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二十五話 激昂

「……ふざけんな」


 出した声は、自分のと思えないほど低く、冷たかった。怒りで、全身が燃え上がるようだった。

 自分以外のすべてが見えなくなっていたアイセルまで届いたのか、ひっとアイセルが引き攣ったような声を出す。


「何が、いいなぁ、だよ。自分の力だけで人を殺したことなんて、一度もないくせに。自分の気にくわない人間を排除できるから、羨ましいっていうわけ? 笑わせんなよ」


 ありったけの力を込めて、アイセルの魔力を力尽く抑え込んだ。抵抗されるのなら、それ以上の力で無理矢理制御すればいい。私、さっきまで、本気を出してなかったんだ。今気づいた。

 暴れまわる竜巻も、爆ぜ続けて止まらない火花も、全部。ぐっと押さえつけて、身動き取れないようにすれば、動けなくなった魔力たちはエネルギーを失い、次第に弱まり消え去っていく。光の壁がようやく消えて、外が見えた。さっきまで魔力の竜巻が荒ぶっていたなんて、うそのようだ。


 ようやく魔力暴走が収まって。魔力を力尽くですべて消し去られてしまったアイセルは、力が抜けたように座り込んだ。呆けたような顔で見上げているアイセルを見下ろして、私は吐き捨てた。


「いいよ、それならここで殺してみなよ、私のこと。そんなに、いなければいいのにと僻み続けるくらいならさ。特別に抵抗しないでいてあげる。あんたくらいの魔術が使えたら、無抵抗な私の命なんて、簡単に握りつぶせるよ。やってみなよ、その度胸があるならさ。──それで、もう一回、今の台詞を言ってみなよ」


 馬鹿みたいだった。こんな奴相手に心を砕いていた私が。

 魔力暴走が収まったというのに、寒さは一切感じなかった。身体中が燃え上がるように熱くて、頭の中だけが冷たく感じた。

 冷たく、殺気立った私の言葉にアイセルは目を見開いて、恐怖に震えながら私の顔を凝視している。


「出来ないんでしょ?」


 言い募ると、アイセルは焦ったように首を振った。


「っ、で、出来ないことなんてない! どいつもこいつも僕のこと馬鹿にしやがって! ほら、結局お前だって、内心僕のこと馬鹿にしてたんだろ!!」

「してなかった……けど、今は心底軽蔑してる」


 アイセルの前にしゃがんで目線を合わせると、彼は怯えたように仰け反った。その何もかもが、ただただ不快に思える。


「自分がやられた仕返しを、自分の力でやり返そうって気概を、私は応援したの。けど、結局あんたがしたのは自分の力じゃなく、道具を使うこと。もしかして吸魂具、自分で作った? んなわけないよね、あれが吸魂具ってこともしらなかったもんね。なんだっけ、相手の意識を奪う、だっけ? 結局そんなものが無いと抵抗もできないなんて、笑わせてくれる。人を殺す? 臆病者のあんたには無理だ。絶対に不可能だよ、例え力があったとしてもね」


 ぐっと、アイセルが歯を食いしばった。悔しそうな表情。けれど、何も言わない。何も、言えない。


「それにさ。人を殺すのなんて、簡単なんだよ。でも人の命に手をかけるってことは、この先の人生、その人の命を一生抱えて背負って生きること。その家族や知り合いを悲しませた責任すべて、彼らが辿っていくはずだった未来を奪ったことがあんたの責任になる、一生付きまとう。それが、どれほど重いのか、あんたは分かってない」


 悪いことをしても天罰なんかくだらないし、善人だって報われやしない。命は尊いものでかけがえのないものだなんて、所詮ただの綺麗事だ。


「人の命は軽いよ。簡単に消せる。だからこそ、重い。ただひたすらに、重いんだよ。そして、命を重くするのは人の思いとか、情とか、そういうのなの。それを理解しようともせずに自分に都合が悪いものを排除したいってんなら、あんたはあんたをいじめた子たちと同じ、ただの人間のクズだよ」


 苦しんでる人が、他人に同じ苦しみを課そうとしてどうする。そういうことも何も考えていないあたり、反吐が出るほど腹が立つ。


「命の重さも知らなければ、それを背負う覚悟もないくせに──軽々しく死を口にするな」


 怒りを隠すことなく睨みつける。

 アイセルはひどく青ざめていて、目を見開いたままガクガクと震えていた。


「……ぁ、」


 かすれた声、身じろぎ一つ出来ず固まった体。

 その弱弱しい姿を見ていると、急速に怒りがさめていくのを感じた。ああ、なんだか、こんなに怒ってる自分がおかしいとさえ感じてくる。


「……はぁ」


 ため息をついて立ち上がると、アイセルは力が抜けたように後ろに倒れこんだ。震えはもう収まっている。どうやら、私が相当魔力で威圧していたらしい。感情が高ぶって気づいていなかった。

