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諦めないと決めた男


堅護が運営するギルド『征華団』がギルド『敵の箱舟』に宣戦布告してから、早くも二週間が経過した。

堅護はMOH内のキャラクターであるガトとしてこの二週間、メーフラ討伐計画における必要アイテムをギルドメンバーの力を借りて集めていた。


その進捗は順調そのものだろう。

もう最低限必要と考えたアイテムの七割が揃っており、準備期間はまだ一週間と少しある。

このペースでいけば間に合うだろうと予測された。

しかしそんな順調な準備の横で焦っている人物が1人。



「………ヤベェ、フセンさんがログインしてこない」


その人物とは他の誰でもない堅護であった。

堅護が栞と2人で買い物をしてから今までの間、フセンは一度もMOHの世界には姿を現さなかったのだ。

それの証明と言わんばかりにガトのフレンドリストの中にあるフセンの文字は今はオフラインを示す灰色で、その横に書いてある最終ログイン時間が2週間前となっていた。



焦りを紛らわすようにコンソールを操作しながらログインしてこないフセンに対してどうしようかと思考を巡らせるガト。


(確か姉ちゃんの立てた当初の計画としては大きな壁を俺と栞さんで一緒に乗り越えることによって絆を深めて、それを一気に恋愛にするーーー的な何かだったはずだ。


でも、この前のアレでそれは必要なくなった。今、俺が姉ちゃんを倒そうとしているのは単なる自己満足に近い何かだ。そこに意味はない。


それなら栞さんがいなければいけない意味はないんだけど………いかんせん、うちのギルドの最大火力が抜けると勝ち目がかなり薄くなる。

それに、せっかくここまで2人でやってきたんだ。最後の戦いには絶対に参加してもらいたい……)



思考を巡らすガトはどうにかしてフセンをこの世界に引っ張ってこれないかと考える。

しかし悲しいことにガトは頭の回転が悪いわけではないが、特段良くもない、平凡な男だった。


どこかの骸骨のように一瞬でこれという策が生まれてくるはずもなく、ただただ時間を無駄にしているのが現状だった。


長考の末、それに気づいたガトは考えるより先に行動に移すことにした。

今の自分は、まっすぐ進んだ方が強いのだと知っていたから。















そうして戻ってきた現実世界。

堅護は戻ってきてすぐにベッドの枕元で充電器に刺さっている携帯を手にとって電話をかけた。



Prrrrr,

Prrrrr

Prrr……『こちら凛だ。弟君だな? 何か相談事か?』


かけた先は栞の姉の凛の携帯だ。

創華から『凛さんはワンコール前に電話をとる』と聞いていた堅護はワンコールが終わっても応答がないことからもしかして不在かも、と思っていたが、応答がありそれが間違った考えだったと知った。


