1章ー17話 目覚めの夜
何もない世界でシンヤは意識だけある自分が、前と同じ夢であることを理解した。
そこにはやはり女の子が一人、涙を流しながらシンヤを見つめていた。
「良かった……」
意識を感じ取ったのか女の子は安堵の言葉を紡ぐ、流れ落ちる涙で、心の底からシンヤの事を案じていたことが伝わる。
『どうして泣いているの?』
前と同じように心の中で思った。
「お主が生きていてくれたことが嬉しいのじゃ……」
女の子は濡れた目尻を自身の指で拭い、顔を上げてほほ笑む。
『おれは生きているのか?』
「大丈夫じゃ、魂はまだこの世界にある」
『そっか、死なないですんだのか……』
その想いは死ななかった事を喜んでいるのか、死ねなかった事を後悔しているのか、きっと両方なのだろう。
「死んではならぬっ! お願いじゃ、死を望まないでくれっ」
複雑なシンヤの心境が伝わったのか、女の子は語気を強めてシンヤに縋る。
「お主が死んだらわしは……、わしはっ!」
『ありがとう。……もう少し頑張ってみるよ』
あまりにも必死な想いに、シンヤは前に見た女の子の後悔と自責の言葉を思い出し、負の感情を押し込めた。
そして、唐突に終わりが来る。前回とは違い世界がゆっくりとはがれ始める。
「シンヤっ、城じゃっ。城に行ってくれっ、そこに行けば……」
焦るようにまくしたてる女の子の言葉を、最後まで聞くことは出来ず、シンヤはまた目を覚ます……。
「城……?」
目を覚ましたシンヤは先ほどまで見ていた夢の言葉を、零れ落ちていく記憶の一部を留めようと呟いた。
起き上がろうと、身動ぎしたとたんに走る全身の痛みによって、意識が覚醒するころには、先ほど見ていた夢の内容も、ほとんどが溢れ切ってしまった。
「……いっ!」
少し身体を動かすだけで、痛みが全身を駆け巡る。仕方がなく、顔だけを動かして周囲を伺う。
そこはシンヤが一晩だけ泊まった部屋のようだった。室内は薄闇に包まれていて、ランプの明かりだけが部屋を照らしている。
どうやら死なずに済んだのだと、シンヤは安堵のため息を吐く。
「おはようございます、シンヤ様」
誰もいなかったと思ったのだが、シンヤの耳に聞き覚えのある声が聞こえる。
声のした右の方に首を動かすと、部屋の入口にセラが立っていた。
「お加減はいかがですか?」
「あ……はい。痛くて身体は動かせないですけど、横になっている分には大丈夫です」
「それは良かったです。運び込まれた時には、もう手遅れかと思っていましたので」
セラの言葉で、森での出来事がシンヤの脳裏に蘇ってくる。
子供達を逃がすために囮になり、何もできずに腕を食われ、そこまで思い出して、シンヤは自身の右腕に意識を向ける。
肩まで布団が掛けてあるので視界には入らないが、試しに痛みを無視して動かそうとしてみると、動く感覚が伝わってきた。
「右腕はリネット様が嫌々治して下さいました」
そう言われて屋敷を出る時に会った、女の子を思い出す。怖がられて話すらまともにしていないのだが、本当に欠損した部位を再生することができるのだと驚く。
「嫌々って……」
「クロエ様を悲しませるような男には、当たり前の対応でしょうね」
「クロエっ、クロエは無事なのか?」
「無事も何も、そちらにいらっしゃいますよ」
身体の感覚がまだ戻り切っていなかった為、気づくことが出来なかったのだが、首を少し上げて自身の左側を見ると、シンヤの左手を握ったままベッドに寄りかかってクロエが眠っている。こちらを向いて寝ている目元には、涙の跡が残っていた。
「低級のリザード程度では、クロエ様の相手にもなりませんよ」
「低級なんですね、あのトカゲ」
「低級でも、村の人間では犠牲者がでてしまったことでしょう。……子供達を助けて頂いた事、本当にありがとうございます」
そういうとセラは優雅にお辞儀をする。その姿に一瞬見惚れるが、それ以上にシンヤは、自分の情けない姿を思い出し恥ずかしくなった。
「そんな、おれなんて逃げ回ったあげくに、食われそうになっていただけで。……子供達は皆、無事なんですよね」
「はい、今は家に帰っていますよ。昨日は一日中この部屋にいましたからね」
「昨日? おれはどれくらい眠っていたんですか?」
シンヤの感覚では森での事は、今日の事だと思っていたのだが、おかしいと思い聞いてみる。
「3日程眠っていました。一週間は目を覚まさないだろうと言われていたのですが……、思いのほか早くお目覚めでしたね」
「3日っ……?!」
シンヤは3日も眠っていた事に驚くが、無くなった腕を再生したのだ。きっと体力なり回復するのに必要だったのだろうと、そう思うことにして自分を納得させた。
「クロエ様は眠る時間も惜しんで、こちらにいらしていたのですよ」
「クロエは、なんでそこまでしてくれるのかな? ほんの数日前に会ったばかりなのに……」
小さな寝息を立てて眠る、クロエを見ながら言葉が漏れる。




