表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

奥山にもみじと散りゆく君

作者: ネズミ王

 (カカカッカナカナカナッナッナッ……)

 

 紅葉に変わる季節、出遅れたヒグラシの鳴く音が谺響する(こだまする)

 私は、山奥にある祠で目を覚ました。辺りは鬱蒼(うっそう)と生い茂り、壊れかけた祠以外建物は、見当たらない。

 頭がギシギシと痛む。何をしていたのか思い出そうと、試みるが、頭が痛むばかりで何も思い出せそうにない。

 どうすれば良いのか、考え呆けていると、隣の茂みから物音をたて、一匹の白い鹿が飛び出し、私の前で立ち止まった。彼は、鳴き声をあげるでもなく、立ち去るのでもなく、ただ静かに、私の顔を眺め、私の目の前に佇んでいた。

 私が、問いかけても、彼は変わらず、その場で私を見つめていた。

 

「気にしていても、仕方がないか…私が何であるか思い出さないと……」

 

 私は、目覚めた祠を調べたそこには、薄汚れたお地蔵様と御札があった。御札には、お地蔵様の名前であろうか?かすれた文字で書いてあり、読む事は困難であった。祠の中には、お地蔵様と御札だけで、他にめぼしい物は見当たらない。

 目覚めてから、数時間経ち日が暮れ、辺りが暗闇に包まれ光源のない山の中は、一点を覗いて漆黒に染まる。

 周りが、闇に染まる中、私を見つめていた。彼だけがぼんやりと白く光って、私を包むように横たわる。

 

「なんて、暖かい光なんだ。」

 

 彼の、暖かい光に包まれながら、私は身を任せ寄り添う様に眠りについた。

 私は、夢の中で意識があった。真っ白な世界に、私と私によく似た、白装束を着て、首には草のネックレスのようなを巻いた少年が私に微笑んでいた。

 

 彼は、何も言わず私をただ見つめていた。彼の雰囲気に良く似ていた。何も言うわけでもなく、ただ私を見つめ、柔らかく微笑んでいた。

 

 私は、目の前の少女に問いかけた。

 

 (あなたは、なんで、私の夢の中にいるの?)

 

 少女は、静かに答えた。

 

 (あなたは、私、私はあなた)

 

 そう言うと周りは、暗くなり、飛び起きるように、私は目を覚ました。

 目を覚ますと、辺りは霧に包まれ、私のそばに居た彼は、遠くの方で、着いてこいと言わんばかりに私を眺めていた。何があるのだろうか?分からないが、手がかりのない今、ここにいても仕方がない。ついて行ってみよう。

 

 私は彼の方に、走り出し彼について行った。彼の横に着くと、彼は跪き(ひざまずき)、私に背中に乗るよう促した。

 彼にまたがり、彼に身を任せて数時間、彼に触れていると何故か親近感が湧いてくる。何故であろう。

 

 彼が急に立ち止まる。私は思わず前のめりになり、落ちてしまった。

 彼は、そんな私に目もくれず目の前を真っ直ぐ見つめ、ゆっくりと歩き眼前の滝の中に、消えていった。私も後追い、滝に向かって走り出す。滝の裏には、別世界と思われる空間が広がっていた。その洞窟は、煌々と(こうこうと)(また)いている。美しい一言で表すなら、この言葉が1番適切であろう。

 

 そんな中、彼は中央で立ち止まっていた。彼の目の前には、夢であった、少女が座っていた。少女は、私に気づき、こちらに来るよう手招きをしながら、やはり微笑んでいた。私には理解出来なかった。少女の前に座り、少女の表情とは反対に、私は静かに見つめ返した。

 

 少女の口から、思いもよらない言葉が、放たれる。

 (あなたは私、私はあなた、昨日の夢で話した意味分かったかな?

 あなたは、私の半身、彼は私の従者よ。だから彼は、あなたを探して、私の所まで連れてきてもらったの。

 あなたが、目覚めた祠あの場所も、元々1つだった。私とあなたの物だったの。

 本来、神というのは力のあるものなんだけど、信仰も無くなって力が薄れた私たちは、体を半分に分け私は、山に残り力を蓄えていて、あなたは、分かれた時の影響で記憶を失ったみたいね。どうする?またひとつに戻る?)

