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逃げる、何から?


堅護が仕掛けられたのは言葉通り鬼ごっこだった。

しかし、通常の鬼ごっこの鬼が相手の体に触れることで勝利になるというものとは違い2人がするのは栞を捕まえられるか否かの鬼ごっこだ。


仮に相手の肩に触れることができても、栞がそこからにげだせるならそれは捕まえたと言うことにならない、と言うルールだ。

つまり堅護は栞を押さえつけなければいけないのだ。



「じゃあ、今からスタートね。3、、2、、1、、はい、スタート、いつでも追ってきていいよ」


栞は開始前に距離を取ると言うことをせず挑発するように開始の合図を出した。


それから小走りに逃げ始める。


堅護は少しあっけにとられながらも、これはチャンスだと思い全速力で栞を捕まえに走った。

もともと5メートルもなかった2人の距離は数秒のうちにゼロになる。


堅護の伸ばされた手が栞の腕を摑みかかる。



そして次の瞬間にはーーーーーー


「えっ? かはっ、」


堅護の視界が上下逆さまになっていた。

突然地面に叩きつけられたことで肺の中の空気が一気に吐き出された堅護は苦しそうにしながらも、何が起こったのかを素早く理解し体を起こす。


彼の目には自分を地面に投げた時の体勢のまま見下ろしてくる栞の姿があった。


「成る程、そう言うことですか……」


「理解した? 追いつくだけじゃ勝てないって」


この鬼ごっこは鬼ごっこのようで少し違う。

そのことを堅護は身をもって体感した。


この勝負は単純な足の速さは重要ではない。否、もっと正確に言うならば、『逃げる側の足の速さは重要ではない』のだ。

逃げる側は今のように追いつかれたところで押さえつけられなければいいだけの話だ。


この勝負の肝は追いついた後、いかにして相手を押さえつけるかにあった。



栞は素早く立ち上がった堅護をまっすぐ見ながら補足をしてあげた。


「この勝負、私の方が大幅に有利なんだよ。だって君は私に追いつかないといけない関係上それなりの速度で走る必要がある。でもそれくらい速く突っ込んでくればそれを少しそらすだけで今みたいになるの」


