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二人きりの夜①

 【天空の魔導団(クランセレスティアル)】の面々は、西のダンジョン・マウゼル洞窟の最下層でボス魔獣と対峙していた。


「ゼノ! バフを頼むぜっ!」


「分かった」


 ゼノは、魔導袋からクリティカル率を上げる《コンセントレーション》の魔石を取り出すと、それを素早く詠唱する。


 すると、アーシャのクロノスアクスは光とともに強化された。


「サンキュー! いくぜぇ! んおぉぉぉぉぉーーーっ!!」


 水棲系の魔獣であるダークホッパーの群れに突っ込んで、アーシャが〈斧術〉を繰り出す。


「〈アクセルトルネード〉!」


 ザッザッザッギギギギギーーーンッ!!


 縦横無尽に暴れ回る円状の衝撃波が一面に炸裂し、ダークホッパーの群れを一瞬にして吹き飛ばした。


「後は頼んだ、ゼノ!」


「任せてくれ」


 ゼノは☆3の魔石を取り出すと、聖剣クレイモアの(ガード)部分にはめ込む。


「《超圧の水檻(アクアオリハルコン)》」


 剣を振り払いながらそう唱えると、


 バシャバシャバババババババーーーーンッ!!


 背後に控えていたボス魔獣プラチナゲーターの鋼のような体躯に、狂乱する洪水がぶち当たる。


「ホォォオオォオオッッ~~~!?」


 上下逆さまにぐるんぐるんと弄ばれると、渦巻く巨大な水の塊に押し潰されるようにして、プラチナゲーターは悲鳴を上げながら絶命した。


「よっしゃ、マウゼル洞窟のボス魔獣も倒したぜっ! やったな、ゼノ!」


「ああ……」


 プラチナゲーターがドロップした緑クリスタルを拾いながら、ゼノはアーシャを覗き見る。


(ほんと、朝とはまったくの別人だよなぁ……) 


「むぅ……」


 さすがのモニカも、アーシャの活躍には口を出せないようだった。




 ◆

 



 マウゼル洞窟の外へ出ると、まだ辺りは明るかった。


 どうやら今回は、いつもよりもだいぶ早くボス魔獣を倒せたようだ。

 

(この分だと、夜になる前にはマスクスへ着けそうだな)


 ゼノは少しだけホッと胸を撫で下ろす。


「んんっ~! 空気が気持ちいいぜ! 残すは南ダンジョンのダンタリオン落園だけだな。明日もがんばろうぜ、ゼノ!」


「その前に。アーシャさん、明日は本当にきちんと起きられますか?」


「んだよ。こうやって結果も残せてるんだから、そーゆう細かいことはいいじゃねーか」


「いーえ、ダメです! 毎回、夜中に帰ってこっちは大変なんですから。寝不足は美容の天敵なんですよぉ? ここ数日はお肌が荒れて荒れて……」


「アタシは気にならねーけどな」


「わたしが気になるんですっ!」


「でも、たしかにモニカが言うように、明日はもっと早めに出発したい。ダンタリオン落園のボス魔獣は4つのダンジョンの中で最強って言われてるから。アーシャ、大丈夫だよな?」


「ゼノまでんなこと言うのかよ~。こっちには切り札があるんだ。任せろって!」


「……なら、いいんだが」


 アーシャのことは信頼しつつも、彼女の言っていることが少しだけ気になるゼノであった。




 ◆




「今日は疲れたなぁ……。ここのところ、毎日ダンジョンに入っているもんな」


 ボス魔獣の討伐は、想像以上に精神をすり減らしていたようだ。

 ここ数日分の疲労が一気に出たような気がする、とゼノは思う。


「久しぶりに《リュート》の魔石が出たことだし、今日はこれを使って寝ようかなぁ」


 《リュート》の魔法を使うと、ヒーリング音楽が部屋全体に響き渡る。

 以前、これを使用した時は熟睡することができて、体力の回復も違った。


 魔導袋に手を伸ばし、これから就寝しようとしたところで。


 コンコン。


(ん……?)


 ゼノの部屋にノックの音が響く。


(なんだ? こんな時間に)


 すでに夕食と入浴も終え、3人はそれぞれの部屋へと戻っていた。


 どっちが訪ねて来たんだろうと思いながら、ゼノがドアを開けると……。


「ゼノ! 少し邪魔するぜっ!」


 いきなり、アーシャがドアを開けて飛び込んでくる。

 彼女はすぐに、ベッドの上へダイブした。


「お、おい……」


「へへっ♪ 今日は泊まらせてもらうからな!」


「は? いや……なんで!?」


「あん? アタシが朝ちゃんと起きられねーと困るんだろ?」


「いや……。それと、俺の部屋に来ることと、なんの関係が……」


「だってよ! ゼノの部屋に泊まれば、朝はゼノが起こしてくれるじゃねーか!」


 天真爛漫な笑みを浮かべながら、アーシャはなんでもなさそうにそんなことを口にする。


 彼女は、亜麻布のネグリジェ姿で、なかなかに無防備な格好をしていた。

 思わず、ゼノは目を逸らしてしまう。


「……さすがに、年頃の男女がこういうのは……マズいって」


「なんでだ? アタシは全然気にならないぜ?」


「俺が気になるんだよ!」


「ふーん……」


 そう口にしながら、にやにやとするアーシャ。


「普段はクールを気取ってても、ゼノも男だなっ! 安心したぜ! アタシのこと、ちゃんと女として見てるわけだな~。んひひ♪」


「と、とにかく……。出て行ってくれ……」


「なら、明日も寝坊だなぁー」


「というか、モニカの部屋に泊まりに行けば、それでいいじゃないか」


「それはねーぜ。アタシは、あの女がキライだ」


「なんで、いつもそう仲が悪いんだ……」


「べつに1日くらいいーじゃん? 明日でゼノとパーティー組むのも最後なんだし。それに、朝ちゃんと起きられた方がゼノも嬉しいだろ?」


「はぁ……分かったよ」


 ため息をつきつつ、ゼノはアーシャの強引さに押される形で宿泊を認めることに。


「へへっ、そうこうなくちゃな! このベッド、男の匂いがするぜ~!」


「えっ!? く……臭かったかっ?」


「いーや。アタシはゼノの匂い好きだ」


「……」


 どこか調子を崩されつつ、ゼノは椅子に腰をかけた。


「おい、一緒に寝ないのかよ?」


「……ベッドは使っていいよ。俺はここで寝るから」


「へぇー。あいかわらず紳士だな、ゼノは。んじゃ悪いな。一晩借りるぜ?」


「ふぅ……。明り消すぞ」

 

 こうして2人は一夜を共にすることになった。

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