要件を言うように促された彼は言葉を飾ることなく、少し恥ずかしい気持ちを抑えながら凛に頼みごとをする。


「栞さんと話がしたいのですが、どうすればいいですか?」


『む? 妹の携帯の電話番号は知っているだろう? そこにかければいいのではないか?』


「2度ほどやって失敗に終わりました」


『なるほど、では私はこのままの状態で栞に携帯を渡してくるとしよう』


「ありがとうございます。お礼は今度姉ちゃんに持たせて贈ります」


『ほ、ほぅ……栞、いるか?』

『…ぁ………ぃ…?』


堅護の耳には電話の先からの栞の声がかすかにだが聞こえた。

しかし平凡な耳を持つ堅護には何を言っているのかは聞き取れなかった。


少しして、堅護の耳に先ほどまで話していたものとは別の声が聞こえてくる。


『お電話変わりました。私に用事ということでしたがどなたでしょうか?』

それは、今までにないほど他人行儀な栞の声だった。

いつも快活でフレンドリーに接してくれていた栞からこのような態度で話されて堅護は少しショックを受けた。

しかしこれは仕方のないことだった。


すでに2度、電話での接触を試みて失敗しているという話を聞いた凛は誰からの電話と正直に言ってしまっては受け取らないだろうと思い、気を利かせてくれた結果なのだ。



「えっと、栞さん……俺だけど………」

『………凛ねぇ、これどういうこと?』

『何、弟君が話したがっていたからな。何か言いたいことでもあるんじゃないのか?』

『………プッーーーー』



電話は一方的に切られた。

会話をする隙すらなかった。


しかし程なくして堅護の手の中の携帯が鳴り響いた。

彼がそれに応答する。


『すまない。力になれなかったみたいだ』


「いえ、こちらこそ無理を言ってすみません。やっぱり直接会って話した方がよさそうですね。今からそちらに行ってみます」


『そのことだが弟君、残念な知らせだ。栞が怒って家から出て行った』


「えっ、、」


『多分君がくるというのを予想した結果だろうな。電話を切ってすぐに最低限のものだけ持って行ってしまったよ』


「ちなみに行き先はわかりますか?」


『聞いていないが………ふむ、少し待て』


凛はそう言って電話を一度切った。堅護は言われた通りその場から動かずに待った。

数分後、再び電話がかかってくる。


『私だ。今、そちらに地図データを送っておいたからそれを参考にするといい。あと、創華様による配達、期待しているぞ』


凛はそれだけいうとすぐに電話を切った。

堅護がメールを開いてみるとそこには凛から届いたものと思われる件名が書かれていないメールが1件届いていた。

その中を確認してみるとそこには宣言通り地図データが入っていた。


25000分の1スケールの漣家を中心とした地図だった。

その中には赤い線で丸が書かれていて、メモ書きのように

『この範囲内にいると予測される』

と書かれていた。



その円は当たりをつけたにしては小さすぎる、ほぼピンポイントの情報だった。


地図上では大きな川に沿う道の一部分にだけ丸が書かれており、メモ書きの続きに『橋の下が怪しい』と書かれていた。



別に凛はそこに栞が行くと聞いたわけではない。完全なる予想に過ぎない。


ただし、漣 凛という人間の予想を軽視することは彼女という人間を知っているほどできない。

創華曰く

『凛さんは常に10秒程度は先が見えているのだと思います。だから私でも捕まえるのは苦労するのですよ』


凛という人間が人外とも言われる神級のくくりに堂々と君臨しているのはその先読み能力の高さゆえだ。

彼女の前ではあらゆるブラフは通用せず、あらゆる揺らぎであっても読み切られる。


そんな凛が自信を持ってそこだと指定したなら、きっとそこに栞はいるのだ。


堅護はそこまで理解していたわけではないが、協力的な凛がそこを示したならそこに少なくとも手がかりくらいはあるかもしれないと思いすぐに家を飛び出した。




移動は徒歩で駅まで、そこから電車で移動してそこからまた徒歩だ。

全速力で駅まで走り、電車の中で呼吸を整えてまた、全速力で川まで走った。

走りながらこまめに地図をみて自分が今どこを走っているのかを確認する堅護。


家を出て約20分程度で地図上の赤い丸の場所にたどり着いた彼はそこで周りを見渡した。

残念なことに栞の姿はなかった。

彼の目の前に広がっていたのは30m先の向こう岸と、それと自分が挟む広大な川、そして向こう岸に渡るための橋くらいだった。

視界を遮るものは何もない。ここはハズレか、そう思った堅護だったが、メモの内容を思い出した。


「えっと、確か橋の下だっけ……?」


彼のいる場所から、向こう岸の橋の下がかろうじて確認できた。


なにかがあるようには見えない。


それなら、こちら側の下なのか?


そう考えてすぐに確認に向かった堅護。


そこにはーーーーーーーーーーー















誰もいなかった。





「誰も、いない……? 」






凛の予想が外れた?