「確かに、ちょっとだけこっちが不利かも……」


「ちょっとどころじゃないよ。それを今から存分に味わわせてあげるから、それで諦めてね」


栞は再び走り始めた。

全力の4分の1くらいの速度だ。鬼ごっこにしては遅すぎるその走りは挑戦者にかかってこいと挑発しているようだった。


堅護はその挑発に乗る。


今度は投げやその他の攻撃が来ることを頭に入れて追いかける。



彼がとった行動はタックルだった。

重心が低く持ち上げたりすることは難しいものだ。


栞はこれを転ばせることは難しいと判断しひらりと身をかわす。

そして無防備な背中を軽く押す。


堅護の体は前に流されそうになるが、それは強く足を踏ん張って耐えて即座に切り返す。

振り向きざまに伸ばされた堅護の手は栞によって簡単に掴まれてしまう。

手首を掴まれ、足を払い、仰向けにして地面に落とされる堅護。


彼は軽く背中を打ったがすぐに立ち上がる。


そして再び突撃。


その姿に知性というものは感じられず、目の前の相手を捕まえるということだけに最短でたどり着こうとする意志だけがあった。



「はぁ、しつこいなぁ!!」


それを容赦なく転ばせる栞。


一応、怪我なんかはしないように落とし方は考えていた。

そのせいか堅護には大きなダメージが入ることはない。

そして、小さなダメージでは、気持ちが昂ぶっている堅護を止めるに至らない。



2人の鬼ごっこは不毛の様相を見せた。









追いかける、投げる、追いかけられる、投げられる。


これを繰り返した。


堅護の体には僅かずつではあるがダメージが蓄積されていっている。

しかしその1つ1つは小さく、堅護本人は気づいていないくらいだ。

肉体の限界が来るまで動き続けるであろうと考えられた。



対する栞は技で堅護をいなし続けた。

栞は創華のような人間を超越したレベルの動きも、凛のような先を見通し続ける頭の回転の速さもなかった。

それゆえ、常に凡人として見られていたが実は違う。


こと、一般人の中というくくりに入れればそれなりに優秀な人間であった。

そしてすぐに辞めるという決断を下したが、創華がああなった原因と同じ『THE・剣豪』で少しだけ自分を鍛えている。


栞は戦える人間ではなかった。


だが、逃げることが得意な人間だった。




彼女は『THE・刺客』の世界で堅護が結局成し得なかった隣町までフィールドを横断するということができるのだ。


その能力が今、遺憾無く発揮されている。


逃げながら、相手をいなす。

彼女にとっては得意分野だ。



しかし、栞はただの人間だ。

まだ中学生で、身体が成長しきっていないとはいえ1人の男を何度も投げ続けては体力を消耗していく。

僅かずつではあるが、堅護のあしらい方が雑になっていた。



「はぁっ、いい加減、しつこいよ!!」


「はぁ、はぁ、まだ、まだやれる。終わるにはまだ早すぎる」


「しつこい、男は、嫌われるって知らないの!?」


「それでも、ここは、ここだけは、譲るわけにはいかない!」


体力の消耗自体は堅護にもあった。

というか、彼の方が大きかった。だが、この時、堅護は無意識に身体のリミッターの1つを外していた。


それは反動度外視で出力を上げる、等の直接的なものではなく、自分の感覚を限りなく鈍くするというものだった。

実際は疲れて傷ついている身体。だが、堅護自身は絶好調を感じていた。



「うおおおおおおおお!!」


もう何度目になるかわからない突撃。

例によって無策である。



「もうやめてよ!! いい加減諦めて!!」


例によって投げられる。


「ぐはっ、まだまだぁ!!」


地面に叩きつけられてからの復帰が異常に早くなっていることは栞だけが気づいていた。

本人は常に全力なので気づかない。


何度地面に転がっても、そのたびに起き上がる堅護にいい加減栞はうんざりしていた。


「そこまでして私にこだわる理由は何!!? 言ったら悪いけど私、君のことはゲームで一緒に遊ぶようになるまで全く意識してなかったんだからね!」


「俺が栞さんにこだわる理由ーーーーー?」


「そうだよ! 私じゃなくてもいい女の人は世界にいっぱいいるでしょ! それなのにわざわざ茨の道を進んでボロボロになろうとするの?」


「………理由……俺が、戦う理由………」


「その様子だとないんでしょ? なら私は諦めて身近にいる陽ちゃんとかに目を向けてあげるべきなんじゃないの? きっとあの子、君のことを好きだよ?」


「陽さんが………」


「ほら、だからさっさと手を引いて」


「………いやだ」


「まだそうやって駄々こねるの? 私でないといけない理由はないんでしょ?」


「理由ならある」


「じゃあ言ってみなよ。私が、いや、みんなが納得できるような理由をさ!!」


「それはーーーーーーーーー俺が栞さんのことが好きだから、好きになったから、だから諦めないんだ」


「それがっ……ふんっ、だったらここで完膚なきまでに叩きのめして諦めさせてあげるよ」


栞は堅護から逃げ始めた。

堅護はもう速度を落とすなんてことは考えずに全力疾走で栞を追いかけた。

堅護の今の状態から栞はそう来ることはわかっていた。


だから追いつかれる直前、その場で振り返って堅護の右腕を両手で取った。



「ここで眠ってもらうけど安心して、ウチの人を呼んで回収してもらうから」


もう怪我を最小限になんて栞は考えなかった。

彼女は堅護の全力疾走の勢いと自分の力を全て乗せて全力で堅護を宙に投げ飛ばした。



「ああああああああぁぁぁぁ」


勢いをつけて投げられた堅護は面白いほどによく飛んだ。

投げた栞も、宙に浮いている彼を見て「人間ってあんなに飛ぶんだな」と少しだけ冷静になっていた。



だが、栞が冷静で見ていられたのは堅護が空を飛んでいる間だけだった。


通常ならドサ、とかそんな感じの音が聞こえるはずだった。

だが、ーーーーーーーーーーバッシャアアアアアアン!!!




