ひとつのおわり
戦いは引き分けというなんとも微妙な決着で終わった。
フセンは『身代式神』を、メーフラは【白の祝福】の蘇生効果をそれぞれ持っていたのだが、多段ダメージを受けたとあってはどちらも耐え切れるはずがなかった。
戦いが終わった後、メーフラはギルドホームの中で勝利という文字を見ながら首を傾げていた。
「おや、自分は負けたはずですが………」
結果的には共倒れだったのだが、自分を倒すという目的を達成した分ガトたちの勝ちだろう、そう思っていたメーフラはそんなつぶやきをこぼした。
それを隣で聞いていたダームスタチスは苦笑いしながら答える。
「いや、これギルド戦だからね。ホームを壊した方が勝つルール、敵を倒すルールじゃないから」
その言葉にメーフラはそう言えばそうだったと思い直した。
ギルド戦が終わったのでそれに参加したものは皆、ホームに転移していた。
それは、メーフラが塔の中から出てくるものだと勘違いしてずっと入り口で待機していたアスタリスクも同様だった。
「終わりましたね」
「………ああ、終わったな」
最前線で戦った2人は感慨深そうに呟いた。
だが、ほとんど敵が攻めてこなかったお留守番組はそこまでには至れない。
微妙な面持ちで見守ってるだけだった。
「それでそれで? これから祝勝会でもやるの?」
そこに空気の読まない雪姫が乱入する。彼女も戦いに参加しなかったが、その場にいるにはいたのでそう提案した。
「お、いいねぇ! 私もやりたいかも!!」
楽しいことが大好きなエターシャがそれに便乗する。
だが、メーフラは乗り気ではなかった。
前回ほどではないがメーフラは全力を見せた。それゆえ、VRの中なのになぜか不快感が体にあったのだ。
現実の体が少し反動を受けているからだ。
隣に立つアスタリスクはそれを敏感に感じ取っていた。
「………俺はいい。この後用事がある」
彼は気を利かせてその場から立ち去った。
メーフラにはその気遣いがすぐにわかった。
「私も、ちょっとこの後やることがあるので、祝勝会はまた今度にしてもらってもいいですか?」
「残念だけど仕方ないね。じゃあ、お疲れ様メーフラさん」
「ボスの嬢ちゃん、今日はゆっくり休めよ」」
メーフラは2人から見送られてゲームからログアウトした。
そして現実世界の創華に戻る。
戻ってきた創華が自分の体を確認すると、やっぱり全力を出した反動があった。
しかし、前回3神を同時に相手にした時は酷いものだったが、今回は鼻血が少しでているくらいにとどまっていた。
これなら洗面所に行かなくても大丈夫だと安心した創華は、ベッドの枕もとにあったティッシュを使って顔を拭いた。
コンコン
鼻血の処理をしている創華の部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
誰がきたのかはわかっているため、すぐにドアを開けるように促す創華。
ガチャリと音を立てて姿を見せたのは当然、その弟の堅護だった。
「どうかしたのですか?」
「いや、特に……話をしようと思っただけ」
堅護はそういったが、明らかに創華を心配して見にきたのは明白だった。
そのことに少し嬉しさを感じた創華は笑みを浮かべながら話しかけた。
「堅護、頑張りましたね。お姉ちゃんびっくりしちゃいましたよ」
「あ、うん。まぁ、勝てなかったけどね」
「引き分けでしたね。でも、最初の頃から比べると大きな進歩です」
「うん。でも、今回が最後だからね。きちんと勝ちきりたかったよ」
「ふふっ、そうですか………それで、栞ちゃんとはどうなりましたか?」
「待っててくれるって、それで、親を説得するために今度来て欲しいって」
それを聞いて創華はもうそこまで話が進んでいたのかと少し嬉しくなった。
「それは私もいった方がいいのでしょうか?」
「いや、俺1人で頑張る。これは、俺の戦いだから」
「そうですか。でも、手助けしてはいけないというわけではないですよね?」
「それは……どうだろ?」
創華は手に握っていたティッシュをゴミ箱に捨てながら机の上にあった一つの封筒を手に取った。
そしてそれを堅護の方に差し出す。