そういうこともあるだろう。それはあくまで予想なのだから。

そう思った堅護は次にどこを探せばいいかを聞こうとしてポケットから携帯電話を取り出そうとした。









「っつーーーーー!!?」



その時だった。


目の前の光景が信じられずに驚き、それを声に出さないように噛み殺した。

そんな感じの息を一気に吸う音が堅護の後ろから聞こえてきた。


堅護はビクッとしながら素早く後ろを振り返る。




「あっ………」



そこには栞がいた。


信じられない、と行った顔をしながら、気づかれないようにと口に手を当てたままの姿で。


「け、堅護君? どうしてここに………?」


見つかってしまったからもう隠す必要もないと思ったのかその疑問を栞は吐き出した。


「栞さんに言いたいこと、話したいことがあって」

堅護はその疑問をまっすぐ受け止め、一番適しているだろう答えを口にする。

栞はまだ混乱が抜けきっていないらしく、周りにキョロキョロと視線をやっていた。



「少しだけ、話を聞いてくれますか?」


「………なにかな?」


「凛さんから聞きました。漣家のこと、少しだけ」


「そう。なら私のことはもう諦めるってことでいいの?」


「いいえ、諦めません。むしろ逆のことを伝えにきました。宣戦布告というやつです」


「どういうこと?」


「俺は漣家の人間に、栞さんにふさわしい人間になってみせます。だからっ、その時はーーーー」

「やめたほうがいいよ」

「ーーーっ!?」

「だって、そのほうが楽で、みんな幸せになるよ。きっと」


「そんなことあるわけ……」


「ないって言い切れる? 私が嫁ぐことになるところが悪いところとは限らない。むしろいいところの方があり得ると思う。いいところに嫁げれば、きっと私は幸せ。そして君は他に好きな子を作ってその子と結婚できれば幸せになれる。わざわざ無理なことをしようとして苦しまなくても、そうすればいいんだよ」


「………」


「ほら、陽ちゃんとかどう? きっとあの子、尽くしてくれるタイプだよ。結構君に好印象みたいだしさ、あの子を今のうちに捕まえておいたらきっと幸せだよ」


「………」


「………」


「あ、それだけですか?」


「え?」


「俺は諦めません。壁がどれだけ高くても、力を緩めなければ、登り続ければいつか向こう側の景色を見せてくれるはず。俺はそれを信じて努力を続けます」


「きっとどこかで辛くなって止めるに決まってる」


「絶対に、と無責任なことは言わない。でも挑戦だけはする。栞さんが漣家の事情で難しい存在、というのなら俺は高嶺家のしつこさでそこにたどり着いてみせる」


「信じられないよ」


「信じなくていいけど、待ってて欲しい」


堅護の信念はどれだけ口での攻撃を喰らおうとももはや揺るぐものではなくなっていた。

好きな女性を自分のものにするために、という私欲丸出しの、信念というよりは執念のようなものだが、それでも彼の心はただまっすぐだった。


それを真正面で受け止めた栞は何を言ってもダメだなと感じた。


しかし、自分の家を考えると目の前の男には諦めてもらった方がいい。

栞は自分が堅護のことをどう思っているどうこうはどうでもよくて、早く諦めて欲しかった。


その方が、最終的なダメージは少ないだろうから。




「堅護君」


「はい」


「1つ、勝負をしない? 私が勝ったら金輪際私のことを諦めて」


「………俺が勝ったら?」


「君が勝ったら……好きにするといいよ」


「ありがとうござます」


「もう勝った気でいるの? じゃあ勝負内容を言うね。勝負の内容、それはーーーーーーーーーー」



引き伸ばされたそれに堅護がゴクリと唾を飲み込む。
















「鬼ごっこだよ」














うまくまとまらない………


Q、レーナちゃんの将来は薬剤師?

A、果たして薬を作ろうとして劇毒を作る薬剤師はいてもいいのだろうか……


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