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白煙  作者: 藤科慎一
4/5

車窓

隣家の苗字を八屋はちやと確定。いろいろ辻褄が合わない部分を修正しました。

いちおうは前話との続きという流れですが、一話ずつの話みたくなってしまいます。

不定期ですが、最低でも20話程度は続けます。

久しぶりに頭を使った鑑賞会からの帰り道、甘味を携えて電車に揺られる。

車窓から流れていく景色は市街地の高層建築群から見慣れた田園風景へと移り行く。どこか地元の風景にも似て、農作業をする老人の後ろ姿に郷愁を抱く。


とてつもなく長く感じた学校への通学路や、友達と何度も通った駄菓子店、暑い夏の日に麦茶をくれた長屋のおばさん、好きだった同級生の家に行ったこと。それは景色や香りだったり音によって突然胸に暗い穴を開けるように。

振り払うように頭を振って携帯画面に目を落とす。あと少し、あと少しで。 いつになっても電車は嫌いだ。


降り立つ駅は眼前に広がる風景に溶け込むように、擬洋風建築といわれる大正時代の文化を色濃く遺した佇まいで見とれてしまう。地元の人々はさして興味もないようにせかせかと帰路を急ぐ。


タクシーやバスなんて便利なものはないので、自宅までは徒歩だ。

「あー、本当に運動しないとやばいかもなぁ。」参考書を入れた肩掛けカバンの重みと、買いすぎた甘味に後悔しながらも夕暮れへと変わる畦道を歩く。


「おかえりなさーいー。」遠く向いから手を振る姿と、振り切れんばかりに尻尾を振る同居人が視界に入る。

たったそれだけでどこか嬉しく疲れが軽くなるのだから、我ながら簡単な性格だとぼやく。走り寄って来て甘味が入った手提げを鼻で突く銀をなだめながら「わざわざ散歩までしてくれたの?ありがとうね。」と優香に礼を伝える。

「んーん、気にしないで。今夜は一緒に夕飯食べましょうってお母さんが。」帰り道に買い物する前に迎えに行ったほうがいいと思って、駅まで迎えに来る途中だったらしい。本当にこの親子にはお世話になりっぱなしで、自分の年で人に頼り切ってしまうのもどうかと思うのだが。


「え、いいの?ほら野菜たくさんもらったばかりだし。あまり気を使わせてしまうのも悪いよ。」

今日の鑑賞会の復習もやりたいし、まだまだ整理できていない骨董品のチェックもある。

「そんなつまんないこと言ってないで、大人しくこればいいのよ!」と肩を叩かれる。

なんて理不尽な・・・と思っている間にも手提げを奪われる。鬼か。それは俺も食べる分が入っているんだぞわかってるのかおい。


結局お隣にお邪魔して夕飯をご一緒することになった。

普段から料理は好きで自炊していたので、せめてお手伝いだけでもと簡単な調理を任せてもらう。

優香の母である瞳さんはいつも通りニコニコ笑いながら話しかけてくる。

「無理に誘っちゃってごめんなさいね、それにお土産までもらったみたいで。」

食事前というのに口いっぱいにお茶菓子を詰めた娘を指さして話す。

「こちらこそ甘えてしまって、今朝も野菜をいただいてありがとうございます。」


暑い日にはさっぱりしたものをと、今朝もらったきゅうりにわかめとカニカマを混ぜた酢の物を作る。

その日の夕飯はきのこの炊き込みご飯に猪鍋と、どこか場違いな酢の物。猪は八屋家の大黒柱である貞夫さんが猟で獲ったものだそうで脂が美味しかった。貞夫さんは骨董に興味はないが、猟師という仕事柄 解体用の刃物には興味があるようで、「鍛錬された鋼の刃物があったら欲しいな」と今度店にある刀剣以外の刃物を見に来る約束をした。




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