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五十七話 核石作り

 ヴィクトリアに教えてもらった通り、翌週の実技授業は核石作りの授業だった。

 まだ何としても魔力が必要な場面で、魔力切れになりそうな、本当にいざと言う時に使う核石。核石を使って再び作る際には、国治隊でも申請をすれば、核石作りの日の前後二日間、休暇を貰える。それほどに核石は使える限りの魔力を振り絞って作るもので、大仕事であり、魔術師として重要なことだ。

 作る前々日から魔力を使わず、作ったあとは魔力がすっからかんで動けない。それほどのものだから、私も魔術決闘後、再び核石を作る機会にまだ恵まれていなかった。今回の授業は、私にとってもラッキーだったと言えよう。


 実技の授業は普段教室で行われるが、今日は皆魔術競技場に集められている。競技場は大規模な授業にも使われることがあった。

 生徒一人一人の前に、核石を作るのに必要な台が置かれる。台から金属の棒が伸びて、その先には小指の爪ほどの小さな丸い金属の球がくっついている。


「いいかぁー、こいつぁ核石製作台だ。一人前の魔術師になりゃぁ、いずれは自分専用の台を持つようになるだろーが、今は学院のものを使う」


 説明しながら、球がちょうど胸元あたりの高さに来るようにマークス先生は調節する。


「核石作りの手順についてはぁ、授業でも説明はあったよなぁ? まーもいちど簡単に説明するとぉ、まずはこの球の周りを覆うよーに、魔力を固めて核石の外側を作る。んでー、球を外すだろー? そーしたら、残りの魔力をこの空いた内側にぃ、ぜーんぶ、とにかく押し込んで固めていく。んな感じだぁ。入りきらねぇ魔力をぜーんぶ入れてこそ、核石だかんなー」


 核石と『実体化』魔術の原理は一緒だが、実体化に使った魔力を再利用するのがかなり難しいのに比べて、核石は体内に取り込むだけで魔力として使える。

 その理由は、凝縮し固めた魔力の圧倒的密度だ。同じ量の魔力を小さく固めれば固めるほど、使用した時の魔力の還元率は高い。もちろん、そうするのが難しいけれど。

 一方で、当たり前ながら魔力量によって作れる核石の大きさは変わってくる。すなわち、この製作台についている球の大きさも、全員同じではいけないのだ。そういうことだから、一人前の魔術師は、自分の最適な大きさの球がついたオーダーメイドの製作台を使うというわけだ。


「学院ではぁ、(一番上)クラスから(一番下)クラスの全ての生徒が同じ製作台を使うー。もぉちろん魔力量によってー、推奨サイズはちげーわけだからー、学院で使う製作台はこの球の大きさが変えられるよーになってんだぁ。ほら、製作台の側面に調節用のつまみがあんだろー?」


 確かに、台の側面に黒い小さなつまみがある。回してみると、球が少し小さくなった。だが、試した瞬間にマークス先生の注意が飛んでくる。


「言っておくがー、不用意にいじるんじゃねーぞー? 今の時点で、このクラスの魔力量平均に最適な大きさにしてあんだからなー」


 製作台に手を伸ばしかけていた生徒がちらほら、ギクリとするのが見えた。私はというと、時すでに遅し。でもいつも使っている自分専用の台の球の大きさくらい、感覚で覚えているから問題ない。

 軽く球に触りながら、反対の手でつまみを回して、いつも使っている台と同じ大きさになるよう、微調整していく。そんな私を他所に、マークス先生は説明を続けた。


「んじゃーこれより、手本を見せてくぞー。最初に、この球をピッタリと覆うような結界を作れぇ。んでー、その薄さを保ったまま実体化しろ。強度はできるだけ強くなー」


 言うと同時に、マークス先生は自身の球の前に手を掲げる。ふわりとオレンジ色の光がゆらめいて、球の周りにマークス先生の魔力の色である柿色の、薄い光の膜が現れた。これが、核石の外側の殻となる部分だ。


「さぁ、お前らも一緒にやれよー」


 先生をじっと見つめる生徒たちにマークス先生が言うと、生徒たちは慌てて結界を作り、上から魔力を加えていく形で実体化していく。

 私も例に違わず、球を綺麗に覆う実体化の殻を作り出した。青紫色で透明なそれは薄く、球の色を綺麗に透かしていて美しい。


「じゃーぁ今からこの球を外すがー、形を崩さねぇよーに気をつけろよー。球を外すにはー、この球と製作台を繋げている金属の棒。こいつぁアームっつーんだが、これをくるくる回せばいーだけだ」


 アームをくるくると回していくと、ピタリと隙間なく殻に覆われていた球が萎むように小さくなり、その分グラグラと不安定になる殻を支える三本の細い支柱が、アームからでてくる。球部分の大きさが丁度アームの太さと同じになると、三本の支柱がすっぽりと殻をアームから抜き、くるくると殻を回転させ、殻の唯一の穴が自分たちの目の前になる方向で止まった。


