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小品

スペースコロニーの学校

作者: 星野☆明美

スペースコロニーの学校


地球が温暖化や資源枯渇、大気汚染、人口増加などの理由で住めなくなる前に、人類は月へ、そして火星へ、宇宙進出に乗り出した。それぞれの天体に基地を造って移住を進めていたが、ついにこの度、スペースコロニーが完成した。

円筒形のコロニーは回転することで重力を生み出し、人々はそこに居住区を造った。

コロニーには4つの管理局があったが、その中でも中央管理局はコロニーのすべてを網羅していた。

「ユウ!待ってよ」

「メイ急がなくちゃ遅刻だぞ!」

十三歳までの子どもたちの集団が朝からムービング・ロードに乗って街を流れていった。

「よう!元気か?」

「アッシュ!」

五歳から十三歳までは中央管理局にある学習ブースで基礎学習をうけるのだが、その後、専門分野にわかれて実践しながら仕事を学ぶ。彼らはどんな職業につくか頭を悩ませていた。

「メイはいいよな。もう図書館司書見習い受けてるし」

「それがねぇ、そう楽じゃないのよ〜」

「仕事だからね?」

「ぶーぶー」

わいわい言いながら中央管理局にたどり着く。子どもはいつでも元気一杯だ。

「オハヨウゴザイマス。今朝ハ調子ハイカガデスカ?」

コンピュータの合成音声が語りかける。

「元気です!」

「ジャア、今日ノ授業ヲ始メマショウ」

デバイスにそれぞれの気に入ったキャラクターの映像が映っている。「ともだち」と呼ばれるこのキャラクターたちは、学習の補佐のみならず、ゲームの相手や話し相手にもなってくれる。


ユウはキャラクターが解説する内容を一人のスペースで見ていた。

「ノアザーク号は、地球上のありとあらゆる生物を冷凍保存した状態で新境地を目指しています。ハビタブル惑星が見つかれば、そこに第二の地球が生まれることでしょう。ノアザーク号からは地球政府へ絶え間なくメッセージが送られてきます」

「ノアザーク号以外には宇宙船は出発しなかったの?」

「したよ!アンドロメダ号、オリオン号、それから」

「わかったわかった」

「ここでは各宇宙船の代表としてノアザーク号をとりあげています」

「ふうん」

ユウは今日の学習内容より、どんな職業に自分が向いているのか知りたかった。

「ともだち」に急遽要請して簡易適性検査を受けた。

結果を待っている間、他の子どもたちがどうしてるか気になっていたが、それなりの理由がなければブースからは出られなかった。

「ユウ!君はエンジニアに向いてるみたいだよ!あと、コロニーのメンテナンスの仕事とか」

「そうなんだ?」

「コロニーマザーコンピュータシステムに所属したら、コロニー政府の発言権が得られるよ」

「それ難しい?」

「難しいけれど、本気でチャレンジしたら君ならできるよ」

「へええ」

今、職業選択をしないと、大人になってから路線変更が難しい。ユウは思う存分悩むことにした。

「……ノアザーク号に乗せた生物のサンプルは地球、月、火星、コロニーにて保存され……」

「ともだち」が今日の学習内容を再び続けた。


「今日の学習内容は上の空だったよ」

移動式の自動販売機からジュースを買って蓋を開けていると、アッシュが来たので、ユウはそう言った。

「俺は断然コロニー政府機関にするね!」

「本気か?ものすごく責任重大だぞ」

「でも、男のロマンだよ」

「ぬかせ!僕はコロニーのメンテナンスの方が重要だと思う」

「そうか?」

「そうだよ」

「お互い頑張ろうな」

「おう」

男の子たちは頼もしく笑いあった。

僕たちが未来を切り拓いてゆくんだ。そう、ユウは実感していた。


ピルルルル。

ユウの手首につけたデバイスが突然鳴り響いた。

「なんだなんだ?」

「今日の学習内容の補習があります。ブースへ戻ってください」

とほほ。ユウはその場にしゃがみこんだ。

「集中力をつけるよう努力しましょう。これは、あなたにしかできません」

「集中力?」

「もし宇宙空間に出なくてはならなくなったとき、非常事態に集中力がなかったら命取りになります」

「そんなことない」

「ないとは言い切れません。いろんな可能性を考慮して生きてください」

「?」

「私があなたに忠告できるのはあと僅かなんです」

「!」

ユウはうろたえた。

「ともだち」に恥じないように僕は生きていかなくちゃ。

「今日の学習内容、最初からお願いするよ」

「はい」

「ともだち」は嬉しそうだった。

「ノアザーク号作戦は、貴重な地球の財産をいかに安全に保存して、ゆくゆくは地球の全盛期を再興するためのものです……」

いろんな人種を分け隔てなく乗せた宇宙船の話だった。動物や植物、気の遠くなるような種類のサンプル数。

「昔、地球は「宇宙船地球号」と呼ばれていました」

その言葉はユウの心にじんと響いた。

「あなたの目的は、それらの財産を守ること。そして、一番の財産である自分がより良く、生き延びることです」

僕はこの授業を生涯忘れないだろうな、とユウは思った。

素晴らしい財産を僕は託された。もちろん、メイやアッシュだってそうだ。僕は、僕らは今、生きているんだ。生まれてきて良かったよ。

「ともだち」からあと少しで卒業する。学校からの卒業だ。

今も昔も変わりなく、未来への希望を胸に巣立ってゆく。

今までも、これからも、それはずっと続いて受け継がれてゆくだろう。

ユウは連綿と続く学校という歴史を尊いものだと感じた。


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