ダブルデート?
思っていたより栞ちゃんがうちの弟に堕とされない。
私の当初の予定ではこのくらいにはもう手を繋いで街中を歩きに出かけているくらいのはずなのだが、何を間違えたのかその気配すら感じられない現状はよろしくない。
このままではカップル最大のイベント、クリスマスをスルーすることになってしまう。
今はまだ10月上旬、クリスマスまではいくらか時間があるが、だからといってモタモタしてしまってはすぐに時間がなくなってしまう。
そのことに少しだけ焦った私、高嶺 創華は恋のキューピットとして一肌脱ぐことにした。
そうと決めた私は陽さんが私の家を訪ねてきた次の土曜日、ある人の予定を押さえるために電話をかける。
ぷrーーーがちゃ……
早いよ……
ワンコールより先に応答があった。
『こちら凛。そちら創華様?』
「はい、こちら創華です。凛さん、突然なんですが今週の土曜日、空いていますか?」
『今空けたから空いているぞ。何か用事でもあるのか?』
ん? ちょっと今の返答に違和感があったけど、予定は空いているってことでいいんだよね?
「ちょっとデートをさせたいなと思いまして」
『ぬおおおおおおお!! デートだな! わかった! エスコートは任せておけ!!』
「あ、ちょっと凛さん? 何か勘違いをされていません?」
ーーーーーープツン
つーつーつー
……なんだろう。何か誤解をしたまま電話を切られたような気がする。
凛さんの私に対して向けている感情はまぁ、それなりに知っている。だからこそ、その勘違いがどこかおかしな方向に行かなければいいのだがと考えながら私はテーブルの上に用済みになった携帯電話を置いた。
そうこうしているうちに堅護が夕食を食べに二階から降りてくる。
ちょうどいいので彼の予定もしっかり押さえておく。
「姉ちゃん、今日のご飯は何?」
「今日はブリの照り焼きと肉じゃが、それと味噌汁にサラダですが……そんなことより堅護、あなた土曜日暇ですよね?」
「土曜日? いつも通り栞さんと姉ちゃん対策アイテム収集をやるつもりだけど……」
「土曜日、お姉ちゃんたちとお買い物に行きましょう」
「え、なんで俺も? 何を買いに行くの?」
「何を買いに行くかは今から決めますが、あなたは強制参加です。お姉ちゃん権限で弟は逆らえません」
「えー、栞さんとゲームしてたいんだけど…」
「ちなみに栞ちゃんも強制参加です。あちらも無理矢理にでも参加させます」
私の立てた作戦はいたってシンプル。
みんなで買い物に行きましょうという名目で集まる。
初めは4人である程度散策した後に私と凛さんが自然な形で離脱、あとは残った2人でデートして満足したら家に帰ってきてねってものだ。
そのサポート役として一番身近な凛さんを起用。
正直電話した後にひっじょうに不安になったが、きっとうまくやってくれるだろう。
そんな計画を立てて3日後には作戦決行となった。
あの後、凛さんには作戦の詳細を改めて伝えた。
微妙に残念そうな声が携帯を通じて聞こえてきたのが印象的だった。
しかし何かに気づいたようにすぐに立ち直っていた。
そして作戦決行当日、私は一足先に待ち合わせ場所に行こうと思い一時間前に着くように家を出た。
しかし待ち合わせ場所、ショッピングモールの前にはもうすでに凛さんが待機していた。
「えっと、お待たせしました?」
「いいや、今来たところだ。それにしてもさすがは創華様だ。何もいっていないのに私の意図を汲んでこの時間に来てくれるとは。じゃあさっそく行こうじゃないか」
「え? いくってどこへですか?」
「決まっている。ホテルーーーーは最後にとっておくとして手始めに映画でも見に行こう」
「でもまだ残りの2人は来ていませんよ?」
「ふっ、最終的に栞たちは2人になるのだろう? 初めからそうであっても問題はあるまい。というわけで創華様、行こう」
凛さんは私の手を取って少し強引に引っ張って歩き始めた。
抵抗することは簡単だったが、凛さんのいうことも一理あると思い私はカバンの中から携帯を取り出して堅護と栞ちゃんにメールを送る。
堅護には
件名:予定変更
本文:お姉ちゃんはサポートできなくなったので栞ちゃんと2人っきりでのお買い物デートを楽しんできてください。それと、買っておいてほしいもののリストです↓↓↓
そしてしおりちゃんには
件名:予定変更