「これ、使えますかね?」
差し出されたそれがなにかがわからなかった堅護はとりあえず受け取り、促されたので中身を見た。
そこには創華宛の手紙のようなものが入っていた。
彼が流し読みして、内容を要約するとThe Ark Enemy社から、研究に協力してくれないかというものだった。
それを理解しながら、堅護はこれがどう役に立つのかがわからなかった。
「えっと、これは?」
「見ての通り、研究させてくれって招待状ですね。よく読めばわかると思うのですが、研究結果はもらえるらしいのですよ」
「それが、どう役にたつと?」
「知ってますか堅護、The Ark Enemy社って他の企業や国と比べて一世紀は技術が進んでいると言われている会社なんですよ? その会社の最先端の研究レポートって、漣家的にプラスになると判断されると思いませんか?」
「それは、どうだろう? わからない。でも、これは返すよ」
「なぜ?」
「ここは自分で頑張りたいから。だからそれを手に入れるにしても自分の力で手に入れたいんだ」
「そうでしたか。余計なお世話でしたね」
創華は返された封筒を無造作に机の上に放り投げた。
それから少しだけ、ゲームのことについて話してから、創華は食事を用意しないといけないからと立ち上がり1階に降りた。
堅護は一度部屋に戻って、携帯で栞とメッセージのやり取りをした。
1階に降りた創華は近くに堅護がいないことを確認してから凛に電話をかけた。
いつものようにワンコール前につながる電話。
『もしもし創華様、何か用か? あ、もしかして今、私が泊まっているホテルに来るとかか? それなら大歓迎だ。場所はそこから少し遠いが旅費はこちらがーーーーー』
「あの、凛さん。少し聞きたいことがあるのですが………」
『む、私のスリーサイズか?それならーー』
凛は創華と電話をするときはいつも暴走気味だが、今日は1人だけ仲間はずれということも相まってかなりおかしなことになっていた。
そんな凛をあしらいながら創華はひとつ質問をした。
「あの会社の脳研究の資料って、凛さんたち的にどのくらいの価値になりますか?」
『む、そんなことか。そうだな………まぁ、娘1人分でどうだろうか?』
電話越しのため、顔は見えない。だが、創華には凛が笑みを浮かべているのが見えたようだった。
気づけば、創華自身も悪い顔をしていた。
通話を終わり、流れるような動作で携帯電話をポケットにしまった創華は1人、誰もいないキッチンで呟いた。
「これで、私がいなくても大丈夫そうですね………ふふふ…」
そして、それから6年の月日が経過した。
堅護が20歳になった。
中学2年生の頃から、脳を使った体への指令を意図的にするという訓練を姉から受けていた堅護だったが、それが少し前に実を結びある程度自由に体を使えるようになっていた。
とはいっても、危険なので姉に止められていたのだが……
そしてそんな彼に父が一つの封筒を持ってきた。
例によって「うちの会社の社長からだよ」と持ってこられた封筒を彼は受け取った後素早く部屋に持ち帰り、心を躍らせながら中を確認した。
そこに書いてあったのは、彼が6年前に確認したものと同じような内容の書類だった。
「これで、やっと……」
堅護は6年前、栞と2人で栞の父親と会い交際を認めて欲しいとお願いしに行った。
当然、栞を政略結婚の道具として見ている栞の父にとって、それは了承できるものではない。
すぐに却下された。
しかし、そこで凛さんからの援護射撃、何かを耳打ちしたかと思うと渋々といった様子で答えを保留してくれた。
そこで、凛は堅護に進むべき道を示してくれた。実際はその道は創華が用意したものだったのだし、この時点で了承をほぼ得られていたようなものなのだが、堅護はその事実を知らない。
あの時、凛が耳打ちした内容はシンプルで、あの場で堅護と栞をくっつけさせれば例の会社の研究のデータが手に入る。というものだった。
The Ark Enemy社は他の企業とは仲が良くない。
その技術を独占しているからだ。当人たちにはその気はない。だが、今まで誰も外に情報を漏らすことがなく、技術提携を受けなかった過去からその技術は社内でしか取り扱われなかったのだ。
