脱却
頼まれた遺品整理は掛け軸や刀、提物に書籍類と多岐に渡っていた。
状態確認とリスト作成のために流し見した本の奥付には、かつての所有者だろう印が押してある。
所々にある書き込みや展示会の半券に誰かの熱を感じて、どうしようもなく心が震えた。
骨董品のコレクションはいわば自分の集大成だ。
少ない給与からコツコツと集め、大切にしてきたものもいつかは手放すことになる。
そんな当たり前のことも割り切れない弱さがまだ自分にはあった。
自分の人生の限られた時間の中で、果たして何者になれるだろうという不安と願い。
たった数十年で何かを変えられるわけでもなし、何かに影響を与えられるような人物でもないんだ。
それでも誰だって一度は夢見たと思いたい。
”人とは違うことがしたい”
高校を卒業して進路が最後まで決められなかったあの日、思い返せば恥ずかしいぐらい子供だった。
進学した同級生への負い目なのか、取り残された自分が自分の価値を認めるには何か個性を獲得することが唯一の手段だと信じていた。
何かになりたくて見つけた一つの希望は心の弱さを際立たせて、逃げ出したという結果だけを色濃く記憶に刻んだ。
周りの協力を得て弟子入りした遠く山奥の工房
期待に溢れていた生活は如実に自分の幼さと、足りないものを浮き彫りにして現実を突きつけられた。
「嫌いになったのか」
辞めることを伝えた親方は静かに目を見つめていた。
耐えられずに離れる決意をして乗った列車の車窓は真っ黒で、すべてが終わったとさえ感じた。
今でも骨董に関わっているのはあの日の後悔と、「嫌いになったわけではない」ということを
必死に心が叫んでいるから他の道を選べなかっただけ。
そんな弱い自分が人の大切なコレクションを整理する仕事をしていていいんだろうかと不安にもなったが、頼られた以上は佐藤さんの顔も立てなければならないだろう。
「いつか自分が納得できるような仕事ができるんですかねぇー」
ふとタオルケットに包まれて眠っている銀に目を向けると、幸せそうに耳がぴこぴこ動いている




