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ギルド戦 (ソロモード)


11月10日


ついにこの日がやってきた。

今日が堅護が私に挑む最後の日だ。戦いは昼過ぎくらいから始まる。

私、創華は今日は家事を素早く済ませて早くからメーフラとしてMOHの世界にログインしていた。



ログインした私はギルドホームにある一室でゆったりとして開戦の時を待った。


うちのギルドメンバーは私と同じように早めにログインして戦いの準備をしていた。



私がくつろいでいると一通のフレンドメッセージが届く。

送り主はダームさんだった。


一応作戦会議的なものをするから会議室に集まってくれ、とのことだ。


私が会議室に行くともうすでにみんな集まっていた。

空席は2つだけ、私のところと、リンさんのところだ。

リンさんは残念なことに今日は仕事が入ってこられないらしい。

彼女がいれば戦いというものも起こさないほどの一方的な勝利を手に入れられる、とダームさんが言っていた。

そう聞くとリンさんは大概反則な存在だと思った。



「作戦会議、って言ってたけどダームの旦那がもう既に何か用意してるんだろ?」


私が入り、今日来れるメンバーが揃ったことを確認したドゲザさんがそう切り出した。

それに対してダームさんがニヤリと笑った……ような気がした。


「そうだね。作戦、というほどのものはないけど今回はいろんな事情を加味してーーーーメーフラさんが敵のギルドホームを攻める、僕たちは防衛、って感じになると思うよ」


ダームさんはこれが私の戦いということを最大限考えた作戦、ということで私が突撃、残りは防衛とした。

具体的な作戦はなかった。


好きにやっていいらしい。


「でも本当にメーフラさん1人で大丈夫なの? きっと罠を張って待ち構えていると思うよ?」


「そうかもしれないね。でもそれならそれでいいと思っているよ」


エターシャさんの素朴な疑問にダームさんは自信満々に返した。

そして補足説明をする。


彼によると、私を罠で弱体化させようとするなら室内の戦いになるだろうと。

しかしそうやって狭いところで戦えば接近戦最強の私が負けるはずがない、ということらしい。


そもそも、この戦いで罠で待ち構えるというのは案外有効ではないらしい。


というのも、罠に誘い込む=防衛拠点の中に相手を招き入れるということだからね。

そこら辺の壁を壊すだけでこちらは相手に打撃を与えられるのだ。

それを考えると相手がとってくるであろう戦法は遮蔽物のない場所で囲んで魔法で一面を焼き払うなどの強引な戦術だけ。

もしそうなら私が全部叩き切ればいいだけ、なのだと。


その説明にエターシャさんは「本当にできるの?」という懐疑的な目をダームさんに向けたが、ダームさんの「いや、第1回のイベントでやったことじゃん」という言葉に沈黙した。



「ということでメーフラさんは好きなだけ暴れてきていいよ」


そういうことになった。
















そこから待つこと数時間、ついに開戦の時だ。

私たちのギルドホームごとギルド戦専用エリアに転移する。建物の中にいたためそれを目にしたわけではないが、外を見れば普段は街中の風景が見えるはずが今はだだっ広い草原が広がるだけだった。


