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三十七話 五人部屋

23-3-16

サグアス王子の口調に修正を加えました。

「リラ、さっきの実体化、もう一回やってみせてよ」


 上目遣いで可愛くお願いしてくるエンジェラに、私は呆れて返す。


「またなの? さっき二回もやったじゃん」

「だって難しいんだもん! イメージが大事って言ったのリラでしょっ」

「クラインさん、申し訳ないけどそろそろモーガンスを返してもらえないかい?」


 ぷっと膨れて見せるエンジェラに、リュメルが声をかけてきた。

 それを見ていたハインリッヒが、私に「人気者だな」と笑いかける。私は苦笑いを返してから、ため息をついた。


 リュメルが競技場に臨時設置された壁を吹き飛ばした事件から一週間。結論から言うと、私とリュメルは二週間、競技場の予約をしてはいけないという罰をくらった。

 だというのに私たちは今、魔術競技場で練習をしている──それも、エンジェラ、ハインリッヒ、サグアス王子という謎のメンバーと共に。

 理由は、「故意ではなく、大会に向け一生懸命練習していた最中の事故のため、練習の機会を奪うのは可哀想だ」ということで、情状酌量の余地ありと見なされたからだ。

 罰は()()をしてはいけないということで、競技場を()()してはいけないわけではない、ということ。それを聞いたリュメルは翌日早速、私を連行して先程述べた三人がいる部屋へと特攻した。急展開すぎる。

 私達の練習形式は、私がリュメルに対して一方的に指示を出すもの。リュメルはそれでいいと言うけれど、何も知らない人に見られてリュメルのような人に何を偉そうに、などと文句を付けられるのが正直面倒だった。

 だから、三人が快く受け入れてくれて、私達の練習風景を見ても、自分たちのことは気にせず自由に場所を使ってくれ、と言ってくれたのが幸いだ。


「他ならぬリュメルの頼みであるからな、断る理由もなかろう。モーガンスさんも、リュメルの暴走に巻き込まれたせいで競技場予約禁止になり、災難だったな」


 ほぼ無表情で、口だけうっすらと笑みを形作ってそう言ったのは、何気にファーストコンタクトであるサグアス第二王子。

 朱眼姫(シュガヒメ)のメインヒーローであり、エンジェラの想い人である彼は、王族らしい綺麗な赤い瞳に、星屑を散らしたようなきらきらした銀髪をしている。顔も並大抵でない造形をしているし、本当に彼の容姿すべてが、神が心血を注いで作り上げた芸術作品のように、目を奪う美しさだ。

 サグアス王子の美貌は王族の中でも一際目立つものであるのに加え、彼は所謂天才肌で、なんでも苦労することなく簡単にこなせてしまう。出来すぎた完璧人間であるからこそ、彼の日常はとても淡白で、つまらないものだった。──その退屈さを全て吹き飛ばす主人公、エンジェラが現れるまでは。

 転生者であるエンジェラは確かに原作の主人公と別人ではあるけれど、明るく素直で前向きな所は変わらない。冷酷に見えて、その実非常に誠実なサグアス王子とお似合いだと思う。ぜひ上手くいって欲しいものだ。


「本当に。リュメルがいつもすまないね。けれど、私達も実は見たかったんだよ。リュメルが夢中になるほどの実力の持ち主をね」


 好奇心で青い目を光らせてそう言ってきたのは、ハインリッヒだった。ちなみにハインリッヒは去年の大会の優勝者らしい。期待しているよ、と言わんばかりの笑みを向けられたので、愛想笑いを返しておいた。

 ところで、私までもが入ると一部屋五人になってしまって狭くないのかと尋ねると、普通は競技場の一部屋を四、五人で使うのが一般的だとハインリッヒが意味深な笑みをリュメルに向けながら教えてくれたので、今までがどれほど贅沢だったのかを私は初めて知ることとなった。


 そうして入れてもらった部屋でリュメルにさせたのは、予告通り、小石に魔力を込めて爆発させることだ。良いくらいの大きさの小石を大量に中庭から集めさせてもらった。破裂して粉々になった石はまた中庭に返せばいい。

 ちなみに、事故の後始末が終わった後、リュメルにはもちろん説教した。


「実技授業で、新たな魔術を習う時はいつも教師が実演しますよね? それと同じです。今後二度と、私の指示がないときに先走らないでください。キースリング様が同意した以上、貴方は教えられる側で、私が教える側です。言うなれば教師役です。事故が起きると、私の監督不十分になるんですから。今後、私の指示なしで勝手に新しいことに挑戦しないでください。いいですか? 何ですか、その引いた顔。本当に分かっていますか? キースリング様の実力向上のためには、多少なりとも危険なことにも手を出します。けれどいつも、キースリング様に危険が及ばないように気をつけてやっているつもりです。そのためには、キースリング様ご自身も注意深くしていただかないと、練習すらもできなくなりますよ。特に、今回のは、そもそも危険なこともあると分かっていましたよね。止めることができなかったのは、私に非があります。でもそれ以前に、キースリング様にやってみろとは一言も言ってませんでしたよね。キースリング様が魔術が得意なのは知っていますし、実際お上手です。ですが物事に百パーセントはありませんから。いいですね? 二度目はありませんよ」


 正直かなり頭に来ていたので、一息で言い切った。私の圧に押されて、リュメルは引きつった顔で頷いたのは、あとから考えても少し面白かった。


 閑話休題(それはさておき)


