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七十三話 浮かれた主人公

明けましておめでとうございます。

今作品を完結させるのを今年の抱負としようと思います。

どうぞ応援よろしくお願いします。

「改めてだけど紹介するね。ウィスティ、こちらはエンジェラ・クライン。エンジェラ、こちらヴィヴェカ・シュルツ、国治隊員。私はいつもウィスティって呼んでる。ウィスティには私の前世の記憶は話してて、朱眼姫の話もだいたい知ってる」

「エンジェラです。よろしくね! ヴィヴェカって呼んでいい?」

「……なんとでも。よろしくお願いします」

「やった! 私の事は普通にエンジェラって呼んでね、敬語使わなくていいし」

「分かった」


 魔術騎士団員に護衛され、学院の裏門からこっそり到着したエンジェラを迎えに行った私は、そのままエンジェラを連れて、下級貴族・平民用である海寮の私とウィスティの部屋に来た。

 覚醒したはずのエンジェラの髪と瞳の色は、元の伽羅色と水色に戻っていて、あの覚醒直後の魔力が溢れる感じは収まっていた。

 色に関しては、エンジェラ自身が魔術で変えている。


「今日から、エンジェラは王城の部屋に入るまで、私達の部屋に泊まることになったから。三人になっちゃってちょっと狭いけど、我慢してね」

「ん」


 静かに頷いたウィスティに対し、エンジェラはにこにこと顔を輝かせている。


「エンジェラ、なんか、嬉しそうじゃん?」

「だって、ヴィヴェカと仲良くするの、無理なのかなって思ってたから。いくら敵だったとしても、可愛いし優しいし強いしで、憧れだったから!」


 嬉しそうにエンジェラが説明する。気持ちは分かる。原作でのヴィヴェカが、いくら最後主人公と敵対する存在だったとはいえ、それまではずっと、素敵で頼りになる良い友達だったから。今は敵じゃないただの良い子だから余計に、仲良くなりたいと思うのは自然な話だ。

 けど、ウィスティは困ったような面倒そうな、複雑な表情をしていた。


「敵じゃ、ないし」

「いや、ごめん! 原作での話、今は関係ないから! ごめん、私大ファンだったからさ、そういう目で見ちゃって……って、困るよね、こんな話」


 ちょっと嫌そうなウィスティに、焦ったように弁解するエンジェラ。それが、原作でのヴィヴェカとエンジェラのやり取りによく似てて、思わず笑いが零れた。


「まぁまぁ。悪いけど話変えるね、色々と話さなきゃいけないことがあるんだ。まず、昨日ギードさんに言われたこと話すね」

「ギードさんって誰?」

「私達の上司」


 ふうん、とエンジェラが頷く。その表情は明るくていつも通りで、一日にして運命が変わってしまった少女のものとは思えなかった。


「エンジェラは、昨日王城に呼ばれたんだよね?」

「えっ? あ、そう、あの後リュメルのお父さんと合流してね。すっごい緊張した」

「でしょうね。それで、これからどうなるってのは、もう聞いてるんだよね」

「えっと、うん。婚約して……っていう話だよね」


 エンジェラは少し顔を赤くして、はにかみながら頷いた。

 ……うーん。エンジェラが、自分の状況についてどれくらい理解してるのか、分からないな。

 とりあえず、ウィスティに手短に要件を伝える。


「ウィスティ。エンジェラは、サグアス第二王子殿下と婚約することになったの。三週間後、婚約発表と婚約の儀がある。その後王城入りする。それまでの期間は安全上の観点から学院で保護されることが決まって、私達が護衛に着く。だから、部屋もこっちに移ったってこと」

「ん」

「それで、恐らくだけど、ムスタウアはエンジェラが覚醒したって事実を把握してる。王城に入ったら恐らくエンジェラを狙うのはほぼ不可能になるから、確実にこの三週間の間にムスタウアはエンジェラを狙ってくると思ってる」

「……うん」


私達の話に、浮かれたようにニマニマしてたエンジェラは、ハッと真面目な顔になった。


「それなんだけどね。改めて計算したんだけど、最終決戦の日、多分婚約の儀の日なんだよね。だから、そこまでは別にそんなに気を張らなくてもいいんじゃないかなぁと思ったりして」

