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三十二話 遭遇

23-2-14 イザークの口調に修正を加えています。

「リラ! イザーク様たちに声かけに行こうよ!」

「え……あの中入って行くの?」


 エンジェラは簡単に誘ってくるけれど、流石にしり込みしてしまう。

 何しろ、仲良さげに会話しているイザークとリュメルの二人はともに美男子。よって、周りには女の子の人だかりが出来ていた。ぱっと見貴族令嬢っぽい人が多いけど、イケメン鑑賞に寄ってきたらしい平民の女の子の姿も見受けられる。しきりに話しかける女性たちにイザークは無言を貫き、逆にリュメルは甘い笑みで朗らかに応対していた。


「うん。だってイザーク様は今別に誰とも話してないし、友達だから見かけたら声かけるのが筋でしょ」

「私だったらスルーする」

「ほら、はぐれないでね」


 私への華麗なスルーを決めたエンジェラに腕を引っ張られ、私は無理やりこの女の子たちの山の中に突入する羽目になった。頂上の美男子を目指して。


「イザーク様! あと、キースリング様も!」


 勢いよくイザークの目の前に飛び出して、エンジェラは勢いよく挨拶をする。イザークはエンジェラを見て身を丸くした。


「クラインさん」

「新年おめでとうございます! 相変わらずの女の子の侍らしようですね!」

「新年おめでとうございます」

「新年おめでとう、クラインさん。あれ? モーガンスも一緒なの? 二人って仲良かったの?」


 イザークの後ろから、ひょこっとリュメルが顔を覗かせた。私達が一緒にいるのを見て目を丸くするのは、おそらくいつぞやのエンジェラがいじめられている所を私がスルーした件を覚えているからだろう。

