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二人きりの夜②

(……ダメだ。全然眠れない……)


 しばらくそのまま寝ようと試みるゼノだったが、慣れない椅子での就寝に悪戦苦闘。

 どうしても、意識がアーシャに向いてしまうのだ。


 ゼノにとって、年頃の女の子と同じ空間で寝るのは二度目のことだった。


(この前野宿した時は、ずっと外に気を配ってたからなぁ……)


 モニカともテントで一晩共にしたゼノだったが、今回は状況がだいぶ異なる。


 そぉーと彼女が寝ているベッドを覗くも、寝息は聞えない。


(ひょっとして、まだ起きてるのかな?)


 そんなことを考えていると――。


「……ゼノ、まだ起きてるか?」


 突然、アーシャの声が上がる。


「え? あ、あぁ……」


「なんか目が冴えちゃって。あんま眠れねーぜ」


「うん……。俺もだよ」


「そっか」


 しばらく沈黙した後、アーシャはこうゼノに訊ねてくる。


「一つ聞こうと思ってたんだ。なんで、ゼノは冒険者やってるんだ?」


「急にどうした?」


「べつにいいじゃん? アタシ、純粋に気になってたんだぜ」


「そうなのか?」


 ゼノがそう返すと、アーシャは白状するように続ける。


「……いや、実はさ。こうやってゼノの部屋にやって来たのは、話がいろいろ聞きたかったからっていう理由もあったからなんだ。聞けば、冒険者になってまだ1ヶ月も経ってないって話じゃねーか」


「たしかにそうだな」


「なのによ、もうSランク冒険者に任命されたとか、すげーぜ。それと、どうして未発見魔法なんてものが扱えるんだ? その、いつも持ってる白い剣……なんだっけ?」


「聖剣クレイモアのこと?」


「そう! んなのを使って魔法を発動するとか、前代未聞だぜっ! 普通の魔導師が魔法を使う発動手順とも全然違うしな。あんたと初めて会った日から、ずっとそれが気になってたんだ」


「ああ……」


 それを聞いて、さすがにこのまま何も話さないのは不自然か、とゼノは思う。


(アーシャは貴族なんだし。俺が見たことない魔法を使っているのが不思議に思えて当然か)


 そう思ったゼノは、アーシャに事情を打ち明けることにする。


「聖剣クレイモアは……大賢者様が列挙した魔法を再現するための発動具なんだよ」


「なにぃ? 再現するための、発動具だぁ……?」


 ゼノは頷くと、部屋の壁に立てかけてある聖剣に目を向けながら続ける。


「これはある人から譲り受けた物で、その人は俺のお師匠様でもあって……長い間ずっと、迷宮に囚われているんだ」


「おいおい……急にすごい情報量じゃねーかっ。ゼノの師匠が……迷宮に囚われているだって?」


「うん。死神の大迷宮っていう場所なんだけど」


「死神の大迷宮…………あぁっ! 聞いたことがあるぜ! たしか、ファイフ領のシャトー密林にあるダンジョンのことだよな?」


「そう。そこにお師匠様は、もう400年近く囚われているんだ」


「は……400年!?」


「モニカにもそうやって驚かれたな。でも、お師匠様は《不老不死》っていう魔法をかけられたから。ずっと、歳を取らずに若い時の姿のままで生きていられるんだよ」


「マジ、かよっ……」


「その証拠として。お師匠様も、現代でいうところの未発見魔法が使えるんだ。人魔大戦以前の生まれだから、俺みたいに発動具を用いなくても昔の魔法が扱えるんだよ。自分では、魔女って言ってるくらいだから」


「……400年の時を生きる魔女……。んなヤツが実際にいるなんて……。まったく信じられねーぜ……」


「それで……。俺は、そのお師匠様を助けたくて、冒険者をやっているんだ」


「? どういうことだよ? 全然話が見えねーんだけどぉ……」


 そこでゼノは、どうして自分が冒険者をやっているのか。

 その理由を詳しくアーシャに説明する。


 ベッドから起き上がると、彼女は食い入るようにしてゼノの話に耳を傾けた。




 ◆




「――つまり、その魔女のお師匠様を迷宮から出すためには、〔魔導ガチャ〕ってスキルで666種類の魔石を手に入れる必要があって、そのためにはクリスタルが必要で……希少性の高いクリスタルは魔大陸でしか手に入らないから、だから筆頭冒険者になるために冒険者をやってる……ってそーゆうことか?」


「呑み込みが早くて助かる。そういうことだ」


「はぁー……なんかすげーぜぇ……。ゼノが冒険者やってるのに、そんな理由があったなんて」


「べつに、すごくなんかないよ。お師匠様は俺の命の恩人だから。お師匠様のために何かしたいって思うのは当然のことだと思う」


「アタシなんか、そんな立派な生きる目的なんてねーからなぁ。ぶっちゃけ尊敬するぜ!」


「でも……。アーシャも何か目的があってあんなことしていたんだろう? どうして、強い相手と戦いたかったんだ?」


「あぁ、それか」


「それと、最初会った時にも聞いたと思うけど。なんで〈斧術〉が使えるんだ? 普通、貴族は術式が使えないはず……。ずっと気になってたんだ」


 そのほかにも、ゼノにはアーシャについて気になる点がいくつかあった。

 

 貴族の生まれなのに、魔導師を毛嫌いしていたのはなぜなのか?

 どうして家族と一緒に暮らしていないのか?

 

 これまでは、やはりプライベートなことだから訊くのを避けてきたが、ゼノは、今ならそれが聞けるような気がしていた。


「……」 


 ゼノにそう訊ねられたアーシャは突然黙り込んでしまう。

 暗闇の中でよく見えなかったが、彼女が真剣な表情でこちらを見ていることだけは、ゼノには分かった。


 やがて、アーシャは静かに口にする。


「……んなこと、訊いてどうすんだ?」


「アーシャのことが知りたいだけだよ。一時的にせよ、こうやって一緒にパーティーを組んでいるんだからさ」


「けど、ゼノみたいに立派な話じゃねーぜ。絶対笑われる」


「なんで笑うんだ?」


「だってこの話は……まだ誰にも話したことがないし……」


「アーシャが真剣に話すことを笑うわけがないよ。だから、できれば聞かせてほしい」


「……へっ。そこまで言うなら、分かったぜ。ゼノもいろいろと打ち明けてくれたんだからな。アタシも話すよ」

 

 夜闇にそんな彼女の声が小さく響き渡った。

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