聞こえてきたのは予想していたものと似ても似つかない音だった。


堅護は、川に落ちた。


「ごぼぼぼぼぼぼぼぼっ」


「ちょっ、だ、大丈夫!!?」


先ほどまでしつこく追いかけてきてうんざりしていた相手ではあったが、自分が川に投げ飛ばしたと自覚している栞はすぐに駆け寄り川の上から堅護のことを確認した。


彼はカナヅチではなかった。


だが、泳ぐのが得意な人間でもなかった。


結果、服を着たまま川に落ちた堅護はうまく浮き上がることができずに手足をバタバタさせていたのだ。

このままでは沈んでしまう。


栞も堅護を水死なんてさせるつもりはなかった。


彼女の頭の中を支配したのは焦りという感情。


友人の弟を川に投げ飛ばして殺したとなればどんな未来が待っているのか、栞には予想がつかなかった。


「堅護君!!? 大丈夫!? あわわわわ………えっと、えっと……」


「がぼっ、げほっ、だいz……げほっ、う、b………ブクブクブクブク」



堅護は頭を出してなんとか大丈夫と伝えようとしたのだろうが、それを言い切る前に沈んでいってしまった。


それを見てさらに焦る栞。


川の水は適度に濁っており、上からでは水中の様子はうまく確認できなかった。


そしてはじめはバシャバシャ言っていた水面だったが、彼が沈んでからはそのような音は聞こえてこなかった。


栞は水の中に沈んで動かなくなった堅護の体がボロボロであり、それをやったのが自分であることも思い出した。

それによって栞はパニック状態に陥った。


「誰か、誰か助けて!! 堅護君がこのままじゃ死んじゃう!! あああああああ」

「………ブクブク」

「そ、そうだ、凛ねぇ、凛ねぇならなんとかしてくれるかも! えっと……」


そんな悠長なことをしている場合ではないだろうに、栞はポケットから携帯を取り出して凛に電話をかけ始める。

ブクブク音は止まらない。



Prrrrrrr、Prrrrrrr、Prr……ガチャ


『こちら凛だ』

「あっ、凛ねぇどうしよう! 堅護君が、堅護君がぁ!!」

「…………」


ブクブク音は止まっている。


『まて、弟君に何かあったのだな? 何があったか簡潔に話せ』

「えっと、えっと、私が、私が堅護君を……」

「………」ザバァ……


どこかで水が跳ねる音がした。


『それじゃわからん。落ち着け栞、このことは創華様も知っているのか?』

「あっ、そうだ。創華ちゃんにも連絡しないと。でもその前に堅護君をたすけなきゃ!!」

「………」ズルズル


なにかが這い上がってくるような音がしている。



『ふむ、言葉の端々から察するに弟君が危険な状態であるということだな? 弟君が外に出ているということは私の予測地図を見て川沿いにいるということか? いや、いたか? それでなんらかがあって弟君が川に落ちたということか? くそっ、もう少しさきまで読んでいれば防止できたかもしれんのに…、とりあえず栞、お前はーーー』

「きゃあっ!!!」

『栞?』

「ふっふふふふふっふふっふ、捕まえましたよ栞さん」

「えっ、け、堅護君!!? 何で!? ゆ、幽霊!!?」

『……どうやら自力でなんとかしたらしいな。とりあえず、濡れているだろうから迎えに行ってやるとするか………プツッ』



凛の予想通り、堅護は自力でなんとか川から脱出を成功させていた。


彼は沈みゆく最中、かつて姉に言われたことを思い出した。

それは小さなアドバイスの言葉だった。

『堅護、本当にやばい時ほど、とりあえずで行動するのは止めておきなさい。やばい時ほど冷静に、頭を使うのです』


半ば走馬灯のようなものだったが、それのおかげで堅護は九死に一生を得た。

もしこの言葉を思い出さなかったら、彼は水中でもがいてそのまま沈み死んでしまったかもしれない。

だが、そうはならなかった。


彼はいくらもがいても沈むのは確定事項だと見るや抵抗を止める。

そして息を止めたまま水中に入りその中で服を脱ぎさったのだ。


彼には着衣水泳は難しくとも、ふつうに泳ぐだけならできたのだ。

水中でパンイチになった堅護が顔を上げた時、それまで無抵抗に流されていたため栞がいる場所とは少しずれた場所にいた。


彼はとりあえず這いずるように陸に上がった。

そして栞に近づいたときに気づいてしまった。



(あ、もしかしてこれ、こっちに気づいてない?)


そして確保した、というわけだ。




ちなみに、現在の状況は半裸でびしょ濡れの男性が女性の両手を抑えて押し倒している状況だ。


側から見たら通報待った無しである。

しかし幸いなことに人は通らなかった。


「け、堅護君? 死んだはずじゃ?」


「生きているので、そして捕まえたので俺の勝ちってことでいいですか?」


「よかったぁ……生きてて。もうなんでもいいよ、生きててくれたんだからそんな勝負のことなんて!」


「ふう、よかった。これで俺は、栞さんを、諦めない……で、」


堅護の体は限界を迎えて倒れこんだ。


栞、下敷きになる。



「えっ、ちょっと、堅護君!!?」


びしょ濡れパンイチ男にのしかかられた栞はなにがなにやらわからずに混乱しながらも、堅護の介抱をしてあげた。
























「う、ん……? えっと、ここは?」


次に堅護が目覚めたのは栞の部屋のベッドの上だった。


「私の部屋、堅護君あの後気絶しちゃったから、迎えに来た凛ねぇに運んでもらったの」


「そうだった。確か俺……あれ? 服、着てる」


「女物でごめんね。一応、あんまり違和感のなさそうな服にしたんだけどね。あ、勘違いしないでよね。私が自分の服を着て欲しかったんじゃなくって濡れてたから体が冷えたらいけないと思って仕方なく、だからね」