 リュメルに、一つ石を破裂させるのに必要な最小限の魔力量を見つけさせることから、練習を始めた。

 大きな魔力を込めて一気に大きく爆ぜさせるのは簡単でも、小さな魔力で小さく破裂させるのは力任せには出来ないから案外難しい。小さすぎる魔力では上手くエネルギーが出し入れ出来ないから、石を爆発させるのに丁度ぎりぎり足りる魔力量を見極めるのだ。

 慣れたら、拳大の石を親指の爪ほどの大きさの量の魔力で爆発させられるのだけど、初日のリュメルは親指と人差し指で輪っかを作った程の大きさで限界だった。


 魔力によるエネルギーの出し入れは、様々な魔力による応用されるものすごく大事な技術だ。

 私たちの身の回りには感じられないほどの小さな細かいエネルギーがふよふよと大量に存在していて、それを集めてひとつの大きなエネルギーに変えることを魔術でしている。魔力は、小さなエネルギーをたくさん吸い込み、大きなエネルギーを吐き出す窓口のようなものだ。その口が大きいほど扱えるエネルギーが大きくなるのは言うまでもないが、小さな口でも大きな吸引力と排出力をつければ大きなエネルギーも扱える。それをつけるのもまた、練習という訳だ。


 要は、とにかく小さな魔力で小石を破裂させることを意識しながら数をこなす。リュメルに、ただひたすらにそれを続けさせた。一時間で爆発させた小石の数は数え切れない。魔力切れで倒れないかなと期待していたけれど、一時間では足りなかったようだ。残念。

 時間いっぱい、そして二日目以降も同じことをさせていたら──エンジェラがどうやらこっちの様子を伺っていたらしく、リュメルがおなじことをすることを、たまに助言をしながら見ているだけの私に、ある魔術のやり方を教えて欲しいと声をかけてきたのだった。

 少し手本を見せてあげて、こつというか感覚的なものを教えただけだったけれど、エンジェラにとってそれなりに役立つものだったのか、それ以降も頻繁にお願いされるようになった。

 リュメルの方も、別につききっきりで見ないといけないというわけではない。エンジェラの方を主に見てあげるために、念の為小石の爆発でリュメル自身が怪我をしないよう、そして周りに破片が飛び散らないように二重に結界を張ると、リュメルは今更そんなヘマはしないと言わんばかりに、不満気な顔になった。不可視状態で張ったけれど、ちゃんと私の結界に気づいたらしい。練習の成果が出ているようで何よりだ。


「ごめんね、リラ、いっぱい聞いちゃって。イザーク様と練習していた時は、遠慮なく色々聞けてたんだけど、サグ様達相手じゃやっぱり遠慮しちゃってさぁ」


 ある日の練習後、困ったようにそう零したエンジェラに、私はずっと疑問だったことを聞いた。


「そういえばさ、なんであの二人と練習することになったの? 新学期始まってからずっと? 原作通り、サグアス王子と二人きりなわけでもないし」


 私の言葉に、そうそう! とエンジェラは勢いよく身を乗り出してきた。


「聞いて、ずっとリラにその話をしたかったんだ! あのね、最近イザーク様の様子がちょっと変で心配なんだ」

「変?」

「そう。なんか、元気がないっていうかさ。あのね、私原作通り一緒に練習しよって最初に聞いたんだよ? でも、なんかはっきり答えてくれなくて。原作では、ちょっと都合が合わないって感じだったんだけどね。で、どうしたんだろーって思ってたら、いつの間にかハインリッヒとサグ様との練習に私が入れさせて貰うっていう話を付けてきたみたいで、よく分からないままにこの状況になった感じ」

「ふぅん……?」

「ちょっとモヤモヤしちゃってね。もしかして、イザーク様はそもそも決闘大会に向けて練習するつもりが無いのかな? って思って。よく分からないままにって今言ったけど、私がちゃんと大会に向けて練習できるように相手を見つけてきてくれたのは分かるの。ほらだって、私イザーク様以外に一緒に練習できるような友達いないから、イザーク様がいなきゃ競技場も使えないしね。多分、リュメルはリラと約束してたから、サグ様達二人に白羽の矢が立ったんだろうし。けど、じゃあなんでイザーク様は練習するつもりがないんだろう? って」


 へにょりと眉を下げて、エンジェラが言う。私は原作を思い返しながら、確かにねぇ、と頷いた。


「原作では……イザークがエンジェラの誘いを断った時、リュメルの練習に付き合ってたんだっけ、そういえば」

「そうそう。ちょうど今が、リュメルがスランプに陥る時期なんだ。冬季休暇中に騎士団の魔術練習に混じって打ちのめされたとかでさ。でも原作でのイザーク様は、別に練習しない素振りとかは見せてないんだよね」

「よく覚えてんね」

「まぁ、全部メモしてあるし、いつでも見返せるから。でね、話戻すけど……イザーク様のこと、私の考えすぎかなぁ? やっぱり一緒に練習する別の友達でもできたのかな」


 考え込むエンジェラを横目で見ながら、私は今日のリュメルの様子を思い浮かべた。いつも通り意欲的で、私の指示に素直に従っている姿。どう見てもスランプには見えない。

 おそらく、私の影響と考えて間違いないはずだ。

 ──ならば、もしかすると、原作のイザークと今の彼の様子の違いも、間接的に私のせいかもしれない。


 私は、今思いついたとある可能性をエンジェラに話そうと、口を開いた。


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