会合
冷房が効いた電車に揺られながら街へ出た。
今日は定期的に行われている日本刀の鑑賞会に参加することになっている。以前にも何度か参加したことはあったが、引っ越し先の地区の団体は初めてだったので幾分か緊張してしまう。
こうした集まりに参加することで少しずつ目が養われるということも参加する理由ではあるが、何より癖のある骨董趣味の人々と触れ合うのも楽しみの一つだった。そこに顔を売ったりと商売のことは持ち込まないのがルールだ。
一号刀~五号まで並べられた五振りの刀は、持ち手部分に柄をはめたままの状態で茎の作者銘が見えないようになっている。参加者は刀の形状所謂姿や体配から時代を推測し、地鉄の肌模様から地域を、刃文や刃中の状態も含めて流派や個人まで絞り込んでいく。刀工の特徴を頭の中に知識として持っていなければ到底当てることはできず、初心者などは刃文が似ているからと有名な刀工に回答して偶然当たる程度。
それでも真面目に勉強していけば少なくとも五つのうちの一つくらいは当たるようになり、その嬉しさが原動力となり次は三星位をと目指すようになる。(三星位・・天位、地位、人位と成績順に表彰される)
「う~ん、これは難しいなぁ」どう見ても三号刀と四号刀が同じ作者に見えてしまう。同じ作者の作品が同時に並ぶこともなくはないが確率が低く、はて師匠と弟子筋かしらと悩みつつ、判者(講師)の出題の思惑を考えたりと刀そのものよりも別の目線から考え込んだりして素直に直感を信じることができないのもあるある。
「もう札は入れました?」うんうん唸っていると、同年代だからと新人対応を丸投げされた水島さんが話しかけてきた。
「いやー、悪あがきというかなんというか。もう埋めたんだけど納得いってなくてね」と用紙をひらひらさせる。考えても答えはでないので諦めて、お願いしますと提出してすぐ水島と答え合わせに勤しむことにした。
「二号は関の来写しで間違いないと思うんだけど、五は何にしました?」
「二号は同じですね、五は新しいもので地鉄がかなり綺麗ですから南紀にしましたよ」
あー、その手があったか。
南紀重国は新刀中でも特に地鉄が詰んで地景が混じるが、紀州打ちの大和伝を狙った直刃の印象が強く、比べて駿州打ちと呼ばれる相州伝の乱れ刃のイメージが薄かった。
それに加え、今回の刃文は互の目と呼ばれる碁石を半分にしたような半円の乱れが複数集まって、箱がかった珍しい出来で、頭の中に選択肢としてこれっぽっちも無かった。
「地鉄の綺麗さで大坂と思ったけど焼き出しは無いし、三と四を見て相州伝をテーマにしてると邪推したから直胤にしたよ・・・これはやっちまったな」力なく項垂れた私の姿に、彼は「まぁ講評を聞くまでどちらが正解かわかりませんからね」と笑いながら声をかけてくれた。
結果、大した成績も残せず惨敗した帰り道で「街に行くならお茶菓子買ってきて」と昨日優香に言われていたのを思い出す。
駅までの道のりの途中、住宅街の奥にあるという小さな和菓子屋へ。店の裏からは何かを炊いているのか、真っ白な煙が昇っている。
どこか懐かしさを感じるのは、引き戸を開けた際のカランとなったベルの音か、接客している割烹着のおばちゃんか。前客の会計が終わったことにも気づかず雰囲気の良さにボーッとしていると、「どうされますか?」と件のおばちゃんがニコニコと笑顔で問いかけてきた。
「あぁ、と。お茶菓子をいくつか見繕ってほしいのですが」
「そうねぇ、ちょうど季節のものがあるけどどうかしら。」そういって指さすのは見た目綺麗な梅のういろうと、わらび餅。久しぶりに食べたいという気持ちも沸いたので、「両方ともください」と奮発した。
場面場面の移り変わりの表現がいい加減ですみません。