「始まったみたいですね」


私は小さく呟いて立ち上がり、そのまま建物の外に出た。


フィールドにポツンと建物が鎮座する姿は少し離れてみるとそれはシュールなものだった。

私たちのホームが小さなものを利用しているというのもそれを助長しているのだろう。


そんなどうでもいいことを考えながら私は前へ足を踏み出した。



「メエエエエッフラさああああん!!」


少し歩いたところで後ろからエターシャさんの声が聞こえた。

振り返ると居残り組、というか私以外のみんながホームの外に出て私を見送りに来てくれていた。

エターシャさんが大きく手を振りながら私に声をかける。


「ここは私たちに任せて、頑張ってくださああああい!!」

相当大きな声で叫んでいるのだろう。

その声は私のところまではっきり届き、そして隣のドゲザさんは耳を押さえているような動作をしていた。


「はい、ここは任せました。行ってきます」


私は笑みを浮かべながら普通の声量でそうかえした。きっと聞こえなかっただろうけど、分かってはくれただろう。







まっすぐ、ただまっすぐ歩き続ける。


このギルド戦は攻城戦の縮小版だ。

地形、その他諸々の情報は作戦会議の際にダームさんから聞いていた。まっすぐ進めば、いずれ相手のホームが見えるということも。


その情報通り、歩き始めて数十分経った頃、塔のような建物が私の視界に入った。


周りに遮蔽物などのものはないため、それはまだ距離があるうちに発見できたのだ。

それを発見した私は少しだけ足を早めて歩き出す。

その途中に塔を観察するのも忘れない。石造りの塔だった。高さは20メートルあるかないかくらい。

塔の最上階と思しき場所からキラキラと光が見える。

おそらく望遠鏡か何かでこちらを見ているのだろう。ということは、私が単独で近づいているのはすぐにでもバレる。



その予想通り、私が塔にたどり着く前にその中からわらわらとプレイヤーたちが出てきて、なにやら陣形を組み始めた。

あぁ、ダームさんの予想通りだ。

彼らは外で決着をつけるつもりらしい。


「最後は小細工抜きで正々堂々………ってことなんでしょうか?」


そう呟きはしたがそもそも数が正々堂々じゃなかったなと思い直した。


そんなことを考えている間に私と相手の距離はどんどん詰まって、ついにふつうに会話ができるくらいの距離まで縮まった。

私は整列している彼らの顔ぶれを確認する。

知っている顔はないーーーーない?

あれ、ガトもフセンも、陽さんもいない?どこかに隠れているのだろうか?

まぁいいや。


「お待たせしました、では、始めましょうか」


私はUIを起動して素早く『女王の権威クイーン・オーダー』を取り出して構える。

それと同時にーーーーー


「放て!!」


大量の魔法が飛んできた。

どれも範囲系の魔法だ。私の周囲数メートルをまとめて攻撃せんとする魔法の嵐が展開される。

仕方ない。


「紋章付与、からの神出鬼没起動、ですね」


私はその場で跳躍して相手の後衛を視認する。それによってスキル【慈悲なき宣告】の発動条件を満たして見えた後衛の人に紋章を付与、そのまま【神出鬼没の殺戮者】を発動して魔法の効果範囲内から脱出した。

そして行き掛けの駄賃に転移に使った人に一太刀。


その首、もらいまーす。


人族は首を斬れば確定でクリティカルヒット扱いになる。私の攻撃的なステータスと合わされば一撃でそのHPをゼロにすることは容易かった。

これによって【神出鬼没の殺戮者】の冷却時間がゼロに………ならない?


「転移確認、みんな、ここだあああ!!」


私が切った魔術師の男が大きな声を上げて私の位置を仲間に知らせた。

大声を上げる姿を見る限りまだまだ元気そうだ。しかしなぜ、彼は倒れなかったのでしょう?


不思議に思った私は即座にもう一度切りつけたが、やっぱり倒れなかった。


「今だ、第2波、撃てえええ!!」


指揮官と思しき人物の声がする。私のいる場所に向けて再び範囲魔法が飛んでくる。

そこには当然味方もいるはずなのに、彼らはためらいなく魔法をぶち込んだ。私の周囲が炎に包まれて私のHPがほんの少しずつだが削られていく。

だが、私にとってはすこしのダメージでも、ただのプレイヤーに過ぎない周りの魔法使いたちには厳しいのではないだろうか?


そう思い見ると彼らは平気な顔をしていた。

なにやら小細工をしているらしい。どうやら範囲で焼かれているのは私だけみたいだ。


仕方ない。

多少のダメージには目を瞑って虐殺を始めましょう。


私の今の武装は両手もちにしていた『女王の権威クイーン・オーダー』だけだったのだが、それに加えて左手に今日のために用意しておいた新しい武器『鋼の蛇腹剣』を抜き放つ。

名前に鋼とついているがただの鋼ではない。

なんとこの剣、ダマスカス製の一品だ。聖銀と違い魔法的な効果はないがその分物理面の数値は高い。

あの時の戦いよりも長持ちであるのも魅力だ。


私は近くの敵を右手の剣で、中距離を離れていく敵を左の剣で次々と切りつけていく。

しかしなぜだろうか?

