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四十五話 魔術決闘大会

 瞬く間に五日は過ぎ、私たちは決闘大会の日を迎えた。

 一応理事長に魔力増幅剤についての話は通し、今日までの五日間にできる限りの準備はしておいた。

 まずは、生徒の間で広まった薬の回収。それから服用したであろう生徒の決闘大会への出場停止。ただし、出場停止をくらうという情報がどこから漏れたのか、回収できた薬は想像より遥かに少なかった。

 おそらく、薬を所持する生徒たちは上手く隠して見つからないようにしたに違いない。出場停止をくらった生徒もたったの数人。生徒たちが試合後バタバタ倒れる可能性は大いにある。

 そこで、医務室のクーア先生を含む治癒師を八人ほど校内に配置した。ついでに、毎年警備のために配置される魔術騎士団員に加え、国治隊からも数人警備に来てもらった。ちなみにルゥーはその中には入っておらず、何か起きて人手が足りない場合は学院まで応援に来てもらうことになっている。

 正直、本当に何が起こるか分からないけれど、精一杯の準備をしたと言えるだろう。警備が万全なのは生徒にも伝わったようで、例年と違う様子にざわざわする様子が見受けられた。


「──さぁ、静粛に。第四学年の皆はもう知っているだろうが、今一度説明するのでよく聞くように。この決闘大会は公平性のため、対戦相手は全てランダムで決められている。今から配る、こちらの端末を使って全ての試合を管理しているので、自分の試合の開始時間、試合が行われる教室、対戦相手はこちらで確認するように」


 朝、いつも通りに自分の教室に集合し席についた生徒たちに、前に立った先生は魔信具と同じくらいの大きさの魔道具がたくさん入った籠を掲げて見せた。

 と思いきや、それは魔術で一斉に生徒たちにそれぞれ一つずつ飛ばされ、配られる。

 もちろん、大会に参加しない私の分は無いのだけれど、幸い前の席のリュメル含め、誰にも気づかれることは無かった。


「各試合教室には審判の教員が一人と映像記録型監視魔道具が設置されている。まさかないとは思うが、不正が発覚した場合は即座に失格となるので、賄賂、脅し、薬、その他諸々不正と疑われかねない行為はしないよう気をつけるように」


 試合教室は、午前は試合数が多いため、競技場を使わずに普通の授業教室を使うらしい。今私たちがいる教室も使われるそうだが、机や椅子の上から簡易的な床を設置して決闘しやすい空間にするのだという。それを前日に準備するわけでもなく、当日の朝試合の直前に済ませることができるのだから、つくづく魔術とは便利なものだと思う。


「午後からの試合は、主に下級生は教室、上級生は主に競技場での試合となるだろう。昼休憩の時から、食堂に設置される大掲示板にてトーナメント表と映像記録型監視魔道具による映像が見られる。敗退した生徒はその後の行動は自由だが、すぐに寮に帰ってしまったり遊びに行くよりは、今後のためにも試合会場か食堂で観戦することを推奨する」


 そこまで話した教師は、珍しく楽しげな笑みを浮かべて、話の締めくくりに入った。


「連絡事項は以上だ。第四学年(リーラ)クラスの皆の活躍を期待している。が、それ以上に一年に一度の大行事を楽しんできたまえ。それでは、解散」


 その言葉を合図に、生徒達はおもむろに席を立ち、教室を出ていく。

 またあとでね、とヴィクトリアに手を振られて、私は手を振り返した。リュメルは不敵な笑みを浮かべて私をみやり、「特訓の成果、楽しみにしておいてよ」と言い残して去っていった。

 丁度、拡声魔術で校長先生の声が校内に響き渡る。


『それでは、今より魔術決闘大会を開始する。生徒の皆、健闘を祈る』


 こうして、ついに一大イベントが始まった。


 *


「ねぇ、聞きました? あちらの教室でリュメル様の一試合目が早速あるんですって。わたくし少し覗きに行こうと思うのですけど、お時間あるなら一緒にいかがかしら」

「それも捨てがたいのだけれど、上階ではハインリッヒ様の一試合目が同時にあるんですって! それも、同じ(リーラ)クラスの方がお相手らしいの。そちらも気にならない?」

「確かに……迷いますわ。あとは──サグアス殿下は、わたくし一試合目の時間が被って見に行けませんの。残念だわ」


 あちこちから聞こえてくるのは、生徒会役員の試合情報。試合についての情報は開始まで当人以外は知らされないので、あれらの情報はおそらく対戦相手がリークしたものだろう。まあ、観客を集めるために役員たちが自ら周りに伝えた可能性も無きにしも非ずではあるけれど。なんにしろ、情報が早い。

