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総力戦・後


床が落ちたことによって塔の中にいた私たちは全員下の階層に叩き落とされた。

それなりの高さがあったため、落下ダメージもそこそこだ。

加えて、私は火だるま状態だったので落下ダメージはそれほどでなくても一番ダメージを受けていることだろう。


「やったのか?」


「いや、見た感じまだHPは残ってる。でも、本当にあと少しってところまで来ているよ」


床に落ちた私の耳にそんなやりとりが届く。

さっきので決めるつもりだったのか、決まっていないと見るや途端に不安がっていた。


私は火だるまになりながらも着地は成功させていた。

しかし、その代償に幾度となく壁に突き立てた女王の権威クィーンオーダーは壊れてしまったみたいだ。刃の部分がボロボロになってしまっていて剣というよりもはやノコギリのような見た目をしていた。


これでは別の武器を使ったほうがいいと思った私はそれを放り捨てて新しく捕食の牙プレデターを取り出した。

リーチが短いのがたまに傷だが、回復効果のある武器。

これで減ったHPを回復しようという腹づもりだった。


「あと少しだけど油断するんじゃないぞ! どんどん範囲火力を送り込め!!」


落ちることが予定になかった私と違い向こうは知っていたことだ。

特に驚きはなく、落ちたらすぐに立て直して地面に炎を撒いた。

こうでもしなければ私のHPに触れることすらできないとわかっているからだ。



またチリチリとHPが削られ始める。【白の祝福】が頑張ってくれているが、いつこの均衡が崩れるかがわからないから私は素早く捕食の牙プレデターでHPを回復させようと前に出た。


「ガト君、あの短剣!!」


「っ!! わかった!!」


それに対応するようにガトが私の前に立ちふさがった。

その手には見慣れない大きな盾、今日のために用意して私に隠していた武具の一つだろうか?


私は近づいてくるならちょうどいいと思いガトからHPを搾取することにした。


右に握る短剣で切りつけるーーーように見せかけて左の蛇腹剣で足を払い体勢を崩しできた隙間に短剣を差し込む。


私の剣は狙い通りにガトの肩に突きたてられる。しかし、私の剣がガトの体に突き刺さることはなく、ガギィ、という音が鳴り弾かれてしまった。


「一体何が!?」


「HPへのダメージを武具に肩代わりさせられるスキルだよ。そしてーーーー」



ピシーーーー



私の手元で亀裂が入るような音がした。音の発生源は先程ガトに突き立てようとした右手の短剣だった。

見れば捕食の牙プレデターの刃の部分に亀裂が入り、今まさに崩れ落ちるところだった。


理解が及ばない現象だったが、そういうものだと受け入れた私はすぐさま新しい武器を取り出す。


出したのは能力は持っていないが数値に優れるダマスカスの剣だ。


「ふむ、肩代わりしたのは理解しましたがなぜ私の剣が壊れたのでしょうか? 教えてくれますか?」


「ふっ、この盾の効果だよ。この盾は壊れる時に相手の武器も同時に壊す怨念の盾、大陸中央の城にいるデュラハンが低確率でドロップするよ」


「教えてくれてありがとうございます。次からは気をつけることにしましょう」


「それよりガト君、今のでメーフラさんの回復手段はほぼ尽きたはずだよ! あとは持久戦で勝てる!」


陽さんはなぜか私のアイテム事情に詳しい。多分だけど、特訓している中で色々調査したりしていたんだろうね。

確かに、私が持っている回復アイテムは今の捕食の牙が最後だ。


人形の体というアイテムでHPが回復できるが、それはエターシャさんに言わなければ手に入らない。

そして私は言っていないのでもらっていない。持っているのは人形の手足だけだ。

これは壊れた部位の耐久を回復できてもHPには不干渉だから使っても意味のないアイテムだった。



「そういうことだからみんな、押し切るよー!」


フセンがその号令とともに私に向けて炎の爆弾を射出してくる。

私は壊れた短剣の持ち手の部分を素早く拾い投げそれにたたきつけ起爆。

離れたところで爆発したそれは私に当たることはなかったが、強い風がここまでくる。


例によって炎属性なので私にだけ効果がある攻撃だ。

それに倣うように他の魔法使いたちも炎系の魔法を私の周りに向けて連射してくる。

正直、このままだと負けるかもしれない。



ガトが集めた戦力だ。それに負けるのはある意味本望で、私が望んだ最後なのかもしれない。


でも、私も負けず嫌いなんでね。


最後の最後まで持てる力を全て叩きつけるつもりでいくよ!!