一向に敵が倒れる気配がない。

魔法使いたちが逃げ、そして重装備の敵が前に出てきているのを考えると効いている筈だ。


と、なると。




「ちょっと確かめさせてくださいね」


「ぐわっ、て、テメー、なにをする!!」



私は左の蛇腹剣を1人の敵にうまく巻きつけてこちらに引き寄せた。


そして寄ってきたところを右の直剣で切り刻む。当然、切る場所は急所中心だ。

この作業をしている間に他の魔法使いたちは距離を取り、重装兵が私を包囲するのを成功させるだろうけど、この確認は必須なので目を瞑ることにする。


「あっ、ちょっ………ぎゃああああす!!」


「ふむ………なるほどなるほど、そういうことですか……」


私が右手を振り動かすと、あるところで左手にあった抵抗感がなくなる。

気づけば私が捉えていた敵は死んでしまったらしくその場から姿を消していた。それを見た私は1つの結論を導き出す。


「なにがなるほどなんだ?」


ほんの数秒の出来事だったが、私が魔法使い部隊の中心に出現するくらいは予測済みだったのだろう。

素早く陣形を組み替え、私を包囲した重装兵の中の1人が私にそう問いかけたきた。



「あなたたちが切りつけても死ななかった原因のことですよ。おそらくですけど、死ぬときに身代わりになってくれるようなアイテムがあるのですね?」


「……チッ、思ったよりバレるのがはええじゃねぇか。おいお前らぁ! ギルマスにタネがもう割れたって伝えろ!!」


ほぼ確証を得た仮説に過ぎなかったのだが、この反応を見るに正解だったみたいだ。

となると彼らは基本的に一撃では死なないようにできていると考えたほうがいいね。相手が死んで動かなくなる前提の立ち回りではなく、刺し違えにきた敵を相手にする時の動きで行ったほうがよさそうだ。


私が意識を切り替えると、視界の端で火の玉が上空に向けて打ち上げられた。

その火の玉はある程度打ち上がると射程が切れたのか消失する。その後、塔の中から魔法が放たれた。

当然私を狙ったものであるがその魔法は範囲攻撃ではなくただの直進してくるだけのものだったため、私は近くにいた重装兵を盾にして防いだ。


ちなみに雷魔法だった。

以前、みんなで宝探しに行ったときにも見た魔法だ。となるとガトやフセンはあの中にいる?


そんな考えの間にも周りからどんどん攻撃が飛んできて気を抜けない。

敵の数は攻城戦の時よりも圧倒的に少ない筈なのに、今の方が辛い戦いをしているなと思った。

その理由は先ほど看破した身代わりアイテムの存在だ。

正体を言い当てたがそれで何かが変わるわけでもない。反撃で切りつけた相手がそのまま突撃してくるのは本当にやりづらい。


でも、まぁ?


このくらいならまだ私に傷を負わすことはできないよ?


今のところ私にダメージを与えることができているのは範囲魔法だけだ。しかしそのダメージは少ない。

完全に意図していたわけではないのだが、私には【白の祝福】という自動回復スキルがある。

その自動回復が範囲攻撃と割と拮抗しており、私へのダメージはほとんどないことにされているのだ。

この炎に巻かれたフィールドは実質、私の再生能力を無力化する効果に変わっているのだ。


他に大きな攻撃を与えなければ前進出来ない。

私を倒すには遠すぎる。



もしかしてガト、あなたはこの程度の作戦で勝てる、なんて思ってないよね?




どうやら、身代わりアイテムの所持数は個人差があるらしく、誰が何回倒せばいいのかはわからない。

だが、今のところ最低でも8回、多い人は20回以上切っても死ななかった。


加えて面倒なのがある程度切られた人はすぐに撤退を始めるところなんだよね。


「伝達に対しての返答は雷……もう出すのか……」

「出す? 何の話でしょう?」

「おっと、声に出てたか。まっ、すぐにわかるよ。我らが神の降臨だ」


互いの命を狙い合う場だというのに、私が問いかければ誰かが返してくれる。

彼らはきっといい人たちなのだ。



して、神ですか。

神というと白いのと黒いのが頭の中をよぎったが、流石にあのレベルが出てくると私1人での勝利は無理になるだろう。

そうなったら私も撤退して同じものをホームから連れてくるしかないかもしれない。


そう思った。


その時だった。



塔の二階の窓から2つの影が飛び降りてきた。


「「とう!!」」


戦場の中心、つまりはここに飛び込むように飛んできたそのものたちはシュタっと着地するとその顔をこちらに見せた。


「あ、あなたたちは………」



「ふっ、俺っちの登場に感動してくれたみたいだね」

「いや、あれは感動じゃなくて動揺とかそっちだろ」


その2人は見覚えがある人物。

赤白のピエロ服の男なんかはひと月前にも見たような気がするほどだ。もう1人の方は一度だけしか顔を合わせたことがないが、それでも、忘れられるような人ではなかった。



「俺っちが呼ばれたってことはもう戦いは佳境ってことかな?」

「いや、多分思ったより展開が早いから修正してくれってことだと思うぞ」


「槍神と斧神の2人ですか…… これはまた、とんでもない戦力が飛び出してきましたね」



かつて私をあと少しのところまで追い詰めた3人組の2人が、私の前に立ちはだかった。











主人公がただ無双するだけの物語は果たして面白いのか、私は今その議題に直面しております。

とりあえず、俺、この戦いが終わったら、ストレスフリーな無双ものを書くんだ………


Q、鬼ごっこが鬼ごっこしてない件

A、描写が少ないだけで逃げてはいたから………


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