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1章ー11話 世界の理 後編

説明回です。



「……でも、もしかしたらおれみたいに、助けられたりとかあるかもしれないですし……」

  

「そうだといいですね。ただあまり期待はしない方がいいです、今のこの世界はあまりにも死が近くにありますから」

 

 ようやく絞り出した言葉には、あの天使に、なぜこの世界に来ることになったかを聞きたいという思いがあった。だが、モーリスは重みのある声音で返答し、周囲の人達の顔にも影が差す。


 それは何も知らない人間が、生き残る事は容易ではない。そう理解しているからだ。

 

「聞いてもいいですか? 死んだ人間が現れるし、化物はいるし、人間の国はどうやって生き延びてるんですか?」

 

「……シンヤはどこまで聞いている?」

 

 人の世界は聞く限り、厳しい状況に追い込まれているが、こうして安全に生きている人もいる。他にも国として機能している場所が、あるのではないかと疑問を覚えたのだ。


 そんなシンヤの問いにオルステインが神妙な顔で問い返してきた。


「えーっと、五年前から屍人が現れるようになって、神様もいなくなった。あと、さっき初めてリュートさんとクロエが王族だって事を教えてもらいました」


「なら大襲来から説明すべきだな。ウォルマー、頼めるか?」 


「そうですね僕が適任でしょう。シンヤ君、この世界は3つの大きな大陸と小さな島々で構成されているんだ」

 

 シンヤが顎に手を当て自身の記憶を探るように答えると、オルステインに話を振られたウォルマーが立ち上がり、どこから取り出したのか地図をシンヤの前に広げる。そこには三つの大陸と小さな島国がいくつか描かれていた。

 

「この一番大きな大陸がレトナンド大陸、で東端のこの辺りが今いる元サンリアル公国、キシリア帝国の一部なんだけど、リュート様はこのキシリアの皇子だったんだよ。といっても帝国を含め形を保ってる国なんてないだろうけどね」

 

 地図の真ん中付近を指で刺しながらウォルマーは話を続ける。そこにはキシリア帝国とサンリアル公国が隣り合って表記されていたが、見たことの無い文字の為、シンヤには読むことが出来ない。

 

「屍人が現れた時期を僕達は大襲来と呼んでいる。シンヤ君は魔法の無い世界から来たと聞いているんだけど、死んだ人間がどうやったらあんな風に人を襲う化物になると思う?」

 

「えっと、魔法的な何か……ですかね」

 

 物語の中に出てくるゾンビしか知らないシンヤは、細菌やウイルス、病気等が思い浮かんだが、日中にその存在自体が消失する屍人は、魔法が理由なのだろう。 


「答えは、世界の理が変えられたからです。……そもそも死者の刻限とは五年前、魔族によって引き起こされた現象なのです。そもそも、大襲来以前から我々人類と魔族との間では、何千年もの間争い続けてきた歴史があるんですよ」

 

「何千年も戦争を……。魔族と人類は何が違うんですか?」


「魔族とは、この世界地図の東にある大陸からやってきている。邪神が生み出した災厄、魔獣を操り、人類を殺す為だけに生まれたと言われる種族です。高度な知性を持っていて言葉も通じるのですが、まともに話は出来ません。考え方自体が違うのです」


 ウォルマーは地図の東端、黒く塗りつぶされた大陸に指を置き、魔族という種族の成り立ちを説明してくれた。話が出来るのに話が出来ない、とんちのような発言にシンヤは首を傾げる。


 言葉が通じるのであれば、わかり合うことも出来るのではないのだろうか。そんなことを考えているとさらに話が進む。シンヤはその疑問を胸に置いておくだけにした。

 

「そんな化物と我々人類は長く戦い続けていたんです……。五年前、邪神の眷属である魔族は天界にいる神々を封印し、世界の理を書き換えた。それが死者の刻限、つまり屍人の発生です」

 

 説明が一気に理解を超える展開になってくる。神々と世界のルールを変える話、異世界でなければそれこそ一笑に付すところだろう。だが、ここは地球ではない、神々もいるし魔法もあり、化け物がいる世界、きっと全てが真実なのだ。


 ウォルマーはまたもどこから取り出したのか大きな異形の姿の駒を、黒い魔族の大陸に置く。

 

「神々の作った理を書き換え。人が死したあとに行く天界への扉を閉じ、輪廻転生をできないようにしたのです。魂を身体ごと別の物に変換するという邪法を使い、禁呪であるネクロマンシーの応用で影と繋げ、毎夜召喚している。屍人は日光で消滅しますからね」


「影からあらわれるのであれば、明かりを魔法かなにかで作って照らしておけば、出てこないとかないんですか」


「良い質問だね。魔法で作り出した光で屍人は消えない。それに明かりを作れば影が出来る。つまり、どこからでも屍人は現れるってことだよ……」


 屍人は日の光で消滅する。それを聞いたシンヤの率直な疑問に、ウォルマーは丁寧に答えながら、今度は小さい黒の駒を帝国のある大陸に置く。


「初めは夜になると現れる数体の屍人を、対処していれば良かったのですが、魔族の襲撃が激しさを増し、死者が増えると爆発的に数を増やし、一気に劣勢に追い込まれました。今では世界中に屍人が溢れかえっています。……我々は結界を張り、なんとか夜を越せるようにできましたが、同じように生き残っている人はそう多くはないでしょう」


「おわっ!……」

 

 ウォルマーの言葉が続く中、黒い人型の駒は分裂するように数を増やし、地図を埋め尽くしていき、それを見たシンヤは目を丸くして声を上げる。きっとこれも魔法なのだろうが、シンヤは手品を見せられたように驚く。


「屍人は屋内から現れることはないので、洞窟内や頑丈な建物に立て籠るか、小さな結界を張れば夜を超すことも可能です。外に現れている野盗などは前者でしょうね。結界を張る条件は限られていますから」

 

 シンヤが驚いたことに満足したのかウォルマーは薄く微笑む。そして、その手を叩くと地図の上にあった駒全てが砂に変わり崩れ、塵となり消えた。

  

「キシリア帝国は崩壊してしまいましたが、理さえ戻すことができれば人類の反撃は可能です。その為に各地で生き残った僕やクロエ様のような研究者が、理を元に戻す方法を調べているのです……」


 一通りウォルマーの話を聞き終え、シンヤの脳裏によぎったのは絶望感である。


 夜は屍人が溢れ、結界以外の場所ではまともに寝ることもできない。その上、昨日見たような魔物もいる。人類を狙う魔族だっているのだろう。普通の人間であるシンヤにとって昼も安全ではない。


 しかも、人類の勝利フラグが未だ不明というおまけ付きだ。


「絶対詰んでるよ、この世界……」


 シンヤは誰にも聞こえないように小さく呟いた……。


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