「回復手段を奪われ、ここが最終決戦ですか。なら、この攻撃を防ぎきることはできますか? ……【終戦モード】」



私がレイドボスとなったことで手に入れたスキル、その中で最もハイリスクハイリターンなスキルがこれ、【終戦モード】だ。


「陽さん、これは?!」


「情報なし、アドリブでなんとか。大丈夫、ガト君は私が守るよ!!」


流石の陽さんも一度も見せたことのないものにはこの反応だ。

それを見届けつつ、私は【神出鬼没の殺戮者】を起動する。

前回使った時からまだ数分しか立っていないから本来なら発動できないはずだが、【終戦モード】に入った瞬間に全てのスキルの冷却が強制終了しているから関係ない。


私の体が一番遠くにいた魔法使いの後ろに転移する。

急に目の前からいなくなった私。

そのことを一番早く理解したのは陽さんだった。

だが、理解した時にはもう遅かった。私の蛇腹剣が魔法使いの首をズタズタにしたあとだ。


転移後すぐに【ピーキーチューン】のその先、INT、VIT、MND、LUKのステータスを4分の1にする代わりにSTR、AGIのステータスを2.5倍に引き上げる【ラストチューン】のスキルを発動させている。


いちいち面倒な削りをしなくても一撃でHPを持っていける。


死亡を肩代わりする身代わりアイテムだが、それは即死攻撃の多段ヒットには抗えない。

蛇腹剣はその一枚一枚の刃が敵を切り裂く武器だ。


それゆえ、それ一撃で死ぬ状態なら蛇腹剣で切りつけるだけでご覧の通りというわけだ。

魔法使いはHPが低いから攻撃特化でステータスに大きな差があり、CRI判定の時にダメージが倍加する私の一撃はたとえ刃一枚分であっても耐えられなかったみたいだ。


魔法使いが倒れたことを確認した私は近くにいた別の魔法使いを切り刻む。


「魔導師どもは下がれ! 前衛ははやくあいつを抑えろ!!」


誰かが声を荒げる。その声に従うように、数名の魔法使いを犠牲にしながら陣形を組み直す。

輝かしい努力だ。だが、無意味だ。

私の体は再び搔き消える。今度はまた、魔法使いの後ろだ。



「なっ、冷却時間はどうしたぁ!!?」


「【終戦モード】中はそんな概念存在しません」


消えては現れ、敵を切り刻む私の姿に絶叫しながら理不尽と叫ぶ敵たちの姿。

私にはそれが戦うことを諦めて敵から獲物に成り下がった者にしか見えなくなってきた。


だが、そんな中でもガトは諦めていなかった。


彼はフセンの前を守り後ろは陽に任せることで私の奇襲を警戒している。

その顔に余裕は見られないが、諦めている雰囲気でもなかった。


次々と切り倒されていく仲間たちの中、守るべき存在をはっきりさせてそこから動かないガトたちは後でいいと私は判断した。


それより床を焼く魔法使いたちが邪魔だ。


【ラストチューン】のせいで防御面がそこらへんの雑魚よりペラッペラな私は範囲ダメージもきついからね。

まぁ、今更HPを気にする必要はないんだけど。



私は魔法使いたちを目の敵にするように狩り続けた。

守られ慣れた彼らは近づいて仕舞えば獲物でしかなかった。

私が【終戦モード】を発動させてからたった30秒で全滅した。


そして次は戦士たちだ。


「おいっ、魔法使いたち全滅しちまったぞ!! これどうするんだ!?」


「ギルマス、指示をーーーーぐああああ!」


「なんでもいいから時間を稼げ!! あの状態がいつまでも続くはずはない! あれはレイドボス特有の暴走モードだ!」


「となると……」


「ああ、長くても3分もすれば自壊する。あの性能ならーーーーー」


「もっと早いかもってか。わかった、聞いたなお前らぁ!! 勝利は目前だ!」


