4.転入生
応接室では三人がソファーに並んで座っていた。
向かって左にはショートカットの温和そうな中年女性、右には白髪で長身痩躯の初老の男性、そして中央には金髪の若い女の子がいた。
「はじめまして。私が副校長の中川、そしてこちらがクラスの担当教師を務める新宮です」
中川さんに紹介してもらい、新宮です、と頭を下げる。
「これからお世話になります。岩瀬由梨の母親です」
ショートカットの女性が立ち上がり、そう返事をした。
「えーと、お母様と……失礼ですが、おじい様でしょうか?」
中川さんがすまなそうに口を開く。
「いえ、めっそうもございませン。私めは執事のピエールでございまス」
初老の男性は手を胸に当てて会釈をする。
「し、執事と言いますと、あの……?」
「いかにモ。奥様とお嬢様の生活の全てをお助けする使命を持っておりまス。お部屋のメンテナンスから害虫駆除まで、何でもござれですゾ」
「なるほど……、執事さんがいらっしゃるとなると、中々の名家なんですね」
「いえいえ、そんな自慢するほどのものじゃありませんわ。ピエールが色々してくれるのも本人の好意に甘えている部分も大きいですし」
「そうなんですか……。ところで由梨さんは、ドイツと日本のハーフでしたよね?」
「……そうよ」
由梨と呼ばれた金髪の少女が、目を背けたまま初めて口を開いた。
髪の色やすらりと伸びた手足は、ドイツ人の父親から受け継いだのだろう、一方、瞳の色や女性的で柔らかい目鼻の形は隣のお母さんに似ている。
「えーと、本校へ転入されるということは、由梨さんは〈アスラ〉である、という認識でよろしいでしょうか」
「そう考えていただいて構いません。夫……父親が古い一族の血を引いておりまして、由梨にもその血が流れています」
「分かりました。差し支えなければなんですが、〈アスラ〉としての特異能力はどのような……」
「黙秘するわ。言いたくない」
由梨はそういって口を尖らせた。
〈アスラ〉についての情報も個人情報の一種なので、過度な詮索はプライバシーの侵害になるというのが世間の常識である。講義をしていく上で必要な情報となる可能性もあるが、本人が秘匿を希望するなら聞き出さないのが学校の方針だ。
「そっか。では、聞かないでおきます」
乾いた笑顔の中川先生にそっと脇腹を小突かれた。生徒に積極的に話しかけて、受け入れやすい態勢を作っていきましょうとこの前打ち合わせたことを思い出す。
「担当の新宮です。岩瀬さん、明日からよろしくね。慣れない環境で大変かもしれ――」
「――言っとくけど。あたし、学校になんか興味ないから」
それが、岩瀬由梨との最初の会話だった。