「そういうわけにはいかないんだよね」

「……そうなの?」


 不思議そうな顔をして首を傾げるエンジェラは、やはり事の重大さが分かっていない気がする。


「原作との大きな違いは、原作のエンジェラがまだ春休み時点では微覚醒だったのに対して、今のエンジェラは完全に覚醒しちゃってるでしょ? 王都でのあの事件、結構な噂になってるみたいでさ」


 この事を聞いたのは、ヴィクトリアからだ。


『リラ、キースリング様と王都行ったのって春休暇最終日だったわよね? その日、なんか、王都ですごい魔力爆発があったって噂で聞いたんだけど、何か知らない?』


 心当たりは無いと、適当に流したけれど。王都には行っていないと言ってたヴィクトリアまで知ってるなら、噂は相当広がっているに違いない。


「その正体がエンジェラってことは今は隠してるけど、あの時溢れた魔力が膨大すぎて、権力が欲しい人や、悪どいこと考える人は皆、手に入れたくて探しているはず」

「……うん」

「それに、こういう違いが生じた以上、原作のことを過信するのもよくないよ。春休みの覚醒含めて、今までの事が偶然原作と同じような時期に発生したって思っといたほうがいい」


 正直なところ、原作と同じような時期に事件が発生する、というのは私も結構信じてはいるんだけど。エンジェラには、警戒心を持ってもらいたいから、あえて厳しく言う。いくら私達が守りたくても、当の本人が危機管理をしてくれなかったら、守れるものも守れないから。


「それと……良かったら教えてほしいんだけどさ。サグアス王子と、どういう流れで婚約が決まったの?」

「えーとね……リュメルのお父さんと合流して、人運箱で王城向かって、謁見室みたいなのに通されて、そこに第一王子から第三王子までが並んでてね……」


 照れたように、頬をかきながら、エンジェラは記憶を思い返すようにして話しだす。


「この中で、婚約するとしたら誰が良いかって、国王陛下に言われて……いきなりすぎて私、頭真っ白でテンパっちゃってさ、サグアス様がいいです! って、すっごい大きな声で即答しちゃったんだ~! 礼儀とか欠片もなさすぎて、みんなポカンとしててさ、私恥ずかしくって……」


 そこで、エンジェラは少し顔を赤らめて、両手で顔を押さえた。


「けどね、そこでサグアス様が、めっちゃ笑い出して。サグアス様があんな爆笑することって見たことないから、みんなびっくりしてた。本当にどきどきしたんだよ、すーっごく優しそうな顔で、そなたは本当に面白い、なんて言うから……」


 うれしかった、と小さな声でこぼすエンジェラの顔は、本当に幸せに満ちていた。ちらりと横を見やると、ウィスティも少し口角が上がっている。自分のことと重ねているんだろうか。


「そっか。よかったね」

「うんっ」

「それじゃあさ、水を差すようで悪いんだけど、やっぱり警戒しておかなきゃいけないことが一つある」

「警戒しておかなきゃいけないこと? ムスタウア以外に?」

「いや、警戒は全般なんだけどさ。なんというか──他の王子に、エンジェラが狙われる可能性があるってこと」

「え、……え?」

「考えても見て。原作で、エンジェラと結婚したサグアス王子は最終立太子したでしょ? もちろん素質は一番あるって今でも言われているけど、エンジェラが他の王子と婚約したら多分結果は変わるよ」

「わ、私、別に王妃になりたいとかそんなのないんだけど……」


 本当に分かってなかったのか、エンジェラは目を白黒させている。

 まあ、普通に幸せに生きていたらそうだよな。エンジェラはきっと、サグアス王子と結ばれる以外の事、考えてなかったんだろう。


「そうかもしれない。でも、自覚して。それだけ、あなたは重要な存在ってこと。エンジェラと婚約したら王位継承権が手に入るって、ほぼ確実にみんな思ってる。だから、第一王子と第三王子もひとまず本人の希望で引き下がったかもしれないけど、よからぬ考えで近づいてくるかもしれない。本当に下手したら、既成事実だけ作ろうとしてくる可能性もある。そこに関しては、エンジェラは今は後ろ盾も何もない平民だから、事が起こってしまえば意義を申し立てることもできない。王家としては、嫁いでくれれば相手はどの王子でも構わないだろうしね」