「「おう!」」


ガトたちのギルドは表向きはレイドボスを狩ることを専門としたギルドらしい。

それゆえにさまざまなレイドボスと戦いその経験が積み重なっていた。


だから、私の【終戦モード】を暴走モードという風に推測できたのだ。


そしてその推測は正しい。

【終戦モード】を使った私のHPの最大値は1秒ごとに1%ずつ減っている。

魔法使いに30秒使ってそれから10秒使ったから後1分しか持たない。


それだけ耐えれば彼らの勝ちだ。


だが、それだけのリスクを負った私は今、この時だけはぶっ壊れキャラクターとして君臨していることだろう。

この状態が維持できるなら雪姫とだって戦える。


そのくらいに全能感のあるスキルだ。


具体的には、【ギアアップ】の倍率が最大まで引きあげられ、冷却時間がなくなり、MP消費が実質ないようなものになるのだ。

その状態なら、100秒しか生きられない身体でも十分に勝利は可能だ。


「くそっ!! 攻撃が当たらねえ!!」


「攻撃を考えるな! 防御に専念するんだ!」


魔法使いに比べて戦士は固かった。だが、それは気休め程度にしかならない。

私の剣はザクザクと敵を屠る。


「いいことを思いつきましたぁ、両手に蛇腹剣、これで最強だねぇ!!」


残り50秒、私は右のダマスカスの剣を捨てて予備の蛇腹剣を取り出した。

ダメージソース的にはこっちの方が強いからね。


そしてここまできたら出し惜しみなしだ。


脳に無理を言わせて思考を加速しながら最速で、そして最率を模した動きで剣を振るう。


伸ばせば手が届く距離。


なのに敵の攻撃は絶対に私に届くことはないし、私の攻撃は絶対に外れることはなかった。


宣戦布告されてから今日まで、ずっとアスタリスクさんと一緒にいた甲斐があった。

彼の最率、私と違う道を極めた剣。これを自分の剣と融合させて全力で振るえば私に勝てるものなどいない。


「あはは!! その程度!? まだ時間は半分も残ってるよ!!」


口調が乱れる。


本気を出した証だ。視界がいつも以上に鮮明に、小さな事象も全て処理するほど脳を酷使して私は部屋の中の全てを把握し続ける。


残りの敵の数はたったの18人、2人で3秒と考えるとたった27秒で戦いが終わる計算だ。


「あ……悪魔だ……」


「正解だよ」


私の種族名を言い当てたそこのあなたには死をプレゼント。

私の種族は【終幕を告げる戦場の悪魔】

たった1体で100年続いた戦争を終わらせたという設定を持つ人造の悪魔だ。


私はその悪魔の名に相応わしい虐殺っぷりを披露した。

残り30秒


敵の数は10を切った。

思ったより粘ってくれているが、それももう終わりだろう。

はじめのような数に任せた抵抗もできておらず、ただただ死を待つのみだ。






1人、また1人と減っていく。



残り20秒


敵は3人まで減った。言わずもがな、ずっと待ち構えるように立っていたガト、フセン、陽の3人だ。

陽は常に私の転移を警戒しているみたいだけど、もうその必要はない。


壁がないから直進以外する必要がないのだ。




「ここが正念場だ! フセンさん、頼む」


「よしっ、ここだ!!」


フセンが魔法を発動させる。私は何が飛んできても最速で3人を叩き斬るつもりでいた。

だが、この局面でフセンが唱えた魔法は障壁を作り出すものだった。


のこりのMPをありったけ投入して、最大まで硬くした障壁が私の前に立ちふさがった。

私は直進する足を一度だけ止め、地面に両足をつけて剣を振り抜いた。


キィン、ガシャアアアン!!