本文:凛さんが暴走しました。彼女は私が鎮めておくので堅護のことをよろしくお願いします。
手を出してもいいですがちゃんと合意を得てからにしてくださいね♡
と送っておいた。
一応利き手で有る右手は凛さんにがっちりホールドされているから左手で入力と送信を済ませる。
そのためか少しだけ時間がかかってしまい、入力を終えた時にはもう待ち合わせ場所はとっくに見えなくなっていて、気づいたらバスに乗せられていた。
凛さんと私は後方の座席に座って目的地に着くのを待った。
そしてやってきた映画館。
堅護たちがどうなるのかを不安に思いながらも普段はこういった場所に来ないのでとっても新鮮な気分になった。
「ふむ……上映まで後15分くらいか、ちょうどいい時間だな。創華様、チケットは買ってきておいたからこれを使ってくれ」
凛さんはいつのまにか買ってきたそれを私に手渡してくれた。
なんの映画を見るかという質問をする時間すらなかった。こちらには選ぶ権利はないらしい。
私は手元のチケットを見る。
そこには私たちが見る予定の映画のタイトルが書かれていた。
『同性愛物語〜百合編〜』
………私、絶句。
何に、と言われると色々あって絞れないがまずはじめになにを思って凛さんがこれを選んだのかを問いたい。
そして百合編ってことはシリーズ物?
同性愛の話を映画にするだけじゃ飽き足らずに何本も出すつもりなの?
でもよくよく考えてみたら女×女と男×男しか作れないから二作品で全部終わるのかな?
いや、全部見るつもりはないけど。
「む、創華様どうかしたのか? 後ポップコーンはキャラメルでよかったんだよな?」
私の一瞬の沈黙の隙をついて凛さんがポップコーンとジュースの買い物を済ませて戻ってきていた。
本当に目を離したら何かをやっている人だ。
凛さんが私用に買ってきた飲み物はアセロラジュースだった。
割と好きな方だ。それに甘いものは好きなのでポップコーンがキャラメルなのも問題はない。
凛さんは私がいっぱい食べるだろうと一番大きなサイズで買ってきてくれた。
そのくらいならペロリと食べきるだろうからその判断は正解だ。
そしてわたし達はチケットの提示をして私たちが見る映画が上映される6番シアターに入る。
朝一番だからか他の席はそこそこ空いていた。
いや、逆だ。
朝一番でも半分くらいは席が埋まっていた。
そんなに人気があるのこの映画?
少しだけ不安を抱きながらも私は指定されていた席にたどり着き腰を下ろした。
◆
姉ちゃんが凛さんにさらわれてしまった。
本来なら4人で買い物に行くはずだったのだけど栞さんと2人で行くことになった。
一応確認のために栞さんにそれでいいのかとメールを送ってみたけど、いいらしい。
あちらにも姉ちゃんから連絡が行っていたみたいだ。
どうにもこうなった原因は凛さんにあったみたいで、栞さんは逆に謝ってきた。
「ごめんね」と言う彼女の声を聞いて逆にこちらが申し訳なくなった。
だって姉ちゃんがこの展開を誘発させた可能性すらあるのだから。
そうでなくてもどこか途中で抜け出して俺と栞さんを2人っきりにしてくれるつもりだったのかもしれない。
姉ちゃんは優しい、そして素直だ。
やると決めたらやる人だし、そのために全力を出せる人だ。
きっとはじめから俺と栞さんを2人にしてお出かけをさせるつもりだったのだろう。
俺はそう目星をつけた。根拠はさっき届いたメールだ。
買い物リストをわざわざ送ってくるくらい余裕があるのだ。自らの足でどこかに行った可能性がある。
それに、姉ちゃんを無理矢理どうこうできる人がいるとは思えない。
弟の俺がいうのもなんだけど姉ちゃんは最強なんだ。
凛さんもかなり強いけど、彼女の専門は弓だ。
剣を極めてその過程で体術を極めた姉ちゃんを無理に連れされるとは思えない。
というわけで俺は自分のことだけを考えていればいい。
俺は気合を入れて家を出た。
今からでても待ち合わせの時間には少しだけ早い時間につくことになるが、逆に栞さんが早めにきていた場合待たせることになる。
俺は迷わず家を出た。
待ち合わせ場所にはまだ栞さんはきていなかった。
まだ待ち合わせの時間には20分もあるから仕方がないことだ。俺は慌てずに近くのベンチに腰をかけて待つことにした。
それから20分きっかり立ったところで栞さんが姿を現した。
待ち合わせ時間にぴったり現れた彼女は俺をみて
「早いね」