 私は適当に見回りをしながらそのあたりをぶらぶらしようかと思っていたけれど、せっかくなら試合を見に行ってみようかと思い立った。結局練習のとき真剣にリュメルと手合わせ形式をすることはなかったので、正直どれくらい強くなっているのか実は知らないし。リュメルだけでなく、イザークやエンジェラも少し気になる。イザークは果たして、大丈夫なのだろうか。出場停止とは聞いていないので、おそらく例の魔力増幅剤を服用したと告白はしていないのだろう。心配ではあるけれど、こちらはイザークのことについては何も知らないことになっているし、イザークから聞き出した方法が方法だから、下手に口出しもできない。

 とりあえず、あちこちの教室で第一試合が始まったのを見届けてから、私は先ほど生徒が話していた、リュメルの第一試合が行われる教室に向かってみた。……が。

 ドアを開けた瞬間見えたのは、正直中に入るのもためらわれるほどの人だかり。

 ……うん、なめてたわ。あやつの人気をなめていた。というかほとんど女子だし、人が多すぎて試合の様子も全然見えない。ただ、キャーと絶えず黄色い悲鳴が上がっているのでかっこよく活躍しているのだけは分かった。

 ちなみに、教室の中は試合する空間と応援する人が入れる空間の間はしっかり結界が張られていて、中の人に外のざわめきは見えも聞こえもしないので、対戦中の生徒は邪魔されることのないつくりになっているのだ。

 私が中に入ろうとしてからわりとすぐに、ピーッと決着がついたことを示す笛が鳴り響いた。そして湧き上がる女の子たちの歓声。

 まだ始まったばかりだっただろうに、流石だなぁと少し呆れながら、私はすぐにその教室を出た。

 ちなみに観客をしていた生徒の話によると、対戦相手の生徒は(一番下)クラスの男の子だったそうだ。初戦の相手がリュメルだったとか、ドンマイとしか言いようがない。


 廊下に出て少しさまよっていると、エンジェラに鉢合わせた。


「あっ、リラ!」

「おー、やっほ、エンジェラ。一試合目、これから?」

「うん、まだもう少し時間あるけど。同じクラスの子が相手なんだけど、緊張するなあ。リラは?」

「私? 私、大会出ないよ」


 こころなしか青い顔をしているエンジェラは、私の返事にえっと目を丸くした。


「出ないの!? 練習してたのに?」

「リュメルの練習に付き合ってただけなの、知ってるでしょ」

「いや、そうだけど……リュメルは知っててリラを毎日練習に付き合わせてたの?」

「んーん、伝えてない。面倒だから」

「リラ……」


 半目になって呆れた声で私を呼ぶエンジェラに、それはそうと、と私は尋ねた。


「イザークの試合、ちょっと見に行きたいんだけど。いつからどこでやるか知ってる?」

「あ、うん、聞いたけど……いつの間に、試合見に行くほどイザーク様と仲良くなったの?」

「いや、一回二人で話しただけだけど。ただ、なんとなく気になるっていうか」

「ふうん……?」


 エンジェラはなんだか納得しないような顔をしていたけれど、イザークの試合情報を教えてくれた。礼を言って、これから自分の試合教室に向かうエンジェラと別れる。

 イザークの試合教室は、一つ上の階だった。今、ちょうど試合が行われているようだ。教室のドアを開けて少しのぞいてみれば、多少の観客はいるものの、リュメルの時とは違って普通によく試合風景が見える。

 エンジェラ曰く、相手は(ブラウ)クラスらしい。エンジェラとイザーク所属する(ロート)よりも、一つ上のクラス。けれど、イザークは見た限り、いい勝負をしているようだった。

 とはいえ実力は拮抗しており、決着はまだ付きそうにない。数分間眺めてから、私は教室を出た。

 そろそろエンジェラの試合が始まるころだろう。試合後、イザークが倒れなければいいけど、あそこにい続けたって大した意味はない。それより色んな教室を回る方が有効的だと思った。


 そうして、時間は過ぎ、いよいよ午前最後の試合が行われる時間帯になった。

 これから始まる試合が全部終われば、昼休憩の時刻になる。

 幸い、ここまで何事もなく進んだ。それにほっとはしたものの、逆に増幅剤の副作用で倒れる生徒が一人もいなかったことに漠然とした不安が湧き上がる。

 本当に、思ったほど生徒たちは薬を服用していなかったのか、それとも倒れるほどの量の魔力は使っていないからか──。


 不安は的中していると教えるかのように、魔信具が受信のサインを示した。

 感じられるのは、ウィスティの魔力。

 魔信具を取り出し、耳に当てる。


「ウィスティ? もしかして?」

『うん。今、第一から第三学年の生徒が、ばたばた倒れだした。今で、もう七人』

「……やっぱりね。で、状況は?」

『監督教師が治癒師を呼んで、今向かっている最中。……それから、ライラ』


 ためらうような口調で続けるウィスティに、どくん、と心臓が嫌な音を立てた。


『ヒューロンが、どこにもいない』


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