障壁は一度では壊れなかったが、二連撃であっけなく壊れた。


「くっ、早すぎるよ【ライトニング】!」

ただの牽制だろう。雷の魔法だ。周りに味方がいなくなったからか炎だけでなく雷を使う。


初速が圧倒的な雷系統の魔法。

だが、【ライトニング】は何度も見たことがある。あれは突き出した人差し指の先から直進するしかできない魔法だ。


防ぐ必要はない。

この速度の中でも、はっきり見えている私なら避けることは容易い。


少しだけ身をよじって避ける。


「ガト、守って!!」


「頑張る!!」


「弱い、悲しいほどに弱い」


絶対に勝ちたいという気持ちは伝わってくる。だが、それを成すための力が足りていない。

人は想いだけでは夢を実現できないという現実を突きつけるように、私の剣はガトの盾をすり抜けてその体に到達する。


彼も、ほかの人たちと同じように終わる。




はずだったのだが、どういうわけかまだ彼は立っていた。



「V凸で助かったが、……」

「一度は防いでも次はない!!」

「ガト君は私が守る!! 【狂信の盾】!」


ガトは防御に振り切ったステータスをしていると聞いたことがある。故に、私の一撃が即死ではなかった。

だから身代わりアイテムと合わせてギリギリ生き残ったのだろう。

だが、今の私は二刀流。すぐに次の一撃が入る。


そこに、瞬間移動するように陽さんが割り込んできた。


「恩を仇で返すようだけどーーーー【百華】!!」


これは私が教えた技の一つ、【百華】だ。

これはほかの技と違って決まった動きではない。動きを決めて思考を排し最速でその動きをする技。

いきなり現れて最速を叩き込もうとする陽さんに私は対応せざるを得ない。


陽さんは私を倒すためではなく、私の動きを制限するために避けづらい場所を重点的に狙うように動いた。

だが、残念ながら【百華】は欠陥だらけの技だ。


【神出鬼没の殺戮者】を使ってフセンの後ろまで飛んで仕舞えばーーーーーって、もうガトがスイッチして防御に入ってら。


思ったより手こずっている。


残り、15秒。


「ギリギリ間に合ったぜ!!」


「【ショックウェーブ】!!」


転移後、それを見計らったかのようにフセンがガトの背中に衝撃波をたたきつけて私に体当たりをするような形をとる。

いくら私といえどここまで完璧なタイミングだと、弾き返さざるを得ない。


とっさの判断で私は剣を振るった。


そこに

「【リジェクト】!!」

いつかも食らった盾に触れているものを吹き飛ばすスキルだ。


このスキルは成功させるのが難しいと聞いていたのだが、ガトはこの土壇場でそれを成功させてきた。

仕方ないから転移のし直し、陽さんの後ろに。そして行き掛けの駄賃で無防備な陽さんの背中を切りつけリタイヤさせる。


後2人

残り11秒




「くっ、フセンさん。まずい! 【フルガード】!!」


「ガト、ありがとう!!」


陽さんを倒した直後にフセンに向けて剣を伸ばしたが、それを察知したガトが何やらスキルを発動させた。

彼らの周りにドーム状の障壁が現れる。


私の剣はそれに阻まれた。



「壊れない!?」


「【フルガード】はのこりのHPを1にする代わりに全ての攻撃を10秒遮断する壁を張るスキルだ」


むっ、私の時間はもう残されていない。


「ということは……」


「その様子じゃあ、もう姉ちゃんに残された時間はないってことだろ?」


「うん、そう。私の時間はその守りが切れた1秒後くらいで終わる」


「そして1秒じゃあ俺はともかく身代わりがあるフセンさんは倒せない。俺たちの勝ちだ」


「なんということだ……」


「そういうことだよメーフラちゃん。今回は私たちの絆の勝利だね!」

障壁の中からフセンが勝ち誇った顔でガトの腕にしがみつき勝利宣言する。


「まさか、一応発動しておいたスキルが役にたつとは、私も思ってなかったよ」


「ほえ?」


残り、3秒




2秒






1秒ーーーー障壁が切れる



と、同時に










ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!






私の体が大爆発を起こして、あたり一面を吹き飛ばした。

近くにいたガトとフセンは当然のようにその爆発を防ぎきることはできなかった。

ガトはともかく、フセンは身代わりアイテムを持っていただろう。


だが、残念ながら爆発は多段ダメージだ。


最後の最後で詰めを誤った2人は、成すすべもなくその爆発に包み込まれて消えていった。







ガラアアァァァン



ガラアアァァァン






最後まで鳴り響いた鐘の音は、爆発でHPが全損してお互いが支えあうようにして倒れた2人への祝福のようだった。






次回は割と早くなる予定?

とりあえずエピローグ的な何かになる予定です。それと、次回投稿と同時にちょっと前から作っていた新作も一緒に出したい所存です。


Q、カップル成立エンドってリンさんと創華ちゃん?

A、残念ながら普通に堅護×栞です


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