愚痴が主人公のモノローグ
「おはよう!」
これ以降、俺が口を発することはない。なぜそんなことが分かるのかって。それしか台本に書いてないから。
さて、こんなモノローグになってしまったのにはちゃんと理由がある。それは俺こと「安住 貴虎」が声優であり、ここがアフレコ現場だからだ。
声優という職業に憧れを抱く人もいると思う。僕自身も声優になる前まではそう思っていた。しかし、よく考えてみてほしい。朝早くに叩き起こされ、渋滞電車で1時間。やっとの思いで収録現場に到着しても、おはようの4文字を発して、後は静かに1時間以上もお座りしていなければならない。もちろん報酬は4文字分。
言い出したらきりがないな。おっと、そろそろ終わりそうだ。
「お疲れさまでした~」
と、満面の笑みで挨拶を繰り返す。本当にお疲れさまのようだ。俺以外は。
今日が終わり、当分は俺に声優としての仕事は訪れないだろう。また数か月は学生生活とアルバイトの日々が待ち受けている。これでも数年前俺は新人男優賞に選ばれ、将来有望だと周りから期待されていたし、浮かれず、ずっと努力をし続けた。その結果がこれとは...
「行くか」
誰にも聞こえることのない決意表明を示した後、俺は高校へ向かった。もちろん徒歩で。
これは声優として活躍?する俺がなんの因果かバンドに入り、活動する話。世の中にあふれているような「転生したら...」や「俺のハーレムが...」のような変化など一切ない。
俺の普通の...少しだけ甘く、汗臭い日常のお話。