5.インタールード
真っ白な霧が世界を覆っている。
そこから、見慣れた一本の樹が天に向かって伸びていた。螺旋を描き、どこまでも。
幹は灰色に沈んでいて、その表面を虹色の光の玉たちがせわしなく上下している。
太い蔦を束ねたような幹は至る所に深いヒビが入り、僅かに揺れている。にも拘わらず、どんな強風が吹き荒れようとも倒れることはない、と理解していた。
暗い空を見上げる。雲に隠れて輪郭こそはっきりしないが、月の輝きが手前の雲を白金に染め上げていた。
「そろそろ満月……、か」
……そう、これは夢。
満月近くになると必ず視る〈世界樹の夢〉だ。
普通の夢はそれを見ている間に夢だと認識することは稀だ。しかし、毎月同じような夢を視続ければいい加減夢だと認識できるようになる。
俺の世界樹はいつも、アパートの隣にある砂利が敷き詰められた駐車場に顕現する。今回も目が覚めるまでここで一人――。
「ウフフッ」
不意に笑い声が響く。
誰何の声を上げるが返事はない。
と、月の明かりが強くなる。雲間を抜けたのだろう。
その光に照らされるように、世界樹の向こうに人影が見えた。
双子のようによく似た小さな女の子が二人。髪はおかっぱで、天体が降りてきたかのように金と銀に輝いている。
二人の唇が動き、何かを語り――。
そこで、夢の記憶は途絶えた。