「……うん」


 エンジェラは顔を強ばらせ、小さくうなずいた。


「だから、基本的にはずっと私達と行動するのを忘れないで。授業の時は教室まで送り迎えするから。鬱陶しいかもしれないけど、エンジェラのためだから、我慢してほしい」

「分かった……ごめん、浮かれ切ってたよね」

「ううん。分かってくれたら、それで大丈夫。私達だって、仕事だから厳しく言ってるわけだしね」

「そうだね……国治隊に迷惑かけちゃダメだよね」


 うんうん、と自分に言い聞かせるように頷いたエンジェラは、何かを思いついたのか、ぱっと顔を上げた。


「話は変わるんだけど、王妃ルート回避する方法ってある?」


 ……え。そんなに王妃になりたくないのか。原作を知ってる以上、原作通りに王太子妃になる想定をしてるのかと思っていた。


「ない」


 ウィスティが即答して、私は苦笑いする。


「なりたくないの? 国で一番高貴な人だよ」

「重荷過ぎるよ~! 考えが浅いって言われても仕方ないけど、本当に考えてなかったの!」


 さっきとは一転して、泣きそうな顔になるエンジェラ。まぁ、原作でサグアスは立太子はしても、即位する前に話は終わるから、そこのイメージがなかったと言われたら、たしかになという感じではある。

 回避ルートか。うーん、まぁ、ないことはないんだけど。


「サグアス王子に、継承権放棄してくれって頼むこと、あと、朱玉を作り出さないことだね」

「継承権放棄……そうだよね……」


 王族にとって、王位継承権とは王族であるアイデンティティ。王位を得られなくとも、継承権を放棄しなければ王族であり続ける。逆に、放棄してしまえば、そこらの貴族と同等の存在になる。

 サグアス王子は……そのあたりの執着は薄そうではあるんだけど、ぶっちゃけ恋人が放棄して! って頼んで放棄してもらうような軽い代物ではない。そして放棄しなければ、確実に立太子するだろう。


「朱玉って、なに?」


 ウィスティが首を傾げた。

 朱眼姫(シュガヒメ)といつも訳すから忘れそうになるけど、朱眼姫の正式名称は、『朱眼の姫 ~朱玉を貴方に捧ぐ~』なのだ。


「朱玉はね、私が作り出せる、赤い玉のこと! 魔力の塊なの。その力を使って、原作ではサグアス王子がアイーマを撃退するの。ちなみに、朱玉を作り出した後のエンジェラは、髪と瞳の色が元に戻るんだよね」

「要は、《アベライトの》みたいなもんだよね」

「へぇ」


 この国の国宝、《アベライトの瞳》とおなじ、永久に魔力を生じさせ続ける、不滅の魂のような赤い石。

 つまり、原作のエンジェラは国宝を一個増やしたわけで、それをサグアス王子に捧げたものだから、そりゃあサグアス王子は国王になる以外の道はなくなるよな。


「まあ、原作では魔術がまだ未熟なエンジェラの代わりにサグアス王子が戦うからね。ムスタウアと戦うとなったとしても、そこにサグアス王子の出番はないから、安心していいと思うよ」

「うん、ありがとう。……継承権放棄かぁ。放棄かぁ~!」


 エンジェラが頭を抱えだす。ちょっと面白くて、ウィスティと目をあわせると、ウィスティも少し笑っていた。


 *


「リラさん。わたくしエンジェラ・クラインさんと、お話がしたいのだけど。取り次いでくださらない?」


 次の日。一日遅れで学院に戻ってきた、青い髪の美人にそう言われて、私はごくりと唾を飲み込んだ。

 紅葉色の瞳が、鋭く細められていた。


アベライトの瞳に関しては、二十一話参照。

覚醒した原作エンジェラが、始祖アベライト同等の魔力なのに、なぜアベライトが三つ作った朱玉を一つしか作れなかったのか。作れなかったのではなく、三つ作ったからアベライトは死にました。

一つ目→黒髪赤目を失う。二つ目→一切魔力が使えなくなる。三つ目→生命力が削られる。というふうに、作れば作るほど失うものは多くなっていくので、原作エンジェラはそれ以降作ろうとしませんでした(色彩を失った時点で作れるとも思ってなかった)

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