と笑った。
それから俺たちはもうすでに開いているショッピングモールの中に2人で入った。
俺は姉ちゃんからもらった買うものリストを紙に書き写したものを確認しながら歩く。
そのリストの中の大半のものが女性用のものだった。
そうでないものは夕飯の食材とかくらいだ。
「あの、栞さん、これってーーーー」
俺は恥を忍んでそれらの女性用商品のことについて聞いた。
買い物を放棄するわけにもいかないし、きっとここから会話の機会をつかめという姉の気遣いだろうと思ったから。
でも姉ちゃん、流石に下着とかを書くのはやめてくれな。
冗談のつもりで書いたのかもしれないけど、栞さん、微妙な顔をしてたから。
「はあぁぁぁ……なんか、すんごい疲れた……」
「堅護くんおつかれ様、私もなんか疲れちゃったよ。創華ちゃんったら弟にこんなものまで買わせるなんて……」
「本当に、うちの姉が申し訳ありません」
「堅護くんは悪くないから謝っちゃダメだよ。創華ちゃんには私が後でガツンと言っておくから」
「助かります……」
買い物リストのうち食材などの腐るものを除いたものを買い終わった時に時間を確認したら11時28分だった。
そろそろ昼ごはんの時間だ。
もはや役に立たなくなった今日の元々の予定としてはこのショッピングモール内にある食事処でみんなで食べる予定だった。
だから俺たちはここで食事を済ませることにした。
各々好きなものを買って食べる。
栞さんは石焼ビビンバを、俺はうどんを食べた。
それから後回しにしていた食材を買いに行く。
その途中で栞さんが
「荷物少し持つよ」
と言ってくれた。今日買ったものは全部俺が持ち運んでいた。
その中にはかさばるものもあり、傍目から見たらそれなりに重そうに見えるだろう。
だけど栞さんにものを持たせるわけにはいかないし、俺はその申し出を断った。
持てない重さではなかったしな。
「それにしても堅護くんも大変だよね」
「何がですか?」
「この感じだと創華ちゃんにいつも振り回されてるんでしょ?」
「あはは、、確かにそういうこともたまにあるけど、でも大変とは思ったことはないですよ。そうやっていろんなことを言われるときはありがたいって思ってます」
「そうなの?」
「うん、だっていつも姉ちゃんに助けられてばっかりだから、たまにこういうことで恩返し出来るから……ね」
「ふーん……」
たまにこうやって会話をしながら俺たちは食材を買い物かごに入れていく。
そしてそれらをレジに通して、姉ちゃんから預かっていたエコバッグにそれらを入れて例のごとく俺が持つ。
野菜とかが入ったそれはずっしりと腕に負担をかけるが、持ち続けられないほどではなかった。
俺たちはそのまま何をするでもなくショッピングモールの外に出た。
俺は自分たちの関係に何も進展のないことを少し残念に思いながらも、焦ってことを仕損じてはいけないと思いガツガツいかずに今日はそのまま帰ろうと思っていた。
「じゃあ、今日はありがとうございました。俺じゃ買えないもいのとかもあったので助かりました」
「うん、そうだね。創華ちゃんには女性物の下着は男の子に買うのは難しいってことを教えておいてあげないとね」
「ははっ…そうですね。じゃあ、俺はこれで、このお礼はまた今度何かの形で……」
「…………」
「栞さん?」
もう今日は解散をしようという会話をしているとき、栞さんはこちらをずっと見ていた。
何を考えているのか、それが気になったがいくら考えても出てこない。
そして急に黙り込んでしまった栞さんに俺は少し不安になる。
何か気に障ることでもしたのだろうか?
俺は自分の行動と発言を思い出してみる。しかし答えは出ない。
そうこうしていると向こうから話しかけてきた。
「ねぇ、堅護くん……」
「はい」
「君は…………私のことが好きなの?」
栞さんの口から飛び出てきたのは俺の予想だにしていない言葉で、俺の動きはピタリと止まってしまった。
そろそろこの作品が堅護くんと栞ちゃんの恋愛話が始まりの要素の一つだということを思い出そう
Q、タイトルに近接最強と言われているけど、中距離でも無双しているような
A、そもそもの技量レベルが違いすぎるからね。ある程度の不利はゴリ押しでなんとかしているんだよ
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