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結果報告

 3人に別れを告げたゼノは、それから足早にワイド山を下山した。

 真上にあった陽は徐々に落ち始めていたが、この分なら日没までには帰れそうだ、とゼノは思う。


 麓まで降りると、白馬に乗り込み、来た時と同じように猛スピードでファイフ領の平原を駆け抜けていく。


 途中で何かトラブルが起こるようなこともなく、ゼノは無事にマスクスの町へと帰還するのだった。




 ◆




 馬小屋で白馬を返却し、厩役の男に丁寧に礼を述べると、ゼノは一度通りを外れて裏路地に足を踏み入れる。


 思いのほかスムーズに到着したということもあり、冒険者ギルドへ立ち寄る前に、いろいろと確認しておこうと思ったのだ。


「ステータスオープン」


 ゼノがそう唱えると、目の前に光のディスプレイが出現した。


----------


【ゼノ・ウィンザー】

[Lv]27

[魔力値]0 [術値]0

[力]13 [守]7

[魔攻]195 [速]10

[スキル]〔魔導ガチャ〕

[魔石コンプ率]029/666

[所持魔石]

☆1《減量》 ☆1《温度調整》

☆1《ダンプ》 ☆1《ベーカリー》

☆1《点呼》 ☆1《掃除》

[所持クリスタル]

青クリスタル×47

緑クリスタル×1

[Ωカウンター]000.84%


----------


「おぉっ、やっぱりLvが上がってる!」


 リーディングホークを倒せたのは、何も魔法の力だけではない。

 これまでの5年間、エメラルドの修行の一環で迷宮の魔獣を倒しつつ、Lvを積み上げてきたからこその結果であった。


「でも、たった一度の戦闘でLvが3も上がっちゃうなんて」


 死神の大迷宮にいた魔獣は、何十体も倒してようやく、Lvが1上がるかどうかというところだった。

 地上のボス魔獣がどれだけ強いか、これだけでもよく分かる。

 

 また、リーディングホークを倒して嬉しかったのは、Lvだけではなかった。

 ゼノは、[所持クリスタル]の項目に表示された〝緑クリスタル〟という名前を目にして、思わず笑みをこぼす。


「ダンジョンのボス魔獣を倒せば、緑クリスタルが手に入るって、本当にお師匠様の言う通りだったな。これも嬉しい誤算だ」


 魔導袋の中から、キラキラと緑色に輝くクリスタルを1つ取り出す。

 これがあれば、運が良ければ、一気に☆4の魔石を入手することが可能なのだ。


「☆4の出現確率は1%だけど、☆3は20%もあるし、なかなかに夢があるぞ」


 本来の目的からすれば、緑クリスタルを1個手に入れたところでどうにもならないのだが、リーディングホークに使用した2つの攻撃魔法は、ゼノの価値観を大きく変えていた。

 

「すごかったなぁ……。まだ反動で手が痺れているよ」


 攻撃魔法を放った時の感覚は、これまでゼノが経験したことのないものであった。

 正確には〝大賢者ゼノが操った魔法を聖剣クレイモアを用いて再現しているだけ〟に過ぎないのだが、それでもゼノの中では確かな実感として残っていた。


「☆3や☆4なら、もっとすごい魔石が手に入るかもしれないんだ」


 もう一度あの魔法を使ってみたい。

 そんな欲求が、緑クリスタルを入手した嬉しさに繋がっていた。


「……さてと。そろそろ報告に行こうかな」


 もろもろの確認を終えたゼノは、その後、すぐに冒険者ギルドへと向かった。




 ◆




「こんにちは冒険者さん。今日はどういったご用件でしょうか?」


 初めて訪れた時と同じように、ティナが笑顔で迎えてくる。

 ――だが。


「!」


 相手がゼノだと気付くと、彼女はすぐに顔をしかめる。


 その中には、まさかこんなに早く帰って来るとは思っていなかったというような、驚きの表情が含まれていた。


「……ゼノ、さん……」


「こんにちは。受注していたクエストを達成したので、その報告にやって来ました」


 ゼノは魔導袋の中からベリー草の束を取り出すと、カウンターにドサッと置いていく。


「え……こんなにたくさんっ!?」


「間違いがあると不安だったんで、多めに採取してきたんです。一応、イラストに描かれている物と同じだと思うんですけど……」


 ティナはベリー草を手に取ると、それをいくつか確認する。


「……た、たしかに……。これは、ベリー草です……」


「ほっ」


「は? ちょ、ちょっと待ってください……! こっちのこれ、まさかクラウンベリー草!? 嘘でしょ……?」


「クラウンベリー草?」


「ありえない……。たった半日でワイド山まで行って、これだけのベリー草を集めて……しかも、最高級の食用草まで採って来るなんてっ……」


 明らかに様子がおかしいティナを見て、ゼノは何かミスをしてしまったのではないかと不安になる。


(どうしたんだろう、ティナさん……。俺、なんかやっちゃったのかな……)


 そんな風にゼノが戸惑っていると。


「ほぅ。こりゃ、たしかにクラウンベリー草だねぇ」


 隣りのカウンターにいたギルド職員の男が話に加わってくる。


 男の短髪は、ティナと同じようにブロンド色だった。

 最初、彼女の兄か何かかと思うゼノだったが、髪の色以外はあまり似ていない。


 見る者を惹きつける魅力ある美形のティナと比べると、男はどこにでもいる平凡な顔つきをしていた。

 だが、どこか掴みどころのない、独特な雰囲気がある。

 

 年齢は20代後半といったところだろうか。

 自分よりもひと回りくらい年上の大人、という印象をゼノは抱いた。


 男は、ゼノを一瞥しながら訊ねてくる。


「本当にこれを君が1人で集めたのかい?」


「え? あ、はい。あの……なんか間違ってました? これってベリー草じゃないんですか?」


「いーや。これもベリー草だよ。でも、普通のベリー草とは違ってねぇ。クラウンベリー草って言って、滅多に見つけることができない希少性の高い物なのさ」


「そうなんですか?」


 《発見》の魔法を詠唱した際は、対象物を〝ベリー草〟としていたため、一括りに見つけてしまったのかもしれない、とゼノは思った。


「クエストの達成に問題がなければいいんですけど……」


「問題どころか、こっちが余計に報酬を払わなくちゃだねぇ。ねっ? ティナちゃん?」


「……っ」

 

 ティナは信じられないものでも見るように、カウンターに並べられたベリー草の束に目を落としていた。

 彼女の肩に手を置きながら、職員の男は笑顔で自己紹介してくる。


「僕の名前はリチャード。このギルドでチーフをやってるよん。君が例の魔導師くんだねぇ?」


「えっと……はい。ゼノ・ウィンザーって言います」


 ゼノは、リチャードに向かって深々と頭を下げる。

 そんなゼノの姿を見ながら、リチャードは感心したように呟いた。


「ふーん、ゼノくんねぇ……。大賢者様と同じ名前だ。まさかうちのギルドに、こんなすごい冒険者が現れるなんてねぇ」


「え?」


「いや、こっちの話さ。でも、ワイド山には魔獣がいっぱいいたでしょ? それは大丈夫だったの?」


「それなら、向こうで出会った【狂悪の凱旋(トライアンフキラー)】っていうラヴニカの冒険者パーティーの方たちに助けてもらったので。魔獣と一切戦うことなく、山頂付近まで辿り着くことができたんです」


「ほぅ……なるほど、そういうこと。まぁでも、それにしたって戻って来るのが早すぎるんだけどねぇ」


 すると、その時。


 バンッ!


 受付カウンター奥のドアが勢いよく放たれると、中から巨漢の男が姿を現す。

 

「うぉぉいッ! ゼノ・ウィンザーってのはどこのどいつだぁぁーー!!」


 大男は、館内全体に響き渡るような野太い声を張り上げた。

 彼こそ、マスクスの冒険者ギルドを仕切るギルドマスターであった。


(うぇっ!? な、なに急に!?)


 突然、名指しされたことに驚いていると、リチャードが何でもなさそうにゼノを指さす。


「あーあ。ダニエルさん、こっちですー。この彼がゼノくんでーす」


「んおぉぅ!」


 ダニエルと呼ばれた大男はしゃがれ声で返事をすると、ドカドカと足音を立てながらゼノたちがいるカウンターまでやって来る。


「てめぇが……ゼノ・ウィンザーかぁぁ!?」


「は、はいっ! そうですけど!?」


「んんぉッ!!」


(えぇっ!?)


 銀色の短髪を漢らしくかき上げると、強面の顔をぐいっと寄せてゼノに迫ってくる。


 左額から目元にかけては鋭利な刃で斬られたような古傷が存在し、ダニエルはそれを隠すように眼帯をしていた。

 幾多の修羅場を潜り抜けてきた玄人のような雰囲気がある。


 年齢は、40代半ばといったところだろうか。

 また、彼の背丈は、このギルドにいるどの冒険者よりも高かった。


 ギルド職員の制服の上からでも、鍛え抜かれたその強靭な体躯がはっきりと分かる。

 その風貌は、迫力満点の一言だ。


(やっぱり、俺……なんかしちゃったのか!?)


 ダニエルは両肩をがっしりと掴んだまま、じっーとゼノの顔を凝視する。

 終始圧倒されながら、ゼノは彼の言葉の続きを待った。


 やがて、ダニエルは鼻息を荒々しく吐き出すと、ゼノの右手を両手でがっしりと掴む。


「そうかぁぁーー! てめぇがゼノ・ウィンザーなんだな!!」


「な、何なんでしょうかっ……?」


「ダニエルさん。さすがにゼノくん、驚いちゃってますよ。もっと落ち着いて話してくださいねぇ」


「ん? おぉぅ……そうだな」


 そこでようやくダニエルは落ち着きを取り戻す。


 どうやらこれは、彼の癖のようだ。

 興奮すると、このように野太い声を張り上げてしまうらしい。


 一度咳払いをすると、ダニエルは挨拶を口にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、無茶な依頼をしたことをどう釈明するかな
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