六十二話 合同訓練
気づいたら一年かるーく経ってました。文章の書き方忘れましたが少しずつ思い出していきます。
「合同訓練、だるいな……」
「……ん」
私のぼやきに、渋い顔をしながらウィスティが同意した。
一週間はあっという間に過ぎ、春休暇がやってきた。今は、国治隊に戻る人運箱の中。
この後待ち受ける訓練を思うと、ため息が出そうになる。
ルゥーに春休暇中の仕事の有無を聞こうと連絡した時に、春休暇間の魔術騎士団との合同訓練の存在を知らされたのだ。
「二人とも、学院に半年以上いて、体がなまっているだろう? 特別に、この時期の騎士団との合同訓練の機会を設けてもらおう」
ギードがそう言い、四日間の訓練が組まれたらしい。魔術騎士団との合同訓練となると、体力作りの走り込みから始まり、筋トレ、魔術訓練、模擬決闘などなど、とにかく限界まで体を酷使するに違いない。
今までで何回も合同訓練をやってきたけど、今まででも一番嫌だ。体がなまっているのはわかってる。だからこそ、嫌なのだ。同じ内容でも、普段の数倍はきつく感じるに決まっている。
「四日もあるなら、残りの日はゆっくり休みたいし、王都は無しかなぁ」
ぽつりと呟くと、ウィスティは私を見た。
「……ライラ、王都、行きたくない?」
「え……いや、別にそういう訳じゃないけど。ウィスティは疲れてても行きたいんだ?」
「……だって、ライラ、もうすぐ誕生日」
「あー……」
そういえばそんなのもあったな。最近それどころじゃなくてすっかり忘れてた。
「お祝いするのに、丁度いいって、思ってたから……」
「別に良いんだけどね。ウィスティのだって、ちゃんと祝ってあげらんなかったし」
何か欲しいものがあるかと聞いたら、ヘアアレンジのやり方を教えて欲しいと言われたから、三つ編みやら編み込みやらのやり方を教えたくらい。ついにオシャレに目覚めたのかと嬉しくなって、前世ではヘアアイロンと呼ばれた魔道具を買ってあげようとすると、いらないと断られた。
例年はルゥーと国治隊のみんなでささやかなパーティをしていたけど、今年はもちろんしていなかった。
元々私も自分の誕生日に大した執着は無いし、ウィスティのを祝えてないのに自分だけなんて余計申し訳ない。
「……でも、なんか、したい」
「別に欲しいものもないし、気にしなくていいってば」
そう言いながら、ウィスティの肩を軽く叩く。ウィスティの胸で光るネックレスが目に入って、そういえばと話を変えた。
「ウィスティは、告んないの?」
「えっ」
「こんなん貰っといてさ。もう、そういう事なんじゃないの」
ルゥーの瞳の色の石のネックレスを、つんつんと指でつつく。
「さっさとしないと、取られちゃうかもよー?」
からかい口調で言ってやれば、ウィスティはむっと口を尖らせた。
「ライラ、すぐ、そうやって話そらす」
「だってどうでもいいし。あっそうだ、それこそ王都、二人で行けばいいじゃん」
「……やだ。ライラも一緒に来て。」
顔をしかめて、ウィスティはぷいっとそっぽを向いた。あーあ、怒らせちゃった。
*
「っはぁーやば、しぬ……」
流れる汗をタオルで拭い、ごくごくとボトルに入った水を一気飲みする。
久々の訓練、二日目。普段から体を動かしていても多少はきついのに、学院に通い出してからは多少の運動はしていると言っても、以前に比べたら微々たるもの。一日目のせいで筋肉痛は酷いし、お構い無しに今日も筋トレに持久走。
その上、まだこの後には模擬戦が待っている。ひたすら長剣を振るものと魔術以外はなんでもありなものと魔術も含めなんでもありなもの。計三種類の模擬戦が、今日から一日一種類ずつ、総当たり形式で実施される。訓練参加人数は騎士団と国治隊各三十人ずつ。嘘だろうと言いたい。というか基本的にいつも言ってるけど嘘じゃないんだなこれが。
気が遠くなっている私の隣で、ある一点を無表情でじっと見つめているウィスティがいた。その視線の先を辿って、思わず苦笑する。
「ラムスドルフさん、お水は足りていますか? よろしければこれどうぞ」
ニコニコと水の入ったボトルをルゥーに向けて差し出す、見知らぬ金髪の美人。
それをルゥーはにこやかに受け取り、一気に飲み干した。金髪さんはあっと声を上げた。
「あら、零れてお服が濡れてしまいましたわね! こちらをお使いくださいな」
何処から出してきたのか、フワフワの白いタオルをルゥーの手に押し付けた。
元々汚れてもいい運動服で、もうすでに汗でかなり濡れているんだから、かなり白々しく思えるのだけど。ルゥーはどうも、と軽率にタオルを受け取っている。
それを見て、隣のウィスティの雰囲気がずーんと重くなった。