栞は赤面しながら堅護から目をそらした。

実は初め、凛が父のクローゼットから何着かかっぱらってこようかと栞に提案したのだが、栞はそれを突っぱねて自分の服を着せたのだ。


理由は特にない。


単に栞がそうしたかったからなのだ。


濡れた下着を脱がしてズボンを穿かせたのも栞自らやった。

そんなこともあって堅護は今、借り物の女性服を着てノーパンである。

そのことに気づくより先に勝負のことが頭に浮かんだのは不幸中の幸いだろう。


「それで、俺が勝ったってことはーーーー」


「うん、ちょっとだけ、待っててあげる。君が諦めるっていうまで、私にくる縁談はなんとかして破棄し続けてあげる」


「………ふぅ、よかった、のか?」


「君が望んだんじゃないの?」


「いや、俺のせいで栞さんが婚期を逃したりとか……いや、俺が早く登り詰めればいいだけか。そうですね。よかった」


堅護が小さく微笑む。それ以上会話が続かず、部屋の中を少しの間沈黙が支配した。






そして、その沈黙はしばしして破られる。

破ったのは栞だった。




「………心地よかったんだよ」


「え?」

ポツリとこぼした言葉に、呆けた声で返す堅護。





「君と一緒に、一緒のことを考えて、隣で戦ってて」


「えっと?」

栞の声は少しだけ、震えていた。





「このままずっと一緒にいたら、君のことを好きになっちゃうって思ったの。そしたら、怖くなってきたの」


「………」

堅護は口を挟まなかった。本音を語ってくれる栞の言葉を聞き逃さないようにと努めた。





「私は凛ねぇみたいに優秀じゃないから、きっとお父さんが決めた、どこか知らない人のところに嫁がされる。そうなると、好きになった分だけ辛くなる。そう思って、逃げたんだよ」





「諦めろって言い続けている心の中では、諦めてくれれば、自分もきっぱり忘れされるのにって願っていたの」






「本当はさ、君が初めて私のことを好きって言ってくれた時、嬉しかったんだ。まっすぐな好意はとても気持ちよかったんだ。でも、その分悲しかった。ほんの少しだけ、君と一緒がいいって思った自分がいたから、それが叶わないのを知っていたから………」





「だから逃げた。君と顔を合わせないように、君と声を交わさないように、君の意識から消えるように、君を意識から消せるように………だけど、ダメだったね」




「あーあ、逃げるのは得意だったはずなんだけどな。君の気持ちから逃げ切れなかったよ。ふふっ」




「ねぇ、堅護君」
















「信じて、待ってていいんだよね?」


















「任せてください。絶対に俺はあなたにふさわしい人間になってみせます。その第一歩として、あの創華姉ちゃんに一泡吹かせてやりたいので、手を貸してくれますか?」


「うん、任せて。最後の時まで一緒に戦おう!」




今日ここに、永遠に続く誓いが立てられた。







次回から決戦終了まではゲームだけで処理しますよー



Q、決戦終わった後後日談的なことをするの?

A、決戦後はエピローグとして彼らの周りがどう納まったのか、という話を数話やってその流れが最終回になる予定です。


Q、10秒先が見えるって、凛さんすごい!

A、凛さんはあらゆる情報を並列で処理できる頭脳と抜群の視力を標準搭載されています。そうして処理した情報を高精度の予測として出力し続けている、という感じです。

足音とか、方角とか、今までの行動とかも当然その情報の一部として処理され利用されています。

的中率は高いですが、100%ではないので過信は禁物!


Q、初コメです


川ドボンとかしない...ですよね?(最悪の予想がまず出るの考えると歪んでるなぁ......。)


更新お疲れ様です


A、コメントありがとうございます。


えっ、なんでバレたの?

ちなみにあの橋の下は栞さんが逃げる時によくつかうスポットの1つという設定があったりなかったり。




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