1章ー44話 翼の無い天使
「大丈夫かクロエ」
目を覚ましたクロエに、リュートが駆け寄り声をかける。
「あれ兄さん、シンヤ? ……っ!! 魔族はっ?!」
周囲を見渡して、身体を起こすと、状況がわからないのか声を荒げる。
「大丈夫だよ。安心して、ノエルが……そこの天使が倒してくれたから」
「天使……?」
「そう、あの人」
「天使……なんだよね?」
「うん」
シンヤから話は聞いていたはずだが、目にしたノエルの姿は想像していた姿とだいぶ違うようで、目覚めたばかりのクロエは首を傾げた。
「……翼は?」
「あるが、神力が枯渇していて、今は広げることが出来ない」
「あるのっ?!」
クロエの短い呟きに、ノエルが答える。天界でも今もシンヤの見ている姿は、仕事帰りの疲れた30代、翼など見ていないのだ。
「……そう、なんだ」
「それよりもクロエ、身体は平気か? どこも痛まないか?」
落胆を隠しきれないクロエに心配したリュートが、その肩に手を置きながら問いかける。
「大丈夫よ兄さん。どこも痛まないわ。……でもどうして? わたし、あいつにやられたはず……だよね?」
「それもノエルが治してくれたんだよ」
「感謝する天使殿」
ようやく状況が飲み込めてきたのか、意識を失う前に負った傷が痛まない事に、違和感を覚えたクロエは疑問を口にする。その問いにシンヤが答え、リュートは妹の容態を見て安心したのか、ノエルに頭を下げた。
「ごめんなさいノエル様。お手を煩わせてしまった上に、失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」
「気にしなくていい。それに私に対して言葉遣いを変える必要もない」
「それでは不敬になります」
「私は神ではないし、君達の神に仕えているわけでもない私を敬う必要などない」
「わかりました……お言葉に甘えます」
改めてノエルに顔を向けるとクロエは頭を下げる。さきほど失礼な態度をとってしまったことも含めて謝罪したのだが、ノエルは気にしていないらしく、先ほどのシンヤの時と同じように答えた。
「それよりも、ここでなにをしていたのだ?」
「結界用に魔石を取りにきたんだけど、手に入れて帰ろうとしてたらいきなり襲われたんだ。ノエルが来なかったら助からなかったかもしれない」
「あの生物か……。私の力でも死滅させるのに時間がかかった。そのせいで残った神力をほとんど使ってしまった」
「神力ってのは回復しないの?」
「本来であればすぐに回復するのだが、この世界が神界と繋がっていないせいか、回復が遅い。しばらくは力を使うことは出来ないだろう」
魔力とは違い天使の扱う神の力は、現状すぐに回復できるものではないらしい。ノエルの言うしばらくが、どれほどの期間かはわからないが、そうそう当てに出来るものではないようだった。
「ノエルはこの後どうするんだ?」
「君達さえ良ければ、行動を共にさせてもらおうと思う」
「むしろこっちからお願いするよ。知ってるみたいだけど、この世界の理がおかしくなってて、それを元に戻すには、天使の血が必要らしいんだけど……協力してくれないか?」
「お願いノエルさん。少しでいいの」
一緒に来てくれる意思はあるものの、ノエルがその血液を提供してくるとは限らない。シンヤとクロエは頭を下げ頼み込む。
「普通は断るところだが、私にとっても元の世界に戻る手段がわからない以上、優先すべきは君達のいう理の修復だろう。協力した方がいいようだ」
「「ありがとうございます」」
シンヤとクロエは改めてノエルに頭を下げ礼を言う。
「それでこれからどこに向かう?」
「ここから南に6日くらいの場所にさっき言った村があるんだけど、……今日はもう移動は無理だよな」
「そうだな、夜営地迄は時間が足りない。もう一日ここに泊まって、明日の朝出発だ」
話を切り替えノエルが問いかける。もう日は下がり始めていて、皇都を出てもすぐに夜になってしまう。リュートの言うようにこの城にもう一晩泊まる必要があるようだ。
予定よりは遅くなってしまったが、目的の魔石も天使も見つける事が出来た上に、ノエルに協力してもらえる約束も取り付けることが出来た。
シンヤ達は暗くなる前に、夜営の為、宝物庫に戻ることになったのだった。