 知り合いに会ったらしいリュメルの反応に、周りに群がっていた女の子たちが残念そうに散らばっていった。


「新年おめでとうございます。エンジェラとは紆余曲折あったのち仲良くなりました」

「ふうん。クラインさん、知ってる? 前に僕が君を助けたことあったの、覚えてる?」

「あ、はい、もちろんです」


 目の前でチクろうとするリュメル。わざわざそれを止める必要も感じずにぼけーっと眺めていたら、リュメルは反応しない私を訝しげに見ながらも、続けた。


「あの時、僕は上から君たちのことを見ていたんだけど、その時に実はモーガンスも居合わせていたんだ」

「ああ、知ってます! 目があったもんね、あのとき。ね、リラ」

「そうだったんだ。モーガンスは止めるそぶりもなく、他人事のような顔をして傍観してたのに、クラインさんはそのあたりどう思っているんだろうと思って」

「だって、他人事じゃないですか」

「その割に、僕には助けてやってくれと言ってきたじゃないか」

「関わりたくなかったんです、面倒ごとに」

「えぇ、そうなの? リラひどいよ、面倒ごとだなんて!」


 ぎゅっとエンジェラに二の腕を掴まれた。眉を下げて言っていても、口はにやけているのを隠せていない。絶対この子面白がって言ってる。


「初対面なのに『あなた悪い人でしょ!』って言ってくる人より全然ましじゃない? キースリング様に助けてやってってお願いはしてあげてるんだし」

「わぁ、リラってば優しい! ありがとね!!」


 清々しいほどの手のひら返しに、リュメルとイザークが揃ってぷっと吹き出した。仲がよろしいようで。


「あははっ、君達仲がいいんだねぇ」

「君もじゃないですか、リュメル」


 ぼそっと呟いたイザークに、え? とリュメルは首を傾げる。


「彼女相手だと、猫がいつもより薄いですね」


 眼鏡を指で押し上げながら、私に目をやるイザーク。そういえば、正式に自己紹介したことは無かったっけ。

 イザークに言葉を返すリュメルも、同じことを思ったようだった。


「そう? クラスメートだからね。そういえば紹介してなかったかな? 彼女がリラ・モーガンス。こっちはイザーク・ドランケンスだ。クラインさんと同じクラス」

「モーガンスさん。イザーク・ドランケンスです。あの節は姉が、すみませんでした」

「リラ・モーガンスです。気にしていませんので、おかまいなく」

「ん? 知り合いだった?」

「知り合いという程でも。少し言葉を交わす機会があっただけです」


 結局なんだかんだ、主要登場人物たちとの接点が増えていく。一番初めは生徒会役員に協力を仰ごうと思っていたぐらいだから、別にいいんだけど。


「なるほどね。それにしても、やはりアベライト生誕祭はいいね。普段見れない、女の子達が着飾った姿が見れるんだから。ねぇ、イザークもそう思わない?」


 リュメルは、私の方に手を伸ばして、流れるような手つきで私の髪を一筋すくった。

 今日の髪型は、私が良くするハーフアップだ。といっても上側は編み込みやらなんやらで凝っているし、下の方の髪だって緩く巻いている。

 リュメルは甘ったるい笑みを浮かべて、ぱちっと星でも出てきそうなウィンクを決めた。


「かわいいよ、モーガンス」


 うげぇっ。

 エンジェラさんよ、そんなキラキラした顔をしてこっちを見るな。


「ええ、そうですね。クラインさんも、とても綺麗です」


 イザークが、呟くように言った。あまり大きな声で言ったわけではなかったけど、エンジェラが嬉しそうに微笑む。


「えへへ、ありがとうございますっ。お二人に会えて良かったです! じゃあリラ、そろそろ行こっか。私、あっちの方見たい!」

「あっ、待って」


 私の服の袖を引っ張るエンジェラを制止したのは、リュメルだった。


「どうかしましたか?」


 首を傾げる私達をよそに、リュメルはくるりと後ろを振り向いて、「すみません、これ四本」と後ろの屋台のおじさんに向かって声をかけた。


「はいよ、四本」


 お金を払ったリュメルが屋台のおじさんから受け取ったのは、ゲヴルストと呼ばれる、平民の間で大人気の食べ物だ。串に刺したソーセージをパリパリに炙り、たっぷりのソースをかけた上からさらにスパイスをふりかけたもの。それをイザークに渡し、ついでにすっと私たちにも差し出した。


「せっかく広いここで会えたんだし。記念に」

「そんな、申し訳ないです! お金払いますよっ」

「リュメル、私が半分払います。クラインさんのは、私からということで受け取ってください。クラスメートとして、今年もよくしてほしい、ということで」

「えっと……じゃあ、それなら」


 エンジェラがおずおずと、受け取る。リュメルも、私の手に強引に串を握らせた。


「あっ、ちょっと」

「クラインさんだって受け取ったんだし、素直に貰いなよ。お金を払いたいなら安心して、近々別の形て払ってもらうからさ」

「別の形とは……?」


 渋々と受け取りながらも眉をひそめると、リュメルはにっこりと笑った。


「受け取ったんだから、忘れないでね。じゃあイザーク、そろそろ行こうか」

「ええ。また新学期に会いましょう」

「バイバイ、二人とも」

「さようなら、イザーク様!」


 結局答えることをせず、リュメルはイザークの腕を引っ張りながら行ってしまった。別の形って何なんだ。本当に不安しか感じないんだけど。


 *


「あっ、ほらみてリラ、サグ様だ!」


 例年は無い、王族のパレード。王族と言っても国王陛下はいないようで、王妃、王子、王女たちが上側の開いた大きく華やかに飾り立てられた人運箱に乗り込んでいた。通常は魔力によって動くそれを、見栄えを重視してか、今日ばかりは馬に引かせている。

 周りを取り囲む近衛兵たちは派手な衣装で馬に乗っていたり楽器を演奏していたりと、とにかくお祭りを盛り上げる気満々な感じが伝わってくる。

 そうして、盛大なパレードはゆっくりと進んで行った。周りを埋め尽くす国民たちに、手を振る王族。無表情がデフォルトのサグアス王子も、この時ばかりはうっすらと笑みを浮かべて周りに返していた。


「パレードすごかったねぇ……人混みもだけど」

「ほんと。人がゴミのようだったね」

「一文字違いで大違いすぎるよそれは」

「そう? それは失礼。それにしても、これは警備大変だわ」

「ああ……リラも、警備の仕事するんだ?」

「いつもはね。今年は例外だけど」


 あれほど人が一箇所に集まることなんて、本当に滅多にない。つくづく今年は警備につかなくて良くてラッキーだ。来年からも続けるとはどうか言わないで欲しい。


「それで、サグアス王子に反応はして貰えたの? 結構頑張って呼んでたけど」


 少しずつ、辺りが暗くなって行く。今日は、このままパレードの時間を待つ予定だった。遅くなってもいいよとエルマにも言われている。


「どーだろ……目は合った気がするんだけどね」

「まあ、健闘を祈っておくよ」

「リラもね」

「何が?」

「決まってるでしょ、リュメルだよリュメル! 想像以上に仲良さげだったじゃん」

「一方的に馴れ馴れしいって言ってもらえる?」


 どこかに座って待とうという話になって、私達は近くの広場の噴水の端に並んで腰掛けた。


「あはっ、でもそっかー。リラはシグムンドの事が好きだもんね?」

「……ちがうよ」

「え?」

「あいつはヴィヴェカのことが好きで、ヴィヴェカもシグムンドのことが好きだから」

「……ふうん。そっかー」


 何か言いたそうにしながらも、エンジェラは口を噤んだ。

 今頃二人も、並んでパレードを待っているんだろうか。想像すると、ずくんと胸が疼く。

 ぐっと、自分の胸元を掴んだ。早くこれが、消えてなくなりますように。


「じゃあやっぱり、リュメルとかいいんじゃないのー?」

「ツッコミどころ満載すぎて、最早どっから突っ込めばいいのかすらわかんないんだけど」


 空は静かに、全ての光を吸い込んでいくかのように、黒く染まっていった。


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