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七十一話 動き出す

「リラ! 遅かったわね、今日はお休みなのかと思った」


 翌日、ちょうど昼休憩中に私は学院に到着した。教室に着いた途端、ヴィクトリアが寄ってくる。


「ちょっとね、家の方で色々あってさ」

「色々って、大丈夫? 何があったの?」


 突っ込んでこられると思ってなくて、一瞬口ごもる。


「うん、母が具合悪くて。治癒院に付き合ってたんだよね」


 まあ、嘘だけど。もうすぐ臨月に突入する養母エルマにはしばらく会ってないけど、ギード曰く、お腹の大きさから想像もできないくらい、エネルギーが有り余っているらしい。


「あら、心配ね。病気かなにかだったり?」

「ううん。でも今妊娠してて、もうすぐ臨月だから、念の為って。結果大したこと無かったけどね」

「えーっ! じゃあリラ、もうすぐお姉ちゃんになるってことよね!? めでたいじゃない!」

「うん、だよね。楽しみ」

「本当に思ってる? 反応薄いわよ?」


 ヴィクトリアは怪訝な顔をした。いやまぁ、楽しみではあるけど、実の家族ではないし。


「うーん、だって歳離れてるじゃん? 学院卒業したら家出るから、そんなに関わらないと思うからさ」

「そういうもの? せっかく家族が増えるのに、勿体ないわね。あたしはお父さんだけだから、余計いいなって思っちゃうのよね。それに、あたし養子だし──」

「リラ、遅かったね」


 唐突に後ろから声をかけられて、ヴィクトリアはギョッとして振り向いた。


「また明日って言ったのに、来ないから。約束を破られたのかと思ったじゃないか」

「ちょっと色々あったんです……」


 ヴィクトリアが、目を丸くして私とリュメルの顔を見比べている。ヴィクトリアだけじゃない。クラス中の視線が集まっている。深い深い溜息が出そうになるのを必死にこらえた。


「ほら、今日はレイヴン侯爵令嬢も休みだろう? 君も休みなのかと思って」


 意味ありげに微笑むリュメルを張り飛ばしたい。これだから、温室育ちのくせに好奇心旺盛なお坊ちゃまは困るのだ。

 私はきょとんと首をかしげた。


「クロエ様もお休みなんですか? 珍しいですね」


 サグアス王子の婚約者であるクロエが、昨日の今日で学院を休んでいるのにはもちろん大きな理由があるし、それを私が把握しているのをおそらく分かって言ってるのだろう。

 けどだからと言って、この視線が集まる中で、しかもいかにも含みがあるような言い方で、その話をするなんて。機密情報というものについて、キースリング侯爵に一度しっかりと指導しておけと言いたいものだ。

 すっとぼけた私に、リュメルは少し不満げになるけど、無視して続ける。


「それと、昨日はありがとうございました。まさか、うちの父とキースリング侯爵様が旧知の仲だなんて、驚きました。でも、いくら昨日で()()()()って言ったって、名前呼びは恥ずかしいですよ」


 休みにあったのも突然名前呼びになったのも、親同士の繋がりだと笑顔で言い切れば、聞き耳を立てていたクラスメイト達は疑わしそうではあるものの、徐々に興味を無くして目線を逸らしていく。


「それと、うちの父から、キースリング侯爵様に伝言があって。後で、お伝えしますね」


 暗に、後で話そうと言えば、不満げにしていたリュメルは納得したみたいだった。


「分かった、あとでね」


 手を振って、去っていく。本当に、手のかかる。疲れた気分でその後ろ姿を見送っていると、ドンッと強めに肩に手を置かれた。

 振り向くと、ギラギラ目を輝かせたヴィクトリアが居る。


「結局、デートしたのね!?」


 ああ、そういや休暇前のやりとりを知られてたんだっけ。堪えきれず、私はため息を吐いた。


 *


 本当は昨日の夜中に学院に戻る予定だった私が今日、こうして学院に遅刻して戻ってきたのには、もちろん仕事が関係している。

 昨日国治隊の寮に戻って、ルゥーとウィスティと夕飯を食べて、学院に戻る準備をして。

 人運箱にウィスティと二人で乗り込む直前、私だけがギードに呼び出され、ウィスティは一人で戻ることになった。


「昼間はご苦労だった。そのことで伝えることがあってね。件の少女の魔力量を測った結果、始祖アベライトとほぼ同等であろうという結果になったと連絡が来た」

「アベライトと同等……」

「ああ、俄には信じ難い話だ。それで、急遽彼女とサグアス第二王子殿下の婚約が整えられることになった。理由は、言わなくてもわかるね?」


 伝えられたのは、予想していたこと。

 始祖並の膨大な魔力を得た少女は、言い方を悪くすればある種の兵器と言えよう。

 王家は当然取り込みたがる。手放すわけがない、エンジェラの力は本当に魅力的で、同時に危険すぎるのだから。

 最も簡単なのは、王子の誰かに嫁入りさせること。そして、()()()()エンジェラはサグアス王子と親交があった。

 だから、サグアス王子とクロエの婚約は解消となり、エンジェラはサグアス王子との婚約の段取りが進められることとなった。


「少女の魔力の後天的発現──便宜的に覚醒と呼ばれることになったんだが、この事が世に知られれば、彼女はあらゆる存在から狙われることとなろう。彼女を守るために、国王陛下は彼女を王城に匿う意向でいらっしゃる」

「ですが、いくら覚醒したとはいえ、エンジェラは平民ですよね?」


 伯爵家以下の者は、普通王城での滞在は許されない。王家の者の婚約者ともあれば話は別だけど、正式な婚約の儀を終えてからでないと婚約者とは認められない。

 私の疑問に、ギードは頷いた。


「最速で準備を整えて、婚約発表及び婚約の儀は三週間後となる。その時に、同時に少女の覚醒の事実公表もするらしい。それまでは、学院で保護するようにと陛下の仰せだ」


 王城がこの国で一番警備が固いと言える。そして、確かに学院が次点で安全だ。ムスタウアの事がなければ。


「また、少女の安全確保のため、覚醒のこと、及び今日の事件のことは全て内密の事とするそうだ。そこで、発表の日までの少女の護衛の仕事が、君に回ってきた。ちょうど、彼女と親交があるみたいだしね」

「内密にするなら、正式な王家の護衛をつけるわけにもいかないですしね……」

「そういうことだ」


 エンジェラは魔力量だけが爆発的に増えただけで、技術が伴っていないから、強いわけじゃない。

 そうでなくとも、今の彼女はあまりに重要人物で、万が一にもエンジェラの身柄が何者かによって傷つけられたり、奪われたりしてはならない。

 しかし、大がかりな護衛をつけてしまえば、目立ってしまって、何かあるのかと周りに勘ぐられてしまう危険があるから。


「顔色が悪いように思えるが、何か懸念点でもあるのかね?」


 私は、言葉に詰まった。

 原作で、エンジェラが巻き込まれる事件を知らなければ、この護衛はただの保険にすぎないのに。

 予言のことを知らなければ誰も知らない。ムスタウアの本当の狙いがエンジェラだと。

 私だけが知ってしまっているから、重大な任務なのだ。

 拒否権などない。もともとムスタウアに狙われる一般市民を助けるのは任務の内。分かっているけど、でも。

 直接、それも王家から命令が下されてしまうと、エンジェラに何かあったとき、それは即ち私の死だ。

 ごくりと口にたまった唾を飲み込んで、いえ、と首を横に振った。


「そうかい? まあいい。当然、クラスが違うから、授業中などは見れないだろうが、そこは気にする必要はない。しかし、それ以外の時はしっかり気を張っているように。もちろんヴィヴェカにも伝えて、協力して任務にあたるように」

「承知いたしました」

「それと、あと二点。一つ目は、今日の馬車馬暴走事件について、まだ少しだが分かったことがあるから伝えておく」

「はい」

「四頭の馬全てから、魔力増幅剤が検出された」


 私は息を飲んだ。ムスタウアの関与は予想していたけれど、つまりはそれが確定されたということ。


「知っている通り、動物には魔力がないが、魂を守る核殻かっかくはある。それが過剰生成され、外に出る代わりに魂自身を圧迫したらしい。暴走したのはそれが原因だ。その痛みか、過剰生成された核殻が魔力となったのかは分からないが、火事場の馬鹿力と言うべきか、並外れた力が出たのだろう。それで、君が馬車を強制的に固定したのと合わさって、ハーネスがちぎれてしまったという訳だ」

「そうでしたか……」

「いつ、どうやって魔力増幅剤が盛られたかはこれから調査する。それと、第二王子殿下の結界が破られた件だが……潜入任務開始直後、君が報告を上げてくれたことがあったね? 安定の魔術を、不安定の魔力に戻してしまう魔術」

「ああ……」


 思い出す。学院に来た初日、警備用魔道具に張られていた、異様な結界。あれを張ったのは何も知らないアイセルだったけど、恐らくあれを教えた人はヒューロンと考えていた。


「状況から考えて、あの魔術が使われたのだろう。第二王子殿下の証言で、自分の結界がコントロールを失い爆発しそうだと感じたそうだ。周りに危害を加えては行けないと思い、咄嗟に自分の中に魔力を押さえ込んだところ、体内で魔力の一時的暴走が起きたようだ。それを、外から攻撃されたと勘違いされたらしい」

「なるほど……ちなみに、殿下の容態は?」

「大事なかったようだ」

「そうですか。良かったです」

「ああ。話を戻すが、つまるところ、あの魔術はムスタウア内で共通で知られている魔術で、ムスタウアの組員があの場にいて、第二王子殿下の結界に直接かけた可能性が高い」


 ギードは、わかるだろう? と言いたげに私を見た。


「エンジェラ・クラインの、魔力の覚醒の事実を、ムスタウアに知られている可能性が高いということですね」

「そうだ。あの事件を引き起こした目的は、不明だがな」


 ギードは重々しく頷いた。目的は、断定はできないけど、やはりエンジェラの覚醒だと思う。おそらく、覚醒の預言は原作通りに残されているだろうから。


「学院におそらくムスタウアの者が潜入している以上、これからの三週間は本当に重大な任務であるということだ。サポートは惜しまない。全力を尽くしてくれ」


 国治隊の総意として、エンジェラ護衛の任務が思ったほど軽視されていないことに、わずかばかりの安堵を覚える。

 それと同時に、原作で起こった事件と似たような状況になりそうな不安も。

 アベライト生誕祭のときに、エンジェラに聞いた原作情報。最終決戦は、おそらく春休暇の約二週間後。原作とは違い、魔術決闘大会の一部延期に伴い春休暇が一週間短くなったことを考慮すれば、約三週間後。

 そして、覚醒と婚約発表までの護衛期間の三週間。

 ほぼ確実に、ムスタウアが、何かを起こしてくるだろう。


「頼んだよ、リラ」

「必ず、果たします」


 失敗は許されない。私はギードと目を合わせて、頷いたのだった。


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