1章ー14話 頼み事
一人残されたシンヤはクロエに言われた通り、村の中を散策することにした。
屋敷から森までは一本の大きい道になっていて、シンヤは何と無しに横道に入っていく、目に入る家々はほとんどが平屋で素人目でも急ごしらえで建てられたことが分かる。
「こうして見てるとただの田舎の風景なんだけどなぁ」
洗濯をしている人、世間話をしている人、数人の子供達は追いかけっこでもしているのだろうか、シンヤの横を走り抜いていく。
自分の生まれた場所も山間にある田舎の街だったと、懐かしさがこみあげてくる。
しばらくそんな光景を見ながら歩いていると、先ほど走っていった子供達がシンヤの前に来て声を掛けてきた。
「なあ、あんた暇なのか?」
「ひまひまー?」
「暇人だぜー」
10歳くらいの男の子が二人と5歳くらいの女の子が一人、珍しい虫でも捕まえたように興味深々な顔で見上げてくる。
「暇って言えば暇なんだけど、何かようなのかな?」
「かあちゃんが言ってた稀人って、兄ちゃんなんだろ? 暇ならちょっと手伝ってくれよ」
「おてつだいー」
「強制労働だー」
どうやらやることが無くて暇していると思われているらしい。実際暇なのだが……。
「そう言われても……、おれこの村のことまだ何もわかんないよ? 他の大人に頼んだ方がよくないかい?」
「おとなはみんな、おしごとでいそがしいのー」
子供達の中で一番年齢が低い女の子が答えてくれた。
「そうなんだよ、忙しいから皆ダメだっていうんだ。俺達だけじゃ大変でさあ。なあいいだろー?」
「だろー?」
「ちゃんと報酬もでるんだぜー」
そう言うと三人はシンヤの返答もまたず腕を引っ張り、連れて行かれ行こうとする。
「こらっ、ちょっとまって……わかった。わかったって、行くからその前にキミたちの名前を教えてくれないかな?おれはシンヤっていうんだ」
「知ってる、稀人のシンヤだろ? オレはテクタ、でこいつがノイ、で最後に妹のソフィー、よろしくな」
「ノイだー」
「ソフィーですー」
年齢順にテクタ、ノイ、ソフィーとそれぞれ挨拶をし、子供達の案内で歩き出すがすぐに足を止めることになる。民家から田畑に抜ける手前で家の影にリュートが立っていたのを見つけたのだ。
「あれ、リュート兄だよー」
リュートの視線を追っていくと村人達と話をしているクロエがいた。どうやら畑の状態を調べているようだ。
そんなクロエの姿を物陰に隠れて見つめているリュート、知らない人が見たらただのストーカーに見えることだろう。
「またクロエ姉の後をつけてんのかぁ」
「リュート兄も暇だねー」
「ひまー?」
そんな子供達の声が聞こえたのかリュートはこちらに歩いてきた。
「お前こんなところで何をしている。あまりうろうろするな」
「うろうろっていうか、この子達に手伝ってほしい事があるって言われて……」
「ちょっと手伝ってもらうんだ。リュート兄も手伝ってくれてもいいんだよ」
真面目な顔でシンヤを威嚇するリュートに、すかさずテクタがお願いをする。
「すまないが忙しくてな、こいつにしっかり手伝ってもらうといい」
「リュート兄もクロエ姉を見てるだけじゃん」
「りゅーとさま、ほんとはひまなの?」
小首を傾げてリュートを見つめるソフィ―にリュートはしゃがんで目線を合わせると
「あいつは目を離すとすぐに危ない事をしようとするから、誰かがいつも見ていてやらないといけないんだよ。……それが俺の役目なんだ」
「リュートさんって妹思いとか越えてるんじゃないのか……?」
ソフィーに向かっていい笑顔で言葉を紡ぐリュートを見て、自分にだけ聞こえるようにシンヤは呟いた。
「さて。俺はもう行くぞ」
畑を見るとクロエが別の村人に連れられて移動しようとしていて、彼女の後を追いかけるのだとシンヤは確信した。
「なあ、テクタ?」
「なんだ? シンヤ」
「呼び捨てかよ……まあいいけど。リュートさんっていつもクロエをつけてるのか?」
「リュート兄はクロエ姉のこと大好きだからな。暇があれば、バレないように後をつけてるよ。周りから見たらバレバレだけどね」
「そっか、シスコンってやつなんだな」
テクタの答えに心の中でリュートの評価を少し下げるシンヤだった。
その後は特に問題も無く子供達に連れられて田畑を超え森の入口に案内された。そこから森に入ったのだが、昨日通った道を結界まで進むのかと思っていたら、途中で横道に入る。
「どこまで行くんだよ」
「もうちょっとだよ」
「疲れたのかー?」
「ソフィーはつかれたー」
そんな軽口を叩きながら若干開かれただけの木々の生い茂った獣道を進み、しばらくすると他の木と比べても特別大きな木が見えてきた。
「あそこだよ、あの木にオレ達の秘密基地があるんだけど何日か前に木が倒れて入口を塞いじゃって入れないんだよ」
その巨木は樹齢何百年かと思うほどの大きさで、根を上った先に穴が開いており、そこを倒木が塞いでいて入れなくなっているようだ。
「ってことはあの倒れた木をどうにかしたいってことだよな。……無理です」
「えーっ、大人ならあれくらいなんとかできるだろー?」
「いやいや、無理無理っ。大人ならって、どうやるんだよ」
子供達のお願いは倒れた木を何とかしてほしいというものだったが、直径1メートルほどの木はシンヤが押してみてもビクともしなかった。
「クロエねえは、きっとまほうでずぱーってやるよー」
「リュート兄なら剣でスパって切るなぁ」
「オルステインのおっちゃんは持ち上げるぜー」
「そんな凄い人達とおれを一緒にしないでくれ、おれは魔法も使えない普通の……っ」
子供達に現代で言えばあり得ない力を持つ人達の名前を挙げられるが、当然シンヤにはそんな力はどこにもない。しかし、何か思いついたのかすぐに周りを確認し始めた。
「少し離れててくれ、試してみるから……」
シンヤはそう言うと周囲に倒れていたギリギリ持てそうな木を手に取ると巨木の根と倒れている木の隙間にそれを差し込む。
テコの原理、とても持ち上がらないような物を動かすときに使うのだが、倒れている木はシンヤにとって大きすぎる、それでも巨木の根から転がり落とすには十分な力を伝達してくれたようだった。
シンヤが思い切り力を込めると大きな音を立てて倒木が巨木の根を転がり落ちた。
「よしっ」
木の根の上で思わずガッツポーズを決めると、子供達から歓声が上がる。
「シンヤすげーっ」
「しんやありがとー」
「感謝だぜー」
その直後、身体に違和感が走る。昨夜結界を通り抜けた時のような違和感だった。
「えっ」
「なになにー?」
子供達も違和感に気づいたのか不安そうな顔でこちらを向いた。
「シンヤ、結界が……」
「-----っ!!」
テクタの声が身をすくませるような咆哮にかき消され、シンヤの視界の先、子供達の向こう側に異形の姿が映りこむ、そして、昨夜の恐怖が再び蘇ってくる……。