 ここまで怒ったことって、初めてかもしれない。感情のまま動くなんて短絡的なことをしてしまったことを後悔しながら、アイセルが起き上がるのに手を貸した。


「それで……あんたは、知らなかったんだよね? あれが吸魂具だって」


 質問すると、少しためらったのちに、アイセルは話し出した。


「……少しの間、使った相手の意識を奪う魔道具だと……体に害はないって、そう言われました」

「誰に?」

「あの、取り付ける銀色のものをくれた人に」

「で、それは誰なの?」

「……」


 アイセルは答えようと口を開いたが、眉をひそめて口ごもった。


「……忘れました」

「そう」


 多分ムスタウアに、精神操作魔術をかけられているのだろう。想定範囲内だった。


 さっきまで気にしていなかったけれど、吸魂された三人の男子生徒達は倒れているままだ。マークス先生はいない。ここにすでにいるものだと思っていたけれど、実はそうじゃなかったようだ。そうだとしても、すぐに来るだろう。正直なところ、私にそっち方向の知識はないから、吸魂された三人にできることはないのだ。吸魂は、心肺停止やら出血やらとは違うから。

 三人を運ぶこともできるけど面倒だし、どうせすぐ先生が来るだろうから、今はアイセルへの質問を続けることにした。


「あんたが吸魂されたときも、警備用魔道具に吸魂具をしかけたのは、あんただよね?」


 こくりと、アイセルは頷いた。また何かを言われるのかと身構えているのを見て、少し笑ってしまう。


「あのとき結界をしかけたのも、あんただよね? あの結界の仕掛け方、どこで教わったの」

「吸魂具の仕掛け方を教わったとき、一緒に……あれ、誰だっけ」

「無理に思い出さなくていいよ。あんたが吸魂具を仕掛けたのは、あのときと今回の二回だけ? それとも、他にもまだあった?」

「……二回だけです。僕がいじめられている所を、助けてくれて、これを使ったらいいよって吸魂具をくれて、色々教えてくれて……。警備用魔道具に仕掛けたのは、警備用魔道具の仕組みをいじって、特定の人物の後をつける仕組みにしようと思ったからなんだけど……あれを魔道具に仕掛けた後は自分が意識を失ってしまうからさっさと離れろと言われていたのに、思ったより手間取ってしまったんです。それで、結局失敗してしまったのを知ってもう一個くれたから、僕は今度こそ上手くやろうって、先輩にも励まされたから、この一週間魔術を特訓して、ぜったいにぎゃふんと言わせてやろうって」

「なるほどね」


 警備用魔道具を改造して動きをコントロールするなんてことができる実力があるのなら、それこそ、吸魂具なんていらなかっただろうに。才能も努力も、かなりのものだろうに、吸魂具の力を借りようとした時点ですべてマイナスに変わる。本当にもったいない。


「それで、疑問なんだけど。なんであんたは、無事だったわけ? さっきあの子たちが吸魂されたときさ。吸魂具、ずっと持ってたんでしょ」


 さっきからずっと気になっていたことを尋ねると、アイセルは制服のポケットから小さなキラキラと虹色に輝く球状の何かを取り出した。


「前、失敗してしまったから……今度はそんなことが起きないようにって、これをくれたんです。これを持っていたら、ずっと近くにいても守ってくれるからって」

「……見せてくれる、それ」


 アイセルが差し出したそれを受け取って、眺める。つるりとした表面のそれは、親指と人差し指でわっかを作ったくらいの大きさで、虹色の光が中から湧き出ている。触ってみれば柔らかくぐにぐにとした触感で、わずかに魔力が吸い取られるような感触がする。

 ……これが、吸魂されることから守ってくれる?


「ねぇ、これ……」


 預かってもいいか、聞こうとアイセルの方を見た時だった。


「アイセル? ちょっと」


 くたりと体の力が抜けたように、後ろに倒れこむアイセル。慌てて駆け寄ると、その目はしっかりと閉じている。


「大丈夫? おーい、ねえ、聞こえる?」


 返事はない、動く様子もない。

 アイセルは完全に意識を失っていた。


一章はあと二話になります。

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