依頼などを出せば条件次第で受けてくれるのだが、それを解析しても重要な部分が理解できなかったりするのだ。
それを、研究データ段階で手に入れられるのは大きい。それがわかっているから引かざるを得なかったのだ。
だが、易々と娘をくれてやるのは癪だったので保留という形に収まった。
この時点で一部のデータは漣家に渡っていた。
創華は一度The Ark Enemy社の研究室に足を運びデータを取られ、そのバイト代としてもらった資料の一部分を凛に預けていたのだ。
そして方針が決まった堅護は姉に師事しながら、中、高と卒業し今は大学生だ。
堅護はここまで自分を育ててくれた姉に感謝をしながら、その成果が出たことを一緒に喜びたかった。
だが、もう彼の隣の部屋には創華はいなかった。
3年前まで使われていたその部屋は今はもぬけの殻だ。
一部残っているものはあるが、大半のものは捨てられたりで片付けられていた。
堅護は少し寂しくなり、隣の部屋の扉をノックした。
こん、こん、こん…………
『はい、どうぞ』
ノック音が反響するだけで他には何も聞こえない。わかっていたことだ。
でも、いつものようにそんな声が聞こえてきたような気がした。
堅護は勝手に扉を開く。
中は埃が舞う部屋があるだけだった。
彼はため息をつきながら自分の部屋に戻った。
電話をしようと思った。
しかし、今彼の携帯電話は壊れて修理に出しているからできなかった。
こんな嬉しい日なのに、姉と一緒に喜べない、よくやったねって褒めてくれないのに彼は物足りなさを感じていた。
「………あ、固定電話、あるじゃん」
堅護は今はもう家を出てしまった姉の携帯に向けて電話をかけた。
Prrrr
Prrrr
Prrrr
ガチャ
「はい、どうしました堅護?」
「姉ちゃん、例の封筒が俺のところにも!!」
「そうですか!! よく頑張りましたね!」
その報告を聞いた創華は自分のことのように喜び、堅護のことを褒めた。
堅護はその姉の声で満たされたような気分になった。
そして少し話し込んでから、今度は栞に電話をかけた。
『もしもし堅護くん、何かあったの?』
「栞さん、改めて言います。好きです。付き合ってください」
堅護はあの時、成り行きで言ってしまった言葉を今度はちゃんと言い切った。
「はい、よろしくお願いします」
少し涙声が電話口から聞こえてきて堅護は少し戸惑ったが、拒絶されなくて胸をなでおろした。
これからも、彼には困難が立ちふさがることになるだろう。
さしあたって、今は保留になっているものを承諾にしてもらわなければいけない。
でも、きっと彼なら、どんな困難でもなんとか乗り越えられるだろう。
堅護自身はそう思っていたし、栞もそう信じていた。
思ったより出来がイマイチで逆にびっくりしている………次話、大丈夫かなぁ……
次回は最終回です。
11月10日に投稿します。
つまり明日ですね。
Q、鬼強レイドボス倒したと思ったら凶悪なラストアタックが…
人造人間系で自爆はお約束
A、それがやりたいがために人形だった説ありますね
Q、爆発オチなのかーwww
A、サイテーですね
Q、いちいちスキルの効果を解説してくれるプレイヤー達……なんてやさしい世界なのでしょう
A、スキル効果がわからないと読者がわからないだろうと思ったけど、一人称視点だと主人公が解説は不自然…ということで相手の策は全部相手に話させました。一人称視点は作者に優しくないと今回わかったので明日の最終回に合わせて投稿される予定の次作ではそれを改善させた設定を盛ってみました。
Q、選択肢5:ドゲザ×教官のカップリング
A、〜エターシャ(腐女子)を添えて〜……ですかね?
(この選択肢も)ないです
Q、でかしたぞ!!弟君!ラスボス?裏ボス?を殺たぞ!
所詮相手はひとり、数の暴力には勝てん、フハハハハハハハ!
A、最初の方で数の暴力に勝ってたんですがそれは……
相手が少人数すぎると大軍って案外活きないんですよね。
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