 

 私は、彼女の問いかけに答えもせず外に走り出していた。受け入れられない現実、襲いかかる恐怖、私は彼の制止をふりきり、私は闇雲に山の中を走っていた。

 

 その頃、取り残された少女は、悲しそうに洞窟の天井を見つめポツリと呟いた。

 

 (仕方ないわね、彼女の意思と関係なく戻ろうかしら……私も半身分けたのは失敗だったし、私が力を蓄えている間、外の世界を見てもらおうと、思ったけど記憶が無いんじゃ、意味が無いわ……)

 

 少女は、目をつぶり従者たちに命じた。私を捕らえて連れてくるようにと。

 

 私は、山の中を走り回ったあと大木とも言える、もみじの木窪みに隠れていた。恐怖で体が震え、それに呼応するように周りの木々もざわついている。

 私は、走っていた疲れが急に襲いかかり、少し落ち着いたこともあり急に眠気に襲われ、私は眠ってしまった。

 

 (ザザザッ……ザザザッ…)

 

 私は目を覚まし、身構える。周囲を取り囲むような気配を感じる。取り囲まれて数分、私の前に彼がいた。彼は私を捕まえに来たのだろう。私は必死の抵抗を試みるが、抵抗虚しく捕らえられてしまった。

 

 彼は何も言わない。私を捕えうつろな瞳で、私を連れて歩いている。何も言わず、ただ、少女の元へ、まるで人形であるかのように、言われるがまま。

 

 私は、再び少女の前に立った。初め出会った時とは違い、数匹の従者を従え、怒りに満ちたような悲しげな表情を浮かべ私を見つめていた。

 

 私は、消えたくなかった。私の思いを口に出す前にその言葉は、少女によって遮られた。

 

 (覚悟は、良いかしら?完全に消える訳では無いから、安心して良いわよ?)

 

 そんな言葉は信じられるはずもない私は、隣にいる彼に必死で呼びかけた。

 

 (私もあの人の、半身なら貴方は私の従者でもあるんでしょ!今すぐ私を連れて、この場から逃げて!助けて!お願い!)

 

 私は、必死に問いかけた。問いかけてる最中にも、少女は儀式の準備を始めている。

 

 消えたくない。まだ生きていたい。そんな思いを言葉に乗せ彼に言葉を発していた。彼の目がこちらを眺めた。私を見る彼の目にも、自由になりたい。そう思う視線を感じた。私は、繰り返し念じるように彼に叫び続けた。

 

 少女の準備が終わった。少女は私にジリジリ近づいてくる。私は最後まで叫び続けた。叫び続ける中、少女の手が私の頭に降りる。

 

 (ドンッ)

 

 少女の手が私に触れた瞬間、彼は雄叫びを上げ、少女を突き飛ばした。その目には、生気が宿り私に近づいき私を背中に乗せて、外に駆けていく。後ろでは、少女が叫びそれに反応し、数匹の別の従者が追いかけてくる。

 

 彼は、後ろを気にせず一心不乱もみじの木が生い茂る山の中を走り抜ける。追いかけていた従者たちの姿はもう見えない。追っ手を、振り切ったのだ。

 

 私は、喜びの声をあげた。その声は、山彦のように響き渡りそんな私を見て、彼は私に微笑みかける。

 

「自由になれた。これから私の人生は始まるんだ!ああ、でも何も分からない私、何をすればいいんだろ……」

 

 私の、歓喜と不安を他所に、彼は鼻でつき背中に乗るように促す。そんな彼の目を見ていると私は不思議と安心した。彼は、何を言いたかったのであろう。きっと

 

 (心配しなくて、良いんだよ。僕がこれからも一緒にいるからな)

 

 そう感じた私は、彼の背中に跨り、彼と一緒にもみじ生い茂る山奥に消えていった。

 

 (カッカッカッカナカナカナッナッナッ)

 

 二人のこれからの幸せな人生を願うよう、ヒグラシの鳴き声はこだまする。

 

      [完]

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