「出来たなー? 今、球がアームに繋がってるせいで出来た、核石の外殻の穴が見えてるよなぁ? こっからぁ、今から魔力を注入するぞー」


 マークス先生は、自身の前にある核石の殻の穴を、とんとんと軽く叩いて見せた。


「注入方法はもう習ったと思うがー、主に二つ。一つ目はとにかく圧縮した状態の魔力を底から詰めていく、通称敷き詰め法だ。ほらーキースリングー、製作台の仕組みなんか観察してねぇで、利点と注意点を言えー」


 丁度目の前で私の前で製作に取り掛かっていたリュメルはビクッと姿勢を正した。


「利点は核石製作にかかる時間が削減できることと、熟練の魔術師であればより質の高い核石を作ることができることです。注意点は、製作者が未熟であったり製作台の球の大きさが合っていないと、外殻に魔力が入り切らず溢れたり、逆に外殻と中身に隙間が生まれ、不完全な核石となってしまうことです」

「完璧だー。一歩間違えたら大惨事なんだからなー、よぉく聞いておけよー」

「はい、すみませんでした」


 リュメルに注意できるのなんて、ぶっちゃけマークス先生くらいだと思う。まぁ、リュメルが注意されるほどの好奇心を発揮するのも、実技授業だけだと思うけど。


「二つ目の注入方法はー、凝縮なんて気にせずとにかく魔力全部を押し込むようにして入れていく、通称押し込み法だー。んじゃー後ろのモーガンス、こちらの利点と注意点はー?」


 飛び火してきた。

 ちなみにこの二つの方法は、袋に新聞紙を大量に入れようとした時に、小さく固めてからどんどん入れていくか、適当に入れてから後から全体的に圧縮していくか、みたいなイメージだ。


「利点は、多少魔力量と製作台の球の大きさに差があったり、技術が未熟であったりしても、均一な濃度の核石を制作できることです。注意点は比較的製作時間がかかることと、終盤の魔力注入はかなり体力を消費することです」

「正解だー」


 マークス先生は軽く頷くと、自分の製作台に向き直った。


「今日は、押し込み法でやっていく。全工程の手本をみせるにゃぁ時間がかかりすぎるので、先に俺が始めるがー、満足するまで見たら各々自由に始めることー。先に注意点を言っておくが、とにかく集中力を切らさずに、最後まで魔力を押し込んでいくことー。殻から魔力が溢れそうになれば、それ以上の力で抑え込め。んで最後ぉー、注ぎ終わったら注ぎ口の魔力を固める。以上だー」


 それだけの説明をすると、マークス先生は自身の製作台に向き合った。魔力は殻の穴に直接注ぐのではなく、少し離れたところから勢いよく放つようにして注ぐ方が簡単だ。

 少し離したところでマークス先生は手をかまえ、掌から柿色の光が溢れ出した。まっすぐ、一筋の光が殻の穴に注ぎ込まれる。すぐに殻は魔力でいっぱいになり、穴から光が溢れだそうとする。それを抑え込むように、ぐんと注ぎ込まれる魔力の筋が太くなった。

 魔力が溢れているわけではないけれど、魔力の放つ光で、マークス先生の周りが神聖なる空間のように明るくなっている。

 周りの生徒はみな、息をこらすようにして、それを見守っていた。


 満足した生徒が一人、また一人と観察をやめて、自らの核石に向き合っていく。

 近くにいる生徒が全員自分の台に向かったのを確認したところで、私は自分のに取り掛かり始めた。というのは、押し込み法を使う気なんて、さらさら無かったから。

 だって押し込み法はさっき言った通り、無駄に時間も体力も使う。初心者向けの作り方だし、誰に聞かれたって私は初心者じゃないと言い切れる。ただ、一応先生の指示には逆らうから、皆が集中し始めた後に、こっそりとしようと思ったのだ。


 押し込み法と違い、敷き詰め法は、指先でしっかり魔力を凝縮してから、殻の中に溜め込んでいく。だから手は殻から離さず、指の爪ひとつ分ほどの距離に保つ。

 そうして出した魔力を、指先で操るようにして、ぎゅっと圧縮する。きつく、とにかくきつく。けれど個体にしてしまうと、核石の殻をきちんと満たせないので、ある程度緩く、どろりと粘性のある液体のように。液体のようになった魔力が一滴、二滴と殻の底に溜まっていく。少し溜まると、私の魔力である青紫の雫が落ちる度に、殻の中の液面がとぅるん、と揺れる。

 扱いやすいように柔らかく、けれど最大限圧縮して。その加減を慎重に慎重に見極めながら、集中して魔力を注ぐ。


 あともう少し。

 一滴。

 二滴。

 おわり。魔力、もうすっからかんだ。魔力は人の体にとっても電池のようなもの。空になった途端に脱力しそうなのを気力で何とかこらえて、注ぎ口に垂らした最後の魔力を、殻同様に実体化して固める。


 できた。

 ふう、と息を吐くと同時に、カクンと足から力が抜けて、ほぼ崩れ落ちるように床に座り込んだ。


「なぁに勝手に教師の言うこと無視してんだー」


 突然、頭上から声が振ってきて、私はびくりと見上げる。

 マークス先生が、呆れた眼差しで私を見ていた。


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