派だぜ! んなむさ苦しい連中をまとめてんだからなっ!」


「は、はぁ……」


 アーシャの言葉に、マシューはどこか困り顔だ。

 ゼノは、すぐに彼の表情に気付いた。


「あの……わざわざ他領ギルド所属の俺らに、依頼を出されたことと、何か関係があるんでしょうか?」


「……さすが、マスクスでSランク冒険者に最速でなられた方は違いますね。ゼノさんのようなお方が、うちにいてくれたら助かったのですが……」


 ここでゼノは、マシューが抱えている悩みを耳にする。




 実は、彼はカロリング侯爵家の三男なのだという。


 なぜ、貴族の彼がギルドマスターを務めているのかというと、ギルドマスターを辞職する者が後を絶たないからという話であった。


「……お父様は、熱烈な魔法至上主義者でして、術使いの方々をあまり信用していないんです。当然、そんな領主が治める町ですから、冒険者たちからの受けも良くありません。だから、ギルドマスターは突き上げによく遭うんです。それがイヤになって辞めてしまう方が多くて……。だから、カロリング家出身の私に、その役目が回ってきたんです。領主の息子なら、少しは言うことを聞くだろうというのが、お父様のお考えのようでして……」


 イニストラードの冒険者たちは、容易なクエストの回すようにせがんだり、報酬を上げるように要求したり、ギルドマスター相手でも好き放題やっていたのだという。


(マスクスのギルドとは、かなり違うな。ダニエルさんが上手くコントロールしているってわけか)


 ゼノは改めて、ダニエルの手腕を見直した。


「お恥ずかしい話なのですが、今回のクエストも、Sランクの者を含むほとんどの冒険者に声をかけたのですが……断られてしまいました」


「とんでもねーヤツらだぜ……! 自分たちの領地で悲惨なことが起こったってのに、知らん顔なんてな」


「でも……レヴェナント旅団を相手にするのはとても危険ですから。ここの人たちのことは責められません。簡単なクエストを受ける方が楽ですし」


「たしかに、そうなんだろーけどよ……」


 モニカの言葉に、アーシャは納得がいかない様子だ。

 けれど、ゼノもモニカには同意見だった。


(俺たちが責められることじゃない。誰だって命を落としたくはないはずだ)


 だが、レヴェナント旅団を捕らえなければ、新たな被害が出るかもしれない。

 誰もやらないなら、それをやれるのは自分たちしかいない、とゼノは思う。


「そういうわけでしたから、【天空の魔導団(クランセレスティアル)】の皆さんが来てくれて、本当に助かりました」


「いえ、こちらこそ依頼を出していただいて嬉しかったです。後は俺たちに任せてください。できる限りのことはしたいと思います」


「すみません……。どうか、よろしくお願いします」


 マシューは改めて深くお辞儀をした。


「町の宿屋を無料で宿泊できるように手配しておきます。今日はそこへお泊りください。明日、職員の者にラチャオの村へと案内させますから」


「? これから現地へ行って、確認しなくてもいいのかよっ?」


「イニストラードからラチャオの村までは少し距離があります。今日は、マシューさんの言う通りにした方がいいと思います」


 地理に詳しいモニカがそう言うと、説得力がある。

 たしかに、これからラチャオへ出発するとなると、村へ到着する頃には夜になってしまうに違いなかった。


「アーシャさん、ご安心ください。領内の町や村は、現在、侯爵騎士団によって厳重に警備されています。警戒された中で、レヴェナント旅団もなかなか手出しはできないはずです」


 マシューがそう付け加えると、アーシャも納得したようだ。


「そーゆうことなら、安心だぜ。なら、出発は明日だな」


「うん。今日は3人で宿屋に泊まらせてもらおう」


 ゼノがそう言うと、話はまとまった。


 その後。

 ゼノたち3人はマシューに案内され、イニストラードの宿屋で一晩を明かした。

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