後編:君の名は
笹百合女学院文化祭が、盛況のうちに終わった。
我が手品部の舞台も、好評を博し、みんなで万歳三唱した。
私も、追っかけをしているあげ☆ぱんつ先生の新作を読めて万々歳だ。
季節は、秋。読書の秋だ。
そんなわけで、私は今、放課後の図書室で何とはなしに本を物色していた。
文化祭の高揚がまだ後を引いていて、何か心を落ち着けたかったのかも知れない。
(あ……)
そのとき、一冊の本が私の目に飛び込んで来た。
『初心者でも簡単! リンボーダンス入門』
「気になる……」
本当にリンボーダンスが簡単に出来れば、舞台映えする。上手くいけば、手品とからめて何かすごいショーになるかも知れない……。
私はわくわくとはやる気持ちを抑えながら、本へと手を伸ばす。
と、そのとき。
「「あっ」」
横から同じように伸ばされた手と手が、重なってしまった。
驚いて横を見る。
(わ……)
そこには、綺麗な瞳を持った人がいた。こちらの胸の奥まで見透かすような、そんな眼差し。
胸元を見ると、校章の下に赤い線。……二年生、先輩だ。
「あ、あの、どうぞ……!」
私は慌てて手を引っ込めた。
しかし。
「いや……」
先輩は鷹揚に首を横へ振ると、
「君が先に借りると良い」
手に取った本を私へ差し出した。
「でも……」
「何、私は資料として借りたいだけだから。……〆切は、まだ遠いしね」
「!」
〆切。その言葉に、私はハッとした。
もしかして、この人は漫研部の人ではないか……?
だって、『資料』に『〆切』。
もちろん、すぐにその可能性は否定した。
何故なら、資料を必要とし、〆切がある部は、他にもある。
文芸部とか、美術部とか……。
でも、もしかしたら。
「だが、もし我儘を許してもらえるなら、来週には返してもらえるとありがたい。もちろん、読み切れず延長するのは君の自由だから、あくまでお願いとして」
先輩は、ゆっくりと私の手に本を握らせると、そのまま踵を返す。
「それじゃ」
軽く手を振る爽やかな後ろ姿。
「あ、あの……!」
私は、思わず呼び止めてしまった。
「貴女の……筆名は……?」
秋だって、出逢いの季節だ。
END.