私、BOSSエネミーになります。
「朝はパン、パンパパン♪」
どこかで聞いたフレーズを口ずさみながら私はトースターに食パンを突っ込んでつまみを回す。
トースターが食パンを焼いている間に私はやかんに水を入れてお湯を沸かし始める。
そして今度は戸棚を開けてその上段に配置してあるココアパウダーの入った袋を取り出してキッチンの上にあらかじめ置いてあった2つのマグカップにスプーンで粉を入れる。
そして冷蔵庫の中からジャムとマーガリン、それと卵を取り出した。
ジャムとマーガリンは一旦放置で私は卵を割って深皿に入れてといた。
そして塩、醤油、あと砂糖を通常より少し多めに入れてから熱したフライパンの上に乗せる。
ここからはスピード勝負だ。
私はフライ返しを使いフライパンに接している部分の卵が固まると同時に素早く奥の方に押しやって巻いた――――直後にフライパンの空いたスペースに卵を追加。
この部分も固まったら先にまとめて置いた部分を包むように巻いていく。
それを数度繰り返すと少し大きめの卵焼きが完成した。
ちなみにだが、砂糖を多めに入れているのは弟の堅護が甘めの卵焼きが好きだからだ。
じーーーーーーチン!!
「パンが焼きあがりましたね。堅護〜、朝ですよ〜」
私は上向きに大きな声を上げた。
多分だが今日はこれでは起きてこないだろうなとなんとなく予想は立てておいた。
私は焼きあがった食パンと卵焼きをそれぞれ大きめの皿に乗せる。
片方には苺ジャムを、そしてもう片方にはマーガリンを塗りたくってテーブルの上に配置した。
お湯も沸いたみたいだ。
私は2つのマグカップにお湯を注ぎ大きめのスプーンで中をかき混ぜた。
「これでよしっと、、あとは堅護が起きてくるのを待つだけですが、あの子やっぱり夜更かししちゃいましたね。まだグースカ眠っているみたいですし、直接起こしてあげましょう」
私は二階へ上がって弟の部屋に向かう。私たち部屋は鍵がついているタイプのドアではあるが、堅護はそこら辺適当なので大体鍵がかかっていない。
私は数度ノックをして呼びかける。
「堅護〜、ご飯できてますよ〜。起きてくださーい。むぅ、起きませんか。では仕方ありません」
部屋に突入だ。
私は扉を開き部屋に入った。堅護は予想通り熟睡している。
少しだけ整理されつつも普段よく使う登校用のリュックや教科書で散らかっている部屋を進み、私は眠っている弟の耳元に口を寄せる。
そして――――ふぅ〜〜
「ひゃっ!!」
「起きましたか。朝ですよ堅護。お姉ちゃん夜更かしはしないようにって言いませんでしたか?」
「うっ、姉ちゃん。ごめん」
「素直に謝ったから許してあげます。でも、できるだけ早く寝てくださいね?」
「はい……」
堅護は音には強いけど耳が弱いので軽い刺激を直接与えるとびくってして簡単に起きる。
寝覚めは悪くない方なので起きてすぐに会話ができる。
「さて、ご飯はもう用意できていますよ。早速食べちゃいましょう。そしたら今日は日曜日ですし二度寝くらいは許してあげますから」
「うん、今いく」
堅護は私の後について階段を降りてきた。
テーブルの上には先ほど用意した朝食が並んでいる。
トーストに卵焼き、それにココアだけの質素なものだ。
ジャム付きのトーストは堅護、マーガリン付きのトーストは私のだ。
「「いただきます。」」
私は朝のニュースをつけてそれを見ながらトーストを口に運ぶ。
朝のニュースは驚くような話はあったが、見方を変えればいつも通りだなという内容しか報道していなかった。
「そういえば栞ちゃんとはどうでした?」
「あ、昨日は2人で一緒に夜中までやってたよ。栞さん、想像以上にあのゲームにハマったらしくてさ」
「それは良かったです。栞ちゃんはいろんなことを全力で楽しむ人ですからね。でも、夜更かしはいけませんね。今日のランニングがてら言いに行きましょうかね」
「それはやめたほうがいいんじゃないかな? 朝っぱらから行って向こうも迷惑だろうしそもそも一緒に夜更かししてたから栞さんも眠いだろうし」
「それもそうですね。明日学校で言いましょう」
「それより姉ちゃんの方は結局大丈夫だった?」
「人形狩りのことですか?」
「うん。」
「それなら大丈夫でしたよ。あの後あそこでは人形狩り狩りくんが現れてPKの方たちは街に強制送還されましたからね」
「えっ、なにそれこわい」
そのガリガリくんが誰なのかは言わずともわかるだろう。
あれからPKKをやってステータスが上がったのか途中から一方的に攻撃してただけだったしね。
えっ? 初めからそんな感じだったって?
それもそっか。
あ、そういえば人形狩りの人といえば1人だけ突出して強い人がいた。
『THE・剣豪』式敵の強さ判別法で言えば剣聖級の人がいたよ。
・・・・まぁ、ゲーム開始直後の片手片足ならともかくそれなりに時間が経って四肢を取り戻し武器もある状態だったから一瞬で勝負がついたけど。
人形狩りの人たちが「人形の腕」や「人形の足」を持っていたのが運の尽きだね。
まぁ、あれは人形さんを倒した時のドロップ品らしいからそもそもそんなことしなければ私と戦うことすらなかったわけで……いやぁ、世界って難しいね。
食事も終わり食器をパパッと洗い終えた私は鍵をとってポケットに入れた。
「じゃあお姉ちゃんランニングに行ってきますね」
「うん。行ってらっしゃい」
私は家を出た。
今の時刻は6:20。ここから1時間ほどここら辺を走って帰ってくるのが私の日課だ。
走る理由? 体力をつけるため、健康に気をつけるため、脂肪をつけないようにするため、色々あるよ。
女の子は遅かれ早かれこういったことに手を出すのだ。
まぁ、始めた理由は『THE・剣豪』で自分の運動能力の低さを実感したからっていうあんまり女の子らしくない理由だけど。
さて、1時間のランニングから帰ってまいりましたよ。ここからはお洗濯の時間です。
といっても前日に洗濯カゴに入れられたものを適当に仕分けして洗濯ネットに入れたりして洗濯機を回すだけなんだけどね。
「え〜っと、洗濯機が止まるまで待って洗濯物を干したら朝やることは終わりですね。これが終わったら昨日の成果の確認も兼ねてログインしますか。そろそろ新しい街につきたいですし」
私は洗濯機が役目を終えるまでテレビを見て時間を過ごした。
テレビの特集のようなもので昨日私が始めた『Monster or. Humans』のことを取り上げていた。
私もいちプレイヤーとしてその特集を見ていた。
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ふむふむ、特集の内容はゲームの特徴と魔物の姿になることについて問題があるのではないか?という記者の質問に対してきっぱりと斬って捨てる開発のセリフだった。
そんな番組を見ていると洗濯機の稼働音が聞こえなくなる。
どうやら終わったみたい。じゃあこれをチャチャっと干してインするとしますかね。
そうして戻ってきました人形の森 (仮名)
今日は昨日大量に倒した人からの戦利品その他諸々の整理を始めにしよう。
えっとまずはアイテムドロップから。
これはゲーム開始直後はみんな持っているものが大体同じだということから結構偏りが出ていた。
まず一番多く手に入ったのは青銅武具。
人族側の初期装備的な位置どりにいるのが青銅具らしい。
いっぱい手に入ってそれでいてインベントリの枠を1つずつ取っていくから途中から優先して捨てていた。
インベントリは36枠しかないからね。
これを狭いととるか広いととるかは人次第〜というか種族次第な気がする。
私みたいな回復アイテムを持ち歩かなくていい人は結構広いと感じるかもしれないし、逆もまたあるだろう。
そして次に多く手に入ったのは人形の部位シリーズ。
これは私たち専用の回復アイテムになるからかなり使えるうえにスタックできるタイプのアイテムなんだけど……正直言ってこれがいっぱい手に入るのはかなり複雑だ。
次に多いのが回復アイテム類。ただこれは私には意味がないアイテムなのでスルー。
そして森の魔物の素材。
魔物は人形狩りのついでに狩り尽くされている感じがあり私が遭遇できたのは人形狩りの人の十分の一にも満たなかった。
後、これは戦闘関係ないけど木の棒を一本採取してインベントリに入れておいた。
初めて手に入れて耐久がなくなるまで使った武器だ。なんとなく新しいのを見つけて気になったので拾っておいた。
ちなみにアイテム詳細はこうだった。
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素材 木の棒 (未鑑定)
ただの木の棒と侮るなかれ。こんなものでも殴られれば痛いし打ち所が悪ければ死ぬ。
とあるものを作る際に重宝されているとされている木材
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初めに私に倒された人は打ち所が悪かったんですね。
というか、素材で殴られて死ぬのはかなり不名誉な気がする。
ってか今気づいたけど素材でも叩きつければダメージを与えられるんだね。結構自由度の高いゲームだなぁ。
「さて、ある意味一番のメインイベントはステータスの方ですよね。結構な数の人を切りましたが、いったいどうなっていることやら」
私はUIからステータスを開く。
そして自分のステータスが今どうなっているのかを確認した。
――――――――――――――――
PN:メーフラ
種族 錆つき壊れた人形Type Ancient
裁縫士
LV 25 (進化可能)
HP 2354
MP 220
STR 41
VIT 40
INT 33
MND 50
DEX 64
AGI 41
LUK 22
SP ー
――――――――――――――――
ふ〜ん、LV25かぁ。25、、、25、、、あれ? かなり強くなってる?
というか進化可能ってなに?
こういう時はヘルプさんの出番だね。ヘルプさーん、進化ってなんですか。
『進化とは。魔族が一定以上のレベルに到達した時に可能な種族の上位化のことです。進化先は確実に存在するものと特定の条件を達成しないと選択できないものが存在します。プレイスタイルにあった進化先を選ぶようにしましょう。また、進化後はステータス上のレベルが1になります。』
なるほど。文字通りの進化というわけだね。
これはあれだろうか? 今は壊れた人形だけど進化したらひび割れとか無くなっていくんだろうか?
それとか剣使いの人形とかなるんだろうか?
とにかく、進化できるならやらない理由はない! 強いて言うなら条件解放がまだの時だろうけど、そもそも進化の条件とか私知らんし。
「ということで開いてください進化メニュー!!」
ノリノリで私はステータス画面の進化可能の文字をポチった。
さぁ!これが私の可能性だ!!
――――――――――――――――
進化先を選んでください。
タップすることでその進化先の大まかな特徴の説明文を読むことが可能です。
【壊れかけの人形】
【壊れかけの殺戮人形】
【壊れかけの殺し狂いの人形】
【壊れかけの無慈悲な人形】
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なるほどー。私の進化先は4つか。
一番上の【壊れかけの人形】これは正当進化っぽいかな?
サビが取れて動きやすくなりそうだ。動くのに不便だと思ったこととかないけど。
で、次の【壊れかけの殺戮人形】はなにかな?とりあえず解説オープン。
――――――――――――――――
【壊れかけの殺戮人形】
人を殺すことを目的として作られた人形。その身は大きく破損しており、本来の性能はほとんど失われている。
しかし、その体に宿る殺意は本物だ。
進化解放条件:人型の生き物を100体以上討伐する。
――――――――――――――――
これは戦闘特化型に進化するってことかな? 昨日の大量粛清がこの進化条件を引き当てたみたいだ。
結構物騒なことが書かれている、が正直目をそらすことができない3番目の進化先候補でその存在が薄れているような気がする。
だってこれ、普通のゴブリンとかオークとか倒してもそのうち手に入る進化先の分岐でしょ?
ある意味普通の進化なのだ。
だが、明らかに異彩を放つ君はどんな説明文を見せてもらえるかな?
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【壊れかけの殺し狂い人形】
殺戮に快楽を覚える人形。その目は黒く、その手は赤く染まりきった殺戮人形の末路。
生き物を殺すこと以外の思考は持たず、それ以外にできることがない。
その身は大きく破損しており、本来の性能とは程遠い。
だが、その殺意だけはいくら体が滅びようとも薄れることはない。
進化解放条件:1日に100人以上の人間を処理する。
――――――――――――――――
ひえっ、これはやばい。なにがやばいって色々と設定がやばい。
多分二個目の殺戮人形の上位個体とかエリート個体とかそんなんだきっと。
「み、見なかったことにしましょう。あんまり物騒な種族についたらなにを言われるか分かったものじゃありません」
さて、次が現状進化できる最後の選択肢だ。
え〜っとなになに?
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【壊れかけの無慈悲な人形】
自分の目的のために立ちふさがるものを問答無用で斬りふせる人形。
味方に優しく敵に厳しくがモットー。
一度敵対すれば最後、壊れるまで戦う恐怖の人形。
その身は大きく破損しており、本来の性能を引き出せない。
進化解放条件:同じ行動をとり続ける。
:パーティメンバーに一度もダメージを与えたことがない。
:剣を使い敵対者を殲滅する。
:???
:???
:???
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ほうほう?何かこれは良さげではないかな?
ちょっとだけ怖い感じもあってなおかつ味方には優しい、これは某天空の城でみた巨人のような立ち位置!!?
進化解放条件を見る限り時間が経てば経つほど取得ができなくなるタイプの進化先だしこれにしよう。
ひとつ気になることがあるとしたら解放条件が半分「???」なことくらい。
それも解放されてしまえば問題なし!!
さあいくよ、進化!!
『進化を開始します。』
『個体名:メーフラは【錆つき壊れた人形】から【壊れかけの無慈悲な人形】へと進化しました。』
『進化に成功。』
『続いてBOSSエネミー化に成功しました。』
『進化に伴いステータスが変化しました。』
『進化に伴いスキルを習得します。』
『スキル【無慈悲】を取得しました。』
『スキル【頑強】を習得しました。』
『スキル【信念】を習得しました。』
『全ての傷を修復します。完了しました。』
『進化が完了しました。お疲れ様です。』
〈〈プレイ中の全ての方にお知らせします。プレイヤー名「メーフラ」により初めてのプレイヤーBOSSが誕生しました。これによりヘルプの項目にプレイヤーBOSSの項目を追加します。〉〉
えっ? 今なんて言った?
半分惚けて聞いていた私がその言葉を理解するのには少し時間がかかった。
って、ええええええええええええ!!
「確かに私は堅護と栞ちゃんのためにボスをやるって言いましたけど、言いましたけど!!」
まさかシステム公認のボスになってしまうとは……これは流石に、予想外。
序章?はこれにて終了です。
次回はオンラインもの名物、掲示板回でも挟もうかなって思っています。
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