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白煙  作者: 藤科慎一
1/5

仮始

他人の日記を読むことが好きなので、日記風になにか物語を作れたらと思い、書き始めました。

初めての投稿となりますので、拙く心を打つような内容ではありませんが、暇つぶしになればと思います。


暗い微睡みから揺り起こすように、曇りガラスの窓から陽光が目蓋を赤く染め上げる。

寝床に入ったまま精一杯伸びをして、体の凝りを解しつつ、寝ぼけ眼を開けると眩しい日差しにほこりが踊り、窓辺からはキジバトが鳴く声が聞こえてくる。


西成村穂波地区

窓を開けて目に飛び込む景色は見渡す限りの田園で、静かで過ごしやすい村だった。

8月の夏盛りに引っ越しとなり、暑さが苦手な自分にとっては不安もあったがなんとか我慢できる範囲であった。


吸い込んだ朝の空気を鼻からゆっくりと吐き出して、自分にいい聞かせるように布団から出る。

知人から安く借りた古民家風の一軒家は、見えないところが痛んでいるのか、踏みしめた畳からはギシギシと音がなった。


顔も洗い、一通りの身支度を終えてまだ慣れない我が家を出る。

玄関で毛布の温もりにすぴすぴ言っている愛犬の柴犬、銀にもちゃんと挨拶は忘れない。

「すぐ戻ってくるから、静かに待っていろよ」


普段仕事がある日は朝食も用意しないめんどくさがりではあるが、せっかくの休日。

近所の小さな商店で果物や食パンを買って、ゆっくりと過ごすのが一つの楽しみでもある。


本当は店主の老婆と仲良く世間話をしたり、冗談を言い合うような関係に憧れもするが、緊張でどもってしまうだろうし、冗談が冗談ととられないような真面目さが外見にでているらしく、引っ越し一週間ではまだまだ住民の輪の中には馴染めていない。


カラカラと回る懐かしい青い羽根の扇風機の風も、商店から一歩出ればありがたさが身に染みる。

夏の日差しは刻々と暑さを増しており、近所までの買い物でもTシャツが肌に張り付いてしまった。


未だに慣れない我が家に戻り、洗濯物と布団を干す。

ざっと掃除機をかけて、トイレとお風呂、台所の掃除をしてから小さなちゃぶ台で一息つく。


休日に家事をしてぼーっと外の景色を眺める、そんな無為な時間がなにより好きだった。

平日は仕事中心でどうしても仕事に追われる一日なので、こうしてゆっくり時間を気にしないことで疲れを癒すことができた。


いつの間にか起きだしてきた銀が、何を買ってきたんだと頭を振りながら商店のレジ袋で遊びだす。

「はいはい、待ってくださいよ」


逸る銀を千切ったレタスで誤魔化しつつ、二人分の朝食を用意する。

テレビを見ながら一緒にご飯を食べるのがぎんのお気に入りのようで、さっきまでの威勢はなく大人しくこっちがご飯を食べるのを待ってくれている。


「えらい、えらいぞ」わしゃわしゃと無茶苦茶に顔を撫でまわすとさすがに嫌そうな顔をされた。


のんびりと食事をとってから、食後は二人でえっちらおっちら近所を散歩する。

引っ越し後は忙しくてなかなか村を回れていなかったので、少し探検みたいで楽しい。すれ違う住民は挨拶すればきちんと返事をしてくれるので清々しく、顔を覚えてもらえるので一石二鳥だ。

しかも銀と一緒ということもあり、話しかけてくれるおば様も多く、引っ越してきたことを伝えると「あぁ、あなたが佐藤さんの家を借りられたのね」「困ったことがあれば何でもいってね」と親身に話を聞いてくれた。


佐藤さんというのは古民家兼骨董屋を貸してくれた方で、銀は佐藤さんの家族として育てられていた。

佐藤さんとは、美術品のバイヤー時代に業者の市で知り合ったのがきっかけだった。二人とも日本の工芸品や美術品、小道具が好きで意気投合し、年齢は自分の父親ほど離れていたが純粋に々同じものを好きな同士として尊敬していた。


今回家を借りることになったのは、高齢になった佐藤さんを不安に思った娘夫婦が、一緒に暮らそうと提案したのがきっかけだった。ペット不可のアパートには愛犬が連れていけないと、同居をしぶっていた佐藤さんだったが、娘と一緒に暮らすのは嬉しいようだったし、バイヤー業務に疲れて転職を相談していた自分にとってはお互いに助け舟だったように思う。


「骨董屋と言ってもね、実際に買いに来るお客さんはそんなに多くはいないんだ。」

田舎町にぽつんとある骨董屋、普通であれば需要もなく潰れるのだろうが、佐藤さんのお店は目利き鑑定を求める来客が大多数で、その目を信じて遠方からくる馴染も多かった。


「その点、買い付けをしていた君が継いでくれるなら目利きも申し分ないし、それにこしたことはないんだよ。せっかくのお店を辞めてしまうのもなんだしね。それに銀だって、君によく懐いている。」


佐藤さんが高齢になって足を悪くしてからは、お店にお邪魔したときに銀の散歩をするのがおきまりの流れだった。犬は好きだし、若いころからいろいろと教えてくれた先輩の為になにかしたいと思っていたのだから。


それでも、実際に自分が売る側としてやっていけるのかという不安はあったが、「人が住んでいない家はすぐに悪くなっていってしまうから」という言葉もあり、骨董屋を任せる代わりにという条件で古民家を借りて生活をしていくことを決めた。


そんなこんなで全国を行ったり来たりの買い付け業務のお役御免となり、隠居生活には早いが静かなこの村での生活が始まったのであった。








とても忙しい仕事なので、更新は稀です。そこまで更新を待ち望んで貰えるかわかりませんが・・・。

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