見たことの無い顔だから、おそらく去年卒業したばかりの新しい魔術騎士団員だろう。数は少ないが、騎士団にも女性はいる。しかも、これまでの訓練でへばって地面に倒れて伏している人が多い中、あれだけニコニコと元気にしているのだから、かなり優秀な人なんだろう。
この人、どうやら──ルゥーに一目惚れ、したらしい。何があってそうなったのか詳細は知らないが、気づけばルゥーのとなりにひっついて、物凄く積極的に話しかけていた。
そんなルゥーはというと、そんな彼女の様子に若干困ってはいるものの、もともと人当たりが良く紳士的なため、邪険にすることもない。
私は、ルゥーの気持ちはウィスティにあると知っているから、別にルゥーはなんとも思っていないんだろうなと分かるけど、ウィスティは違うだろう。
昨日の夜からずっと、ものすっごく不機嫌だ。
「そんなに嫌なら、割り込んでくればいいのに」
「……どうこう言える立場じゃ、ないし」
「んーじゃあ妹の立場ふりかざして甘えに行けば?」
軽い口調で提案すると、ウィスティにギロっと睨まれた。
「その言い方、悪意ある」
「んー、やっぱり? ごめんごめん」
笑いながらなだめるように、ウィスティの背中をとんとんと叩く。
嫉妬したことを素直に言っちゃえばルゥーも喜んでくれるだろうに、いつまでも私の横で不機嫌そうに黙ってるから、意地悪な気分にもなる。
こういう時に側にいても、私とウィスティどちらのためにもならない気がして、「水足してくる」と言い残し、ウィスティから離れた。
水は魔術でつくりだし、塩分補給のために用意されていた塩と一緒にボトルに入れて、振って混ぜる。休憩の時間もあとちょっとだな、と時計を確認していたところで、とんとんと後ろから肩を叩かれた。
振り返って、肩を叩いてきた相手を見て、驚いた。
「久しぶりだな。元気にしていたか、モーガンス隊員」
「はい。ご無沙汰しております、キースリング魔術騎士団長様」
黒髪に黒い髭をたくわえ、最近よく見る蜂蜜色によく似た色合いの瞳に静かな光を灯す、どっしりとした貫禄のある風貌の男。このひとこそが、キースリング魔術騎士団長、またの名をキースリング侯爵。リュメル・キースリングの、父である。
キースリング侯爵とは、なかなか会う機会はなかった。なんたって魔術騎士団のトップに君臨し、王国の貴族の中でも高い地位についているので、騎士団との合同訓練に参加することも滅多にない。
それでも顔を合わせればこうして声をかけてくれるのは、アイーマを壊滅させた時の縁のおかげだろう。ルゥーとウィスティと私が、罪に問われることなく国治隊に所属することとなった件についても、騎士団長として、そして一侯爵としてかなり尽力してくれて、色々とお世話になった存在でもある。
「そう固くなるな。少し礼を言っておかねばと思っただけだから」
茶目っ気を含んだ笑いを向けられ、少し困惑する。
「お礼?」
「愚息のことだ。学院で、かなり世話になったと聞き及んでいる」
「いえ、とんでもございません。共に魔術の研鑽に励む者として、ご令息のお役に立てたのなら幸いでございます」
軽く頭を下げながら、リュメルのことか〜! と苦笑いする。
正直なところ、リュメルに対する私の言動はかなり好き勝手している自覚がある。リュメル自身は目を瞑ってくれていても、それを父であるキースリング侯爵に伝えられると、こう、別に上司とかでは無いけれども、なんか気まずい。
リュメルは一体私についてどのように話したのだろう。
「リュメルがアイオライトの魔術師の大ファンであることは聞いたかね?」
「……ええ、この身に不相応な呼び名ではございますが」
「謙遜する必要はない。その本人に指導を付けてもらったのだと、大喜びしていた。あいつにとっては、昔アイーマの壊滅の話をしてやった時からの憧れの存在だからな。私としても、あいつの魔術へのあの意欲がさらに伸びるのは良い事だ」
「……光栄にございます」
反応に困って、とりあえず笑みを張りつけて言葉を返す。
キースリング侯爵は、少し考えるように私を見てきたかと思うと、ニィと目を細め、ポンと肩に手を置いてきた。
「目をつけられたモーガンス隊員には悪いが、うちの愚息はなかなかしつこいやつでね。地の果てまで追いかけてくるであろうから、舐めるべきでないぞ」
「……は」
「それでは、のこりの訓練と、任務も引き続き頑張りたまえ」
そう言い残し、キースリング侯爵は背を向けて去っていく。
……最後の言葉が、どういう意味なのか分からず、私はハテナを浮かべながらその姿を見送った。